表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/104

29.ソフィの回想

 漁師町で漁師の娘に産まれながらも、海の幸のこんな調理法なんて知らなかった。

 お父さんやお母さんがもっと長生きしてくれてたら、こんなに美味しい料理のしかたも教えてくれてたのかもしれない? いえ、違うわね。漁師町でもこんな調理法なんて誰も知らないんじゃないかしら。

 そんな調理法を知っているなんて、もしかしたら高級料理店の娘なの?

 貴族様に対しても臆することなく相対(あいたい)する事ができるのも、貴族様御用達の料理店で貴族様とも親交が深かったのよ、きっと。

 貴族家のご令嬢がお忍びの旅かも、なんて思ってたけど、会話してても私達を見下すようなそぶりはないし、話してる内容は庶民そのものよ。ごく普通の女の子ね。強気すぎだけど。

 なんでそんな子がこんな旅をしてるの?

 まさか、後継者争い? 優秀な妹を妬んだいじわるな兄弟達に家を追い出されてしまったんだわ。それを見かねたお付きの者が護衛についているのね。



 このヴィヴィって女の子、初めて会ったときから驚きの連続だったわ。

 自分の体よりも大きなリュカを投げ飛ばしたときには男の子だと思ったのに、近くに寄ってみたら、なんか女の子っぽかった。あえて女の子であることを隠すように髪の毛を全て押し込めてすっぽりと目深に被った帽子、なんだか変な感じの色メガネ。こんなメガネ見た事も無いけど、どこかで売ってるのかしら。

 でも顔のつくりは可愛らしい女の子のつくりだから、女の子を隠すことに成功してるとは思えない。

 リュカより小さくて、10歳Dランクハンターよ、って・・・・・ もう私より上の存在だわ。

 7歳の時からランク外でハンター登録をして町中の雑仕事や、ジュストに連れられて薬草採取なんかをしてたけど・・・・・ まだあの頃はジュストより年上の孤児院出身のハンターがいたわね。

 そんな中でリリアに魔法の才能を見いだされて、10歳になってすぐにEランクで登録して『暁の空』に入って・・・・・ 2年以上、魔法が上達することもなく『暁の空』には私はいらないのかも、なんて思ってた。

 どう見ても10歳には見えない、もっと幼く見えるヴィヴィは、森から出てきたツノウサギにいち早く反応したばかりか、何も呪文を発せずに高威力の風の魔法を何発も撃ち何事もないような顔をしてた。

 私があの威力で風魔法を撃てば・・・・・ いえ、私の魔法にそんな威力が無いのは承知してるけど、私の全力の風魔法で多分2発ぐらいで魔力切れを起こす事が予想できてしまう。


 私が教えられてきたことは、

 体内の魔力で魔法を発動させるために呪文を唱える。

 呪文とはいっても、魔法を発動させるための精霊にお祈りを捧げるようなものだから、誰もが同じ言葉ではなくてもいい。

 それぞれが自分の魔力の属性と精霊に語りかける呪文がうまく適合すれば、魔法が発動する。


 ヴィヴィは全く違う事を言ってる。

 私達の周りにあるマナを感じることで魔法を発動するとか? マナってなんなの。初めて聞くし私達の廻りに常に存在するなんて、聞いたこともないわ。


 私の目の前で、火を灯し、風を起こし、水を呼び出し、土を操作した。この子は全ての精霊に愛されている。


 マナを感じて水を出してみて、ヴィヴィは言うけど・・・・・ マナが分からない。水の精霊は応えてくれない。そうよ、私の属性は風なの。水の精霊には好かれていないのよ。



 精霊の力はこの世界に満ちあふれている、その力で魔法を発動させる・・・・・ マナが理解出来ない私に精霊の力だと、ヴィヴィは表現を変えてきた。

 そうね、初めて聞く言葉よりも精霊の力が私の廻りに満ちている、って言われるとあるのかも、って気になる。

 その精霊の力を集めて得意の風魔法を試してみて。

 ヴィヴィの言葉に目をつむり突き出した拳の先に精霊の力を集める感じ・・・・・ 集まってきてるような気がする?


 「風よっ、敵を切り裂けっ!!」


 あまりの高威力の風の魔法が撃ち出され、森の木々が切り倒されていく。

 唖然としてそれを見てたけど、理解が追いつかない。私の魔法がこの状況を引き起こしたの?

 そんなことあるわけがない・・・・・わよね。そ、そうよ、私がこんな魔法を撃てるわけがないのよ。きっとヴィヴィよ。ヴィヴィが横から魔法を撃ったのよ。そうに違いないわ。


 そうじゃない、私の魔法だとヴィヴィは言うけど、あれほどの風が吹きすさぶ魔法なんて危険だわ。周りにいる人達を傷つけちゃう。そんな恐怖を抱えながら魔法を使うなんて。


 魔法を制御することを覚えなさい、と言われて精霊の力を集めすぎないように少しずつ魔法の力を強めるように意識して発動させる。

 凄い、風しか起こせなかった私が土や火の魔法まで・・・ これなら水の魔法も難なくできそうだわ。



 森に大きな竜巻? が発生してる。ヴィヴィ達は? 怪我人を運んできたジュスト達も森に戻っていった。大丈夫なの? 子供達を連れて避難したいけど怪我人を置いていけない。


 森から出てきたのはヴィヴィ達だけ? ジュスト達や他にもたくさんのハンターがいたって話だったけど・・・・・ まさか、さっきの竜巻に?

 ゴブリンの耳を集めてるって。よかった、みんな無事なのね。


 怪我人の前に座らされて手をかざせって・・・? 私には無理よ、光の精霊の力は限られた人しか使えないわ。

 ヴィヴィが私の手を取り怪我人にかざす。ヴィヴィの手から温かな何かが・・・ そう、何か、としか言いようのないものが私の手を通り抜けていく。怪我人が光に包まれ苦しそうな表情が安らいでいく。

 ヴィヴィは光の精霊にまで愛されているっていうの? いえ、精霊だけじゃない。ヴァランティーヌ様にも愛されているのよ。そうでなければ光の魔法まで使える理由が分からない。

 私の手を通り抜ける何かを感じろって、その何かが分からない。

 呪文、いえ、お祈りよ。ヴァランティーヌ様にお祈りを捧げればもしかしたら応えて頂けるかもしれない。


 ヴァランティーヌ様、この傷つき倒れた者をお救いください。この傷つき倒れた者をお救いください。この傷つき倒れた者をお救いください。


 ケガをしていた人の傷が癒えていく。

 もう大丈夫のようだわ。後ろを振り返ればそこにいるはずのヴィヴィがいなかった。他の怪我人の治癒をしてる?

 他の怪我人もどんどん治癒しろって、私は初心者なんですけど・・・ 

 見まわせば怪我人がたくさんいる。しょうがない、やるしかないのね。


 皆に感謝され無事に町に帰り着く事ができた。


 ギルドではギルドマスターに会議室に連れて行かれて、ゴブリン討伐作戦に参加しろって話になってる。

 治癒士が必要だと、 森の外で待機してくれるだけでいいと、 

 今日、怪我人達にお礼を言われて、嬉しかった。必要とされていることに気付いた。

 ヴィヴィは拒否してもいいと言ってくれたけど、私が必要とされる所で必要とされる事をしたい。

 よかった、ヴィヴィも納得してくれた。それどころか『風鈴火山』が私の護衛をしてくれる。こんな小さな女の子なのにヴィヴィがそばにいてくれるだけでとっても心強いわ。


 ゴブリン討伐作戦、ギルドマスターがヴィヴィ達を連れて行っちゃった。大竜巻を頼むとか聞こえたんだけど、まさか昨日の大竜巻もヴィヴィの仕業なの?


 今日も森の奥に大竜巻が発生してる。やっぱりヴィヴィだったんだわ。あの子はどれだけの規模の魔法を放てるの。限界ってないのかしら。


 ヴィヴィ達3人が森の中から走り出てきた。大人が全速で走ってるくらいの速度で走るヴィヴィ、後ろにはテオさんとニコさん走る。森を出ても速度を緩めずに私達に向かって走る。

 何かから逃げている? 助けなきゃ。森から何が出てきてもいいように風の魔法をいつでも撃てるようにイメージする。


 ヴィヴィ達の後ろから躍り出てきたのは  あれはなにっ!!

 恐怖で竦んだ、その一瞬で魔法のイメージがどこかへ飛んでしまった。


 私達の元へたどりついたヴィヴィが振り返りざま手をかざせば、私達全員を囲う光が輝いた。光はすぐに消え、迫り来るバケモノがはっきりと見える。

 ヴィヴィがバケモノに対峙するように立っている。

 だめっ、逃げてっ、ヴィヴィっ!!


 ガシーンッ!! バケモノが何かに激突した。激突した勢いそのままに後ろへ跳ね返った。ヴィヴィの魔法攻撃? 倒したの?

 ヴィヴィのすぐ前にバケモノの血みたいなのが・・・・・ 空中に浮いてる?

 さっきの光は防御魔法だったのね。逃げるためにここへ走ってきたんじゃなくて私達を護るために森から出てきてくれたのね。


 バケモノが起き上がり防御魔法をガンガンと殴る。風の魔法を撃っても防御魔法を越えられない。


 ヴィヴィは結界は光の魔法だと言った。光の矢を形成して射るイメージをしろって。


 できたわっ、結界の外側に光の矢が。後は撃ち出すだけよ。


 瞬時に体を捻ったバケモノに私が撃ち出した矢は避けられてしまった。

 後はヴィヴィがやってくれたけど、やっぱりヴィヴィは凄い。私が作った矢よりもはるかに大きな光の矢を何十本も撃ち出したのだから。



 ゴブリン討伐作戦は死人を出すこともなく無事に終わったんだけど・・・・・ 子爵様のお呼び出しって、無理よっ。私がお貴族様の前に出るなんて、何か粗相があってお怒りを受けてしまったらどうするの。

 そんなことになったらヴィヴィの旅に一緒についてこればいい、だなんて言われて気持ちがぐらつく。

 ヴィヴィはいろんな事を知ってる。魔法の扱い方も教えてくれる。一緒にに旅ができたならきっと楽しい旅ができると思う。でも、孤児院の小さな子達の面倒を見てあげないといけない。私が孤児院で一番のお姉さんなんだから。



 子爵様のお屋敷で部屋に通されて、目の前に置かれた金貨10枚っ!! え――っ、こ、これをどうしろっていうの?

 そんな大金が私の目の前に積まれて、何も考えられなくてただただ金貨をじっと見つづける。

 なんだかヴィヴィの声がしたような気がしたら、リリアがさっと金貨を手に取り懐に入れる。

 そ、そうよね。私一人がもらえるもんじゃないし、パーティーのみんなで分けるのよね。それでもたくさんありすぎるから、院長先生に渡して孤児院のためにお金を遣ってもらいましょう。



 ヴィヴィや子爵様の話がなんだかよく分からない。分からないうちに話が進んで、私が攫われてしまうかも? どこからどうしてそういう話になったのかが分からない。

 リリアはヴィヴィ達と王都に行けって・・・・・ 私がいなくなったら他の子達がさらわれたりしないの?


 孤児院の子供達はさらわれるような特異な能力を持った子はいないから大丈夫だとリリアは言ってた。聖女なんて噂になってる私が一番危険だって。だからヴィヴィと一緒に王都で子爵様のつてを頼って護ってもらいなさいと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ