26.ホークアイ
宿での朝食後のお茶を頂いているのんびりした時間を過ごしながら、明日からの旅に思いを馳せる。
旅に出ればこんなのんびりした時間は味わえないけど、いろんな所へ行ける、いろんな人と出会える、いろんな体験ができる、楽しみで今からドキドキしてるわ。
前世では旅に出たなんて記憶は・・・・・ 観光でちょっと出たぐらいかな。
この世界に生まれ変わってからも、あの塔の中から出ることもなかったな~。それが突然逃げ出すことになってルクエールにたどりついて、それがまた逃げ出すように旅に・・・・・ って、逃げ出してばかりじゃないっ!! 私には平穏な生活は期待できないのっ。
「おはようございます。今日からお願いします。」
朝の挨拶で現実に引き戻される。そこには旅の荷物を背負ったソフィが立ってた。
「あ・・・・・ ソフィ、おはようございます。」
「ヴィヴィ、大丈夫? ボーッとしてるわよ。」
「そうね、ちょっと考え事をしてただけよ。まずは座って、食事は?」
「朝食は食べてきたわ。」
「あ、じゃあお茶をどうぞ。」
ニコがお茶の用意をしてくれてる。
「ありがとうございます。ニコさんとテオさんでしたよね。『風鈴火山』に迎え入れていただいてありがとうございます。」
「ヴィヴィはテオ、ニコと呼んでいる。ソフィも呼び捨てで構わないぞ。」
「あ・・・、はい、努力します。それでテオさんとニコさんのヴィヴィとの関係がが分からないんです。」
「ああ、そうだな、親子には見えないしな。我々はヴィヴィを安全に目的地まで送り届けるための護衛だ。だからこのパーティーが危機に瀕する事があった場合、ヴィヴィを優先して護ることになる。」
「そんな言い方しないでっ。私達はソフィを仲間として迎え入れたのよ。誰が危険に陥っても私は全力で全員を護るわっ。」
「ヴィヴィ、護衛任務は理想ばかりを追っていられません。」
「そうよ、このパーティーでヴィヴィが護られなきゃいけない存在なら、私だってヴィヴィを護るわ。」
テオか感心したようにソフィを振り返るけど、
「違うでしょっ!!」
ニコが肩をすくめてる。
「ヴィヴィ、テオの頭の固さは変わりそうもないですよ。」
「そうね、それがソフィに伝染しないように祈るわ。」
ニコはもう充分に私の魔法を認めてくれてるのに、テオは私をいまだに庇護対象だと思ってるのがしゃくに障るんですけどっ。
まあ、それもこれからの旅で私の強さを思い知らせてあげるわ。
ベルトランさんのところにも行かなきゃいけないわね。ソフィが背負ってる荷物は、置いていけばいいわね。
「ソフィの旅の準備はバッチリのようね。今日はベルトランさんとソフィの顔合わせでブランシュ商会のお店に行くわ。その荷物は私達の部屋へ置いていきましょう。」
ブランシュ商会のお店に入った途端、聞こえた第一声が、
「聖女様っ!!」
ちょっとっ、誰? 大きな声でそんな呼び方されたら大迷惑よっ。
「まさか、ブランシュ商会の護衛依頼で一緒になれるとは・・・・・」
「あなた達っ!! その呼び方は迷惑よっ。ソフィって名前があるんだから、ソフィって呼んであげてっ。」
「あ、竜巻娘だ。」
「それはもっと大迷惑よっ!! 私のことはヴィヴィって呼びなさいっ!!」
「ヴィヴィさん、いきなり穏やかじゃない雰囲気ですね。今噂の竜巻娘はヴィヴィさんのことだったんですか。」
「ベルトランさんもその呼び方はしないでっ。」
「ああ、これは申し訳ない。お嫌でしたか。『ホークアイ』の皆さんもその呼び方をしないようにしてあげて下さい。
ヴィヴィさん、こちらは『ホークアイ』の皆さんです。10日ほど一緒に護衛について頂きます。」
20代半ばから30ぐらいの4人組のパーティーね。ランクはどのくらいなのかしら。
「お、俺達『ホークアイ』です。せいじょ、あ、えと、ソフィさん? でしたか。一緒に仕事させて頂けるなんて最高ですっ。」
「ちょっとっ、『風鈴火山』はソフィだけじゃないのよ。私がパーティーリーダーのヴィヴィ、そしてテオとニコ、最後にご存じのソフィよ。で、あなた達はなんて呼べばいいの。」
「え? 子供がリーダー?」
「よせ、エリク。よそのパーティーの内情に口出しするんじゃない。
失言があったようですまなかった。俺がCランクパーティー『ホークアイ』リーダーのサロモン、剣士だ。ジョエルとエリクが槍士、アラン、弓士だが近接で剣も使う。」
最初に聖女様呼びしてたのが一番若いアランね。で年長者のサロモンがリーダー、と。
「私達はテオとニコが剣士、私とソフィが魔法使い。Dランクパーティーよ。」
「Dだって? ウソだろ。あれほどの竜巻を起こして、聖女並みの治癒、ゴブリンキングを討伐する剣士のパーティーがDってあり得ないだろ。」
「気にしないで、ランクにこだわる気はないから。それで明日からの護衛計画は『ホークアイ』主導でお願い出来るのかしら。」
「俺達が計画を立てていいのか。」
「私達は駆け出しのハンターなのよ。先輩が後輩を指導してもらわなきゃ困るでしょ。」
「あ、ああ、分かった。俺達の護衛計画に従ってくれるということだな。」
「ええ、
テオ、ニコ、聞いといてちょうだい。
ソフィはこっちよ。」
ベルトランさんの前にソフィを押し出す。
「こちらが私達の新しい仲間、ソフィよ。
こちらが雇い主のベルトランさん。」
「あの、ソフィです。よろしくお願いします。」
「ブランシュ商会のベルトランです。こちらこそよろしくお願いします。旅先でのケガはソフィさんがいれば安心ですね。」
「ソフィは治癒だけじゃないですよ。何でも出来ますからね。」
「それは心強い。」
「そんな、あまり期待しないで下さい。」
さて、今日ここに来たのは出発の日程よね。予定通り明日でいいのかしら。『ホークアイ』がここに来て護衛計画を立てていたって事は、明日に決定みたいな気もするし。
「出発は明日でいいんですよね。」
「ええ、私はヴィヴィさんを待ってましたからね。ヴィヴィさんが出れるのなら明日で決定です。馬車と荷物の準備はできてます。」
「あ、私達も準備できてます。」
「そうですか、では明日の日の出とともに出発致します。そうだ、ヴィヴィさんは馬を二頭と荷車を持っていましたよね。その馬を貸して欲しいのですが。」
「いいですよ。今日中にこちらに連れて来ましょうか。」
「ええ、お願いします。荷車にはヴィヴィさん達の荷物を積んできて下さい。そのまま旅に馬で牽いていきましょう。」
ベルトランさんとの打ち合わせも終わって、護衛計画の打ち合わせよね。どうなってるかしら。
「もうベルトランさんとの話はいいのか。」
「ええ、護衛計画は大丈夫?」
「ああ、今回は5台の馬車の護衛だ。ソフィとヴィヴィを真ん中、3台目馬車に乗せる。そこが一番安全だろう。後方の馬車にテオと弓士のアランを配置して警戒をさせる。一番前の馬車には俺とジョエル、2台目にエリク、4台目にニコ、途中で配置を交代するかは、その時々で相談しよう。」
「私達を何もできない子供扱いしてないでしょうね。」
「安全な所に置いておきたいというのもあるんだが、女子供が乗ってるとな・・・ん~、何て言えばいいかな、つまりだ、よからぬ奴らを誘っちまうんだ。盗賊共がいたとして、いかつい男共が護衛についていれば二の足を踏むだろうが、女を見つけたら、これ幸いと襲って来るからな。魔物が相手ならそんなの通じないかもしれないが、まあおまえ達は馬車の中に隠れておけ。」
そ、そういう理由ならしょうがないわね。ちゃんとした護衛計画が立てられてるじゃない。『ホークアイ』侮れないわね。
『ホークアイ』と分かれた後は急いで宿に戻って、荷物を荷車に詰め込んで縛りつける。ソフィの荷物もちゃんと一緒に縛りつけといたわ。
馬に荷車を牽かせてベルトランさんの店に戻って馬を預ける。これで明日は身一つで来ればいいわね。
宿に戻って明日の朝食までの精算を済ませておいたほうがいいわね。朝のバタバタした時間にそんなことやってられないし。
夜明け前の早い時間の朝食を頼んでも快く引き受けてくれた。よかった、旅先では堅パン塩スープの食生活になっちゃうからね、普通の食事を目一杯堪能して出かけられるわ。
明日の朝は早いし、夕食を早めに摂って早寝をしましょう。




