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28.ソフィの胃袋を鷲づかみよっ!!

 眠い・・・・・ なんなの? 早く寝たはずなのに、ニコに無理矢理起こされて寝ぼけまなこで食堂の椅子に座らせられて、目の前には皿に盛られた食事が・・・・・

 ムリ、口に運んだだけで吐きそうよ。

 隣には心配そうに眺める・・・・・ ソフィ? あ、そうだ、ソフィと一緒のベッドで寝たのよね。私にお姉ちゃんがいたらきっとこんな感じで抱きしめてくれたんじゃないかしら。

 咲姫ちゃんが私のベッドにもぐり込んできたときは、抱きしめて寝かし付けてあげたわ。ソフィも孤児院の弟妹達をそんなふうに寝かしつけてあげたのね。そのおかげよね、私も凄く安心できた。

 熟睡しすぎで覚醒できてない感じ? 一番深い眠りの中から無理矢理起こされて脳が覚醒できてない状態・・・・・

 だめよ、私はハンターなのよ。危険を察知して即座に覚醒するぐらいでなければいけないのに・・・・・



 ふっと意識が覚醒した。揺れてる。この揺れが気持ちよくて、また眠りを誘いそうだけど、

 ここは?・・・・・ まだ暗い中、歩くテオに背負われている。そうだ、朝食を前にして意識を失ったみたい。意識を失ったというか、単なる二度寝ね。


 「ごめんなさい。テオ、自分で歩くわ。」

 「いえ、お疲れのよです。これから長い旅が始まります。私の背で少しでも休められるようなら、このままでお休み下さい。」

 「子供じゃないんだから、」

 「いえ、ヴィヴィはまだまだ小さな子供です。私達をもっと頼って下さい。」


 そんなことを言われてテオの背にギュッと抱きついたら、お父さんの匂いがしたような気がして涙がこぼれた。テオの背に顔を埋めて涙をぬぐっちゃった。ごめんね、テオ。



 ブランシュ商会のお店の前には馬車が並んでいた。

 『風鈴火山』のリーダーとして、そこまでテオに背負われたまま行くのはあり得ないわ。手前で降ろしてもらって、自らの足で歩く。


 「おはようございますっ!!」

 「おはようございます。ヴィヴィさん、朝は大丈夫でしたか。」


 大丈夫ではないけど、ここは大丈夫な顔をしておかなきゃいけないわねね。ベルトランさんに微塵も不安を感じさせちゃいけないわ。


 「ええ、大丈夫ですっ。大船に乗ったつもりでドンッと私におまかせください。」

 「頼もしい限りです。よろしくお願いしますね。」


 「おはようっ、護衛計画は昨日の打ち合わせどおりだ。町を出てしばらくは危険は無い。交代で体を休めておいてくれ。注意するのは街道が平地から谷あいに入るあたりだな。

 じゃあ、ベルトランさん、出発してもいいですか。」

 「はい、それでは出発しましょう。皆さん、馬車に乗ってください。」


 馬車の編成は5台のうち前から3台が1頭立て、後ろの2台が2頭立ての馬車、私達の馬は一番後ろの馬車を牽いている。私達の馬に負担をかけないようにと、私達の荷物が載った荷車は4台目の馬車に繋がれていた。しかも、布まで被せてあって雨に濡れないように気を遣ってくれている。あれって防水布よね。ありがとう、ベルトランさん。



 町を出る頃には明るくなって、同じように馬車で町を出て行く商人がチラホラと見える。他にもハンターや野良仕事の人達も活動を始めてるわ。みんな日の出と共に活動を始めてるのね。私も朝早く起きることに慣れなきゃいけないわね。

 朝ご飯を食べ損ねたおかげで馬車に揺られながらパンをかじってる。朝食に出されたパンとサラダをニコが持ってきてくれてた。お昼まで空腹を我慢することにならなくて助かったんだけど、この柔らかいパンもおあずけになっちゃうのね。きっとお昼は保存用の堅パン塩スープなのね。


 荷物がぎっしり詰まった馬車の中、一番後ろにわずかに座れる場所を確保してソフィと二人で馬車に揺られてる。


 「ねえ、ソフィは旅をしたことあるの。」

 「私は小さい頃に両親が死んじゃってず~っと孤児院にいたから、ルクエールから出たことがないの。だから今回が初めての旅よ。」

 「初めてなのに馬車は大丈夫なの。」


 そうよ、私が初めて馬車に乗った時には、胃の中の物を全て吐き出しちゃったのよ。あのまま死ぬのかと思っちゃったぐらいだったのに、ソフィは平然としてるわ。最初からお尻の下には毛布をたくさん敷いて揺れを軽減するように工夫はしてるけど、なんでそんな平気な顔してるのよっ。


 「馬車は慣れてないけど、お父さんが元気だった頃にいつも舟に乗せてもらってたからかな。揺れるのは大丈夫よ。」


 まさかの漁師の娘でしたかっ。私はこの揺れになれるまでに血反吐まで吐いたというのに、最初からこんな平気な顔をして馬車に乗っていられるなんて、うらやましいわっ。


 「そ、そうなの、乗り物に強かったなんて、羨ましいわ。」

 「あら、ヴィヴィだって平気そうじゃない。」

 「馬車に慣れるまでに、吐く物が無くなるまで吐いて血反吐まで吐いたのよっ。」

 「ご、ごめんなさい。そんなこと知らなくて。」

 「あ、いえ、ソフィが謝ることじゃないわ。」

 「そんなになってまで馬車を走らせなくても、」

 「しょうがなかったのよ。馬車を止められない事情もあったし・・・・・」


 なんの事情が、とは追求はされなかった。人それぞれいろんな事情があるしね、と納得してくれたみたい。



 ガラガラと進んでいた馬車が止まる。幌の隙間から後ろを覗けば、馬車は街道脇に寄って止まってる。後ろの馬車からはニコが降りてきたけど、緊迫した雰囲気じゃないし、単に休憩ね。

 御者も降りて木桶を持って走っていく。あ、川があるんだわ。でも水を汲んでえっちらおっちら運ぶのも大変でしょう。木桶だけ馬の前においてくれれば私が水魔法で水を満たしてあげるわ。


 「皆さん、昼休憩にしましょう。」

 「ベルトランさん、馬の前に桶を置いてくれれば私が水を出しますよ。」

 「ヴィヴィさんはそんなにたくさん水を出せるのですか。それなら次からはお願いしますよ。それよりもいりこ出汁スープをお願い出来るでしょうか。材料は私達の荷物から出して頂いて構いませんので。」

 「大丈夫です。私の荷物の材料もたっぷりありますから、今回はそこから出しましょう。」


 まずはかまどだわ。ここは旅に出たときの休憩場所なのか、そこかしこに石で積み上げたかまど状のものもある。だけど熱効率を考えたらもっとちゃんとしたかまどがいいわよね。ソフィも土魔法でかまどを作ったことあるし、ソフィにお願いしようかな。その間に私は材料を用意できる。


 「ソフィ、土魔法でかまどを作って欲しいの。鍋は・・・ あ、ベルトランさんが持ってきてくれた鍋が乗る程度のかまどでいいわ。」

 「え、まだ土魔法は慣れてないのよ。」

 「大丈夫、やるたびに慣れていくわ。」


 なんか言ってたみたいだけど、荷物に向かって走り出しちゃったし、戻ったら話を聞いてあげましょ。

 荷物を開きお目当てのいりことコンブそして塩よ。具材は・・・そうね、乾燥アオサにしましょう。

 荷物の隅っこに・・・・・ シイタケだわっ。夕ご飯のスープに干しシイタケの戻し汁を用意しましょう。


 「ソフィ、上出来よ。」


 ソフィの元へ戻ってみれば、ちゃんとしたかまどができあがっていた。


 「そ、そうかな。」


 照れたように、ありがと、って小さな声が聞こえたけど、私が褒めたことにたいしてなのかな。その小さな声ににっこり微笑んだら、頬を染めて目をそらされてしまったわ。


 「ソフィ、今から簡単な塩味のスープを作るんだけど見ていて。覚えておいて損は無いわよ。」


 私の言った事が理解出来なかったみたい。そうよね、ただの塩スープだしね。ちょっとぐらい手順が変わろうが、普通に塩味のスープなのよ。

 だけどっ、この味を知ったら、ソフィだってこの出汁スープのとりこよっ。しっかり見てなさい。


 水を張った鍋を火に掛ける。乾燥いりこの頭と内臓を取って鍋に入れたら次はコンブを入れる。いりことコンブの合わせ出汁よ。


 「その小魚とコンブって美味しいの?」


 こうやって一緒に茹でているんだから、一緒に食べる具材だと勘違いしてもおかしくはないわね。


 「これは食べないのよ。こうやって沸騰させると、この素材の出汁が出るの。出汁が出たらいりことコンブは取りだすわ。これ食べてもいいけど味がしないわよ。」


 『ホークアイ』の連中がさっきから私達のまわりに集まって珍しい物を見るような目を向けてるんだけど、もうちょっと廻りを警戒しなさいよ。魔物が襲ってきたらどうするのよっ。

 リーダー、サロモンが、食べてもいいわよ、に反応して手を伸ばしてきた。


 「へ~、そうなのか。ちょっと俺にくれよ。」


 味のなくなったいりこを口の中でモゴモゴしながら感想を述べる。


 「ふん、味はしないが食い物としてはアリだな。」


 それをきいた『ホークアイ』の他のメンバーが、俺も俺もと手を伸ばし全部食べられちゃった。ベルトランさんはそれが味がないのを知ってるから欲しがらなかったけど、御者さん達が物欲しそうにしてるのを『アレは美味しくないですよ。』とベルトランさんが教えてた。

 テオとニコがいないわね、と思ってたら、離れたところで周囲を警戒してるみたい。そうね、周囲の警戒は全員でやらなくても交代でやるものよね。



 さて塩で味を調えたら、アオサよ。乾燥アオサを入れてお湯の中で戻せば完成よ。


 完璧な塩味アオサスープの完成だわ。とくと堪能あれ~。


 「これはっ・・・・・ ウマいっ。」

 「タダの塩スープじゃなかったのか。」

 「一体何を入れたんだ?」


 『ホークアイ』大絶賛ね。御者さん達にも好評だし。ソフィは? 目を見開いて驚きを隠しきれない。いえ、驚きを隠す必要も無いんだけどね。


 「ソフィ、どうかしら、このスープ。」

 「タダの塩スープがこんなに美味しくなる方法を知ってたの?」

 「なんとなくこうしたら美味しくなるんじゃないかな~、と思ってやってみたんだけど、お気に召して頂けたかしら。」


 天使の笑顔でうなずくソフィ。


 「うん、すごく美味しい。」


 うん、ソフィの胃袋を鷲づかみよっ!!


 「旅の間は毎回このスープが味わえるのか。」


 『ホークアイ』の胃袋なんか知らないわよっ!!

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