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25.水魔法【水を差す】ですねっ!!

 最後の乾燥されたワカメをベルトランさんの馬車に積み込んで、ようやく港を後にする。ベルトランさんはお店に帰るんだけど、私達のためにハンターギルドへ寄ってくれた。


 「ありがとうございます。わざわざ送っていただいて。」

 「いえいえ、ヴィヴィさんのおかげでまた新たな商品が用意できたんです。送るぐらいはお安いご用ですよ。」


 ベルトランさんは新しい馬車も納車され、明後日には出発ができますと言ってた。今日、ソフィの件がまとまれば、私達も明後日の出発は問題はないわね。


 キルド内の受付に向かえば、まだ混み合う時間には早かったおかげで、受付嬢のマリーが気が付いて私達に駆けよってきた。


 「『暁の空』の皆さんはもう2階で待ってます。ご案内致します。」


 約束の時間より早めに着いたつもりだったけど、ソフィ達のほうがもっと早く来てたって事ね。

 案内された部屋にはギルドマスターもいてリリアと話していた。


 「お、来たか。今リリアとも話していたんだが、ソフィが『風鈴火山』に加入してブランシュ商会の護衛に付くのならDにランクアップさせておかなきゃまずいだろって話なんだが。」


 そういえば護衛の依頼を請けるには最低でもDランク以上、推奨がCランクパーティー以上だって言われてたわね。ベルトランさんもよく私達に護衛依頼を出したわね


 「じゃ、今からランクアップ審査なの?」

 「いや、ゴブリン討伐作戦での働きでのランクアップを承認する。」

 「後方支援で治癒してただけじゃない。それだけでもいいの?」

 「治癒魔法を使えるってだけでDランクで登録できる。それほどまでにハンターギルドでは治癒士が重宝されてるんだ。」


 えっ、それって私も? 私もなのねっ!! もしかして私はCランクにアップ?

 ギンッと丸眼鏡越しにマスターを睨みつけて、さあさあ、いらっしゃ~い。Cランクコールよっ!!


 「物欲しそうに見るんじゃない。ヴィヴィは治癒をヴァランティーヌ様の仕業ということにしたよな。今回はヴィヴィはゴブリン討伐作戦のポイント加算だけだからな。」

 「なんですってーっ。」

 「ヴィヴィ、我々はランクを上げたいわけじゃないんです。あまり目立たずに旅を続けましょう。」


 テオにいさめられたけど、なんか腑に落ちない。たしかに治癒に関しては、ヴァランティーヌ様に祈れば応えてくれると言って私がやったことにはなっていないけど、ゴブリン村長を討伐したのだって・・・・・ あれはテオの手柄になってるわね。

 そうだ、竜巻よ。あれは私がやった・・・・・ だ、だめよ、ただでさえ竜巻娘だなんてへんな異名が定着しそうなのに、それを自分から主張するなんてできないわっ。

 まあ、テオの言うとおりDランクのまま目立たないように旅を続けましょう。


 「で、Dランクになったソフィの『風鈴火山』への加入の書類にパーティーリーダーのサインがほしい。」


 紙を私に手渡してきた。え、私が書くの? って、そうよね私がリーダーだったわ。

 サインする前に確認しなきゃね。


 確かにその書類は、ソフィの『風鈴火山』へのパーティーメンバー登録用紙だった。内容を読んでも問題はなく、サインをしてギルドマスターに返す。

 そうしたらご挨拶ね。ソフィに向き直って、


 「ようこそ『風鈴火山』へ。歓迎するわ。」

 「ありがとう、ヴィヴィ。よろしくお願いします。」

 「私達はこれから対等の仲間なのよ。そんな堅苦しいしゃべり方はやめて。」

 「そうね、うん、努力するわ。

 リリア、今までありがとう。お姉さんがいたらこんな感じなのかなっていつも思ってた。」

 「何言ってるの、私は本当の妹だと思って接してきたつもりよ。遠く離れたって変わらないわ、ソフィは私の妹よ。」

 「ありがとう~、リリア~」


 感極まって涙ぐむソフィ。そこへジュスト。


 「じゃあ、俺がオマエラの一番の兄貴だなっ!!」


 ないわ~、このジュストの一言はよぶんだわ~ 、ソフィとリリアのお涙ちょうだいのシーンが台無しになる一言だったわ~。


 「ジュストなんか子供のまま図体だけが大きくなった一番の末弟じゃないのっ。」

 「なんだと~、ヴィヴィ~。」

 「うふっ」

 「あは、あははっ」


 「水を差すようで悪いが、『風鈴火山』はいつ発つんだ?」


 こ、このギルドマスター、いままで魔法なんか使ったことなかったはずなのに、


 「水魔法【水を差す】ですねっ!! いつからそんな高度な魔法を使えるようになったのよ。」

 「そんな魔法があるわけねーだろっ。いったいどんな効果があったってんだっ。」

 「場が一瞬にして冷え込んだわよっ。」

 「冷え込んだんなら願ってもないことだ。だらだらと無駄話をしている場合じゃないんだ。」


 せっかく盛り上がってたのに、まあしょうがないわね。ちゃちゃっと済ませて早く帰りたいという気持ちもあるし。


 「『風鈴火山』は王都のハンターギルドへ移籍という事で、ルクエール支部でのハンター登録からその後の功績、加算点数などの必要事項がこの封筒の中にしたためられている。もちろんソフィのこれまでの履歴と『風鈴火山』加入の件もだ。」

 「それって、」

 「言いたいことは分かる。ソフィが『風鈴火山』に加入する想定で書類作成をした。話がそういう流れだったしな。想定どおりに話が進んだんだから問題はないだろう。で、王都のハンターギルドへこの封筒を提出すればルクエール支部での功績が王都でも反映されるということだ。」

 「私が受け取ろう。」


 そうよね、そんな大事な物を私が持ち歩いて無くしたりしたら大変だわ。保管はテオにお願いしましょう。


 扉がノックされマリーが入ってきた。手にはトレーを持っている。


 「ソフィさんのハンター登録証です。ランクがD、所属パーティーが『風鈴火山』に変更されています。『風鈴火山』の皆さんは登録がルクエール支部になっております。王都のハンターギルドで移籍の手続きをしていただければ、新しい登録証が発行されます。」


 説明をしながらソフィに新しい金属タグを渡し、古い金属タグを受け取る。


 「『風鈴火山』の皆さんがルクエールにいらしてからそんなに長くはないんですが、旅立ってしまうとなると名残惜しいですね。どこの町へ行ったとしても、ここまでヴィヴィさんの噂が届くくらい活躍して下さい。」

 「ありがとう。でも私達は名を馳せるつもりは全くないわ。噂が届くなんて期待しないで。」

 「そうなんですか。その意に反して噂が駆け巡るのを期待してますよ。」


 にっこり笑って出ていったマリー。ちょっとー、へんな期待をされても困るわよ。いったいどんなことをすれば噂が駆け巡るって言うのよっ。私達はなんの事件もないような静かな旅を所望するわ。


 いつ出発するのかをギルドマスターがもう一度尋ねてきた。


 「あ、そうね、出発の件は明後日よ。ベルトランさんの準備が整うらしいから、待たせてはいけないと思うの。ソフィは大丈夫?」

 「着替えくらいならまとめてあるんだけど、テントとかは持ってないの。」

 「着替えだけあれば大丈夫よ。それじゃあ、明日から行動を共にしましょう。」


 ここで私達が王都へ向かう事を口止めしておくべきか、悩ましい選択なのよね。もし王都へ向かったとの情報があれば、私達を追いかけようとしても王都に向かって一直線に走るんじゃないかしら。ベルトランさんの旅は山方面へ向かったり海方面へ向かったりとジグザグに進む旅だし、どこかで鉢合わせすることも無さそうなのよね。

 ベルトランさんの護衛に付いたことだけを伏せておけばいいのかも。


 「もし私達の事を聞き出そうとする人が現れるようだったら、一旗揚げるために王都へ向かったとだけ伝えるようにして。決して商人の護衛についたという話はしないで。」

 「守秘義務があるしな、王都へ向かったことも喋らないぞ。」

 「あ、そうなの?」


 喋らないなら喋らないでも、なんとかなるのかしら。なんとかなるっていうより、なるようにしかならないって言うほうが正解かな。



 その場で解散してムーレヴリエ子爵邸へ向かう。そう、王都のギルドマスター宛の手紙を書いてもらわなきゃいけない。用意しておくなんて言ってたけど、受け取りに行った時にその場で書いてもらえるはずもないから、事前に伺って、いついつに頂きに伺いますので書いといて下さいね、と伝えておかなきゃいけないのよね。メンドウだわ、貴族って。


 子爵邸の門番に手紙の要件だけ伝えて帰るだけだと思っていたのに・・・・・

 ラザール様がお待ちかねだ、と門番に言われ、侍女に案内されて応接間のソファーに座ってる。

 なんでっ、私達が来ることは言ってないのに、お待ちかねって、いつから待ってたっていうのよっ!!


 「すまんな、待たせてしまったか。」

 「いえ、待つと言うほどではありません。でも門番が言ってました。『ラザール様がお待ちかねだ。』と、私達はラザール様をお待たせしていたのでしょうか。」

 「いや、そんなことはない。ただ、あの者達はまだ来ぬのか、と聞いたことがあってな、それで門番が私の言葉をそのように受け取ってしまったのだろう。手紙は早くに書いておいたから、早く渡したかっただけの話だ。これだ、持っていってくれ。」

 「あ、そうなんですか。ありがとうございます。まさか今日もらえると思っていませんでしたよ。」

 「書いておく、と約束した以上は私はその約束は守るぞ。王都のギルドマスターにこの手紙を読んでもらえば、おまえ達の力になってくれる貴族家とも繋がりが持てるように書いておいた。」

 「それが必要かは王都に着いてギルドマスターと相談の上、とのことでよろしいでしょうか。」

 「ああ、構わん。王都までの無事な旅を祈っておるぞ。」

 「ありがとうございます。王都に着きましたら手紙をお送り致しますね。」

 「いや、それには及ばない。冬になれば私も王都邸に向かうのでな。その時にギルドで指名依頼でも出すことにしよう。」


 地方の貴族が王都へ行くって、何しに行くのかしら。王様のご機嫌伺いみたいな物なの。日本の歴史でもなんかあったわよね。参勤交代とか、そんな感じの制度かしら。



 子爵邸からの帰り道、もう日も暮れかかってる。ベルトランさんのお店に寄ってたら帰りは夜遅くなっちゃうわね。明日ソフィと一緒に挨拶に行くことにしましょう。

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