30.今日から『風鈴火山』よ
王都に行く決意をしてヴィヴィに会いに行った。
「『風鈴火山』の皆さんっ!! ソフィを護ってやってくれっ。」
頭を下げお願いするジュスト。
「お断りよっ!!」
ええっ、王都に一緒に行ってくれるんじゃなかったの? 泣きそうな顔になってしまったけど次に続くヴィヴィの言葉。
「護って欲しいなんて冗談じゃないわ。私達は同じパーティーの対等のハンターとして迎え入れるのよ。ビシビシ鍛えて次に会ったときにはジュストなんか足元にも及ばないくらいに強くなったソフィを見せてあげるわ。」
「お・・・・・ おぅ・・・・・」
「ジュスト達も鍛えておきなさいっ。」
「わ、分かった。ソフィを預けていいんだな。」
「ええ、明日ハンターギルドへ書類を提出してくるわ。それで正式に『風鈴火山』のメンバーよ。」
対等のハンターとして迎え入れる、ジュストなんか足元にも及ばないぐらいに鍛える。
そうよ、私が護られているばかりじゃダメなのよ。私よりも小さな女の子、ヴィヴィを私が護ってあげなきゃいけないのよ。
孤児院に帰る前に『暁の空』が泊まっている宿に寄りリリアから渡された物。布に包まれた・・・・・ 子爵様から頂いた金貨が10枚、そのまま入っていた。
「こんなにたくさんもらえない。これはパーティーのみんなで分ける物じゃないの。」
え? と、リリアは怪訝そうな顔で私の顔を覗き込む。
「このお金は子爵様からのソフィの働きに対しての褒賞金よ。私達には受け取る権利はないわ。」
「でも、こんな大金持ち歩けないわよ。」
「長い旅に出るのよ。お金は必要よ。旅の準備だってしなきゃいけないし。明日はそのお金であなたの着替えや武器防具も新調しましょう。ヴィヴィみたいに軽く動けるような防具がいいんじゃないかしら。」
さすがに女の子のお買い物にジュスト達は一緒には来なかった。リリアと二人のお出掛けって久しぶりだったような気がする。その久しぶりもこれが最後になるかも、って考えちゃったらとっても寂しい。
私が孤児院に来たばかりの頃、お父さんが死んじゃって寂しくてリリアの手をぎゅっと握って離さなかった。いつも優しく握り返してくれたリリア。
リリアの手を取ってぎゅっと握ったら涙があふれてきた。
「今までありがとう、リリア、ごめんなさい。」
「何を謝ってるのか分からないけど、感謝は受け取っておくわ。」
「リリアはいつも私達に寄り添って面倒を見てくれたわ。私が町を離れたら下の子達の面倒を見れなくなってしまう。」
「そんなこと・・・ ソフィが考えなくても、『暁の空』がちゃんとやるわよ。ジュストはあてにならないかもしれないけどね。」
リリアが手をぎゅっと握り返してくれた。
「でもね、ソフィはもっと自分の事を考えなさい。ヴィヴィに誘われたときは嬉しかったんじゃないの。」
「う・・・・・ うん、」
「でしょ? 嬉しそうな顔してたもんね。」
「そ、そんなに?」
「うん、ヴィヴィって変な帽子やメガネで隠してるけど可愛い女の子だしね、ソフィが可愛がってあげたくなるのも分かるわ。」
「そ、そんなんじゃ・・・・・」
そんなんじゃない、って否定できない。孤児院のすぐ下のジャンやリュカは生意気盛りの男の子だし、女の子は小さい子しかいない。妹みたいで可愛いがってあげたいの。
でも、ヴィヴィはそんなこと微塵も思っていないんでしょうね。そんな思いは迷惑だと思われちゃうかも。私の心の奥底にしまっておきましょう。
防具屋さんなのかしら、ここは。
いつもは革製のローブ着てるんだけど、リリアが言うように動きにくいというのも事実。
ヴィヴィみたいな革製の防具が動きやすそう。胸から胴までを護る防具、籠手、脛当て、革製のブーツ。
私に合いそうな大きさの物を出してもらって実際に装着してみる。動きやすい。だけど防具の無い部分のスースーした感じ、二の腕とか太ももとか。ローブだと体全部が囲われて安心感があった。その安心感をとるか動きやすさをとるか、なんだけど、ここはヴィヴィとおそろいよね。
防具を購入して店を出れば、リリアが、こっちよ、と先に立って歩く。
「旅に出るんだから荷物を入れるリュックと水袋が欲しいわね。道具屋さんへ行きましょう。」
水袋はいらないかも。水魔法を使えるようになったし・・・ いえ、一応は持ちあるいたほうが無難かも。誰かに水を分けてあげなきゃならないこともあるし。うん、水袋も準備していきましょう。
大きなリュックを出されたんだけど、背負うのが私なんだから女の子でも背負えるような大きさにしてもらわなきゃ。服や下着を入れて持ち運ぶ程度だし、小さめでも大丈夫よ。水袋だって大きな物はいらないわ。
「最後は服屋さんね。ソフィの服って私のお下がりでだいぶくたびれちゃってるし。」
「私は気に入ってるわ。」
「せっかくお買い物に来てるんだし、新しい服を買いましょ。」
服屋さんといっても、古着屋さん。さすがに新品の服を買うとか、新しく服を作ってもらったりは、高すぎて手が出ない。いえ、もらった金貨があるんだから買えないことはないんだけど、孤児として生きてきて貧乏性が染みついて無駄遣いができないのよ。それはリリアも同じ事で、普通に古着屋さんで服を買ってる。
アレが可愛い、こっちがおしゃれ、とか言いながら私に服を合わせてくるリリア。
「ごめんなさい。可愛いとかおしゃれとかあまりよく分からないの。」
「いいのよ。私が選んであげるから。気にしないで。」
あれやこれやと合わせた服を私に見せて、
「この3着に決定。それとこっちの1着はさっき買った皮の防具の下に着る服。これは生地が厚くて丈夫だから、防具のないところをカバーできるわ。」
言われたとおりその上着とズボンを触ってみれば、ゴワゴワの手触りで、防具の隙間が安心できるかも。
「これ以上は旅の荷物が増えすぎるわ。後は旅先で必要に応じて買い物をした方がいいわね。」
約束の時刻よりもずいぶんと早くギルドに着いた。ヴィヴィ達はまだ来ていないと思うけど、中で待っていましょう。
「あ、リリアさん、ジュストさん達もう2階に来てますよ。」
ギルド内に入ればすぐにマリーさんに見つかった。って、ジュストがこんなに早く?
「まだ、ヴィヴィさん達は来てませんけど2階に上がっててください。」
2階への階段を上りながらリリアがつぶやく。
「ジュストがこんなに早く来るなんて。」
「うん、遅れて来ると思ってた。」
扉をノックすればギルドマスターの『入れ』の声がかかる。
会議用テーブルに向かい合って座るマスターとジュスト達。
「なんでジュストがこんなに早いのよ。」
「下の酒場で酒飲もうと思ってたら、マスターにつかまったんだよ。」
「今日は大事な話をするんだろう。酒なんか飲ませられん。」
「ありがとう、マスター。」
「まあ、ソフィとリリアが来たんだからもう一回説明するが、ソフィのランクは今はEだ。Dランクパーティー『風鈴火山』にEランクのソフィが加入するとDランクにちょっと届かないパーティーになる。『風鈴火山』に誰か一人でもCランクがいれば下がらないんだけどな。」
「そんなことになったら護衛依頼が請けられなくなる。ヴィヴィに迷惑がかかっちゃうわ。」
「マスター、なんとかならないの。」
「あ、ああ、そこでだ、」
扉がノックされマリーさんが『失礼します。』とヴィヴィ達も一緒に入ってきた。
「お、来たか。今リリアとも話していたんだが、ソフィが『風鈴火山』に加入してブランシュ商会の護衛に付くのならDにランクアップさせておかなきゃまずいだろって話なんだが。」
「じゃ、今からランクアップ審査なの?」
ええーっ、ランクアップ審査なんて、受かる気が全くしないんですけど。
「いや、ゴブリン討伐作戦での働きでのランクアップを承認する。」
「後方支援で治癒してただけじゃない。それだけでもいいの?」
「治癒魔法を使えるってだけでDランクで登録できる。それほどまでにハンターギルドでは治癒士が重宝されてるんだ。」
よかった~、ヴィヴィに治癒魔法を教わったおかげね。
えっ? ヴィヴィが身を乗り出してマスターを睨んでるわ。そ、そうよね、ヴィヴィだって治癒魔法でたくさんの人を助けたんだもの、ランクが上がってもおかしくないはずだわ。
「物欲しそうに見るんじゃない。ヴィヴィは治癒をヴァランティーヌ様の仕業ということにしたよな。今回はヴィヴィはゴブリン討伐作戦のポイント加算だけだからな。」
「なんですってーっ。」
「ヴィヴィ、我々はランクを上げたいわけじゃないんです。あまり目立たずに旅を続けましょう。」
ヴィ、ヴィヴィって一体何やってたのよ。みんなを助けたのに、ヴァランティーヌ様の仕業にしちゃったなんて。私が口添えをすれば・・・・・ いえ、テオさんに注意されて納得したような顔をしてるし、ここは何も言わないほうがいいような気がする。
「で、Dランクになったソフィの『風鈴火山』への加入の書類にパーティーリーダーのサインがほしい。」
マスターから渡された紙をじっくりと確認して、サインをしたヴィヴィ。私に向き直って手を差し出してきた。
「ようこそ『風鈴火山』へ。歓迎するわ。」
ヴィヴィの手を取り挨拶を返す。
「ありがとう、ヴィヴィ。よろしくお願いします。」
「私達はこれから対等の仲間なのよ。そんな堅苦しいしゃべり方はやめて。」
「そうね、うん、努力するわ。」
ブランシュ商会の護衛任務が明後日からだから『風鈴火山』に合流するのは明日からと言われた。今日は帰ったら荷物をリュックに詰め込んで明日は朝から出られるようにしておかないと。
朝のスッキリした目覚め。今日から私は『風鈴火山』のメンバーよ。『風鈴火山』のソフィとして活躍できるように頑張るわ。
『風鈴火山』の泊まってる宿の食堂でヴィヴィを見つけた。元気よく挨拶よ。
「おはようございます。今日からお願いします。」




