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21.護衛依頼

 「私が雇っていた兵士が一人行方をくらませた。」


 は? 何を言い出したのかよくわかんない??

 その場にいた誰もが考え込んで沈黙する中、テオが口を開いた。


 「それは、我々に何か関係があるとでもおっしゃるのですか。」

 「関係がなければ全く問題はない。が、ヴァランティーヌ教国に向けて馬で走り去る者がいた、との情報が入っている。商人の情報だが、風体からほぼその兵士であろう。」


 ヴァランティーヌ教国へ向かって馬で駆けて行くなんて、敬虔な信者なのかしら。女神様にお祈りをしたいことができたんでしょうね。


 「まさか、その兵士が教国が放った密偵だったとでもおっしゃるのですか。」

 「その可能性は高い、と思っておる。どこにでももぐり込んでいると噂はあったが、まさか私の兵士に紛れ込んでいたとは。」


 み、密偵ってなんなのよ。なんの話が始まっちゃったのっ。


 「ヴィヴィ、人が集まり組織が大きくなれば陰で暗躍する者達がおのずと生まれてきます。教国にもそのような者達の存在は昔から噂されています。」

 「いや、噂ではとどまらぬ。洗脳された者達が神の名のもとに他国へ潜入し暗躍している。進んで教国と手を結び、暗部を利用している貴族共も少なからずいる、と聞いている。」


 ちょ、ちょっとまって。利用って、お屋敷の使用人をやってもらったりとか? じゃ、ないわよね。


 「利用って、何をさせるつもりですかっ。」

 「じゃまな貴族の排除・・・ まあ、暗殺だな。狙われそうな貴族達も腕の立つ騎士達をかかえているから、簡単に暗殺されることもないが。」

 「確かにそのような噂を聞いておりますが、本当に存在していたのですか。しかしヴィヴィやソフィには関係は無いようですが・・・」

 「奴らは誘拐にも手を染めている。能力の高そうな子供を誘拐し洗脳して構成員を増やしていると聞いている。ヴィヴィとソフィからは目を離さぬほうがいい。聖女などと人の噂に上るぐらいだからな。それほどまでの能力を秘めた子供が見つかったんだ。矢も盾もたまらず総本山に知らせに走ってしまったのだろうな。」


 リリアの悲鳴じみた声。


 「ソフィが攫われるんですかっ!! ラザール様は助けてくれないんですかっ。」

 「私の邸でかくまってもよいが、護りきれるかわからぬぞ。王都に行けば身を寄せられる人物を紹介できるが。」

 「どなたが助けてくれるのですかっ。」

 「それはここでは教えられん。そのお方も暗殺対象になり得るお方だからな。王都へ向かうというのであれば、王都のハンターギルドのマスターを尋ねればよい。あのギルドマスターなら信用ができる。」


 リリアがテオに訴えかける。


 「あなた達は旅の途中だって言ってたでしょ。ソフィを王都に連れて行って。

 ソフィ、あなたは王都でかくまってもらいなさい。」

 「そうか、王都に向けて旅の途中だったのか。それならギルドマスター宛の手紙を用意しよう。町を発つ前にここへ寄ってくれ。」

 「待って下さい、誰をどこまで信用していいのか私にはわかりません。ラザール様も今日初めて会ったばかりです。そのお話を信用してよろしいのでしょうか。」

 「ふむ、もっともな意見だな。小さな娘とはいえ、その疑り深さはこの先ヴィヴィ自身を助けることになるだろう。

 そうだ、情報を与えられてもまずはその情報の真贋を疑うことは大事だ。確かに私の言葉を信用しろと言っても、私の人となりを知らぬ者達では無理があるのもわかる。だが、私が紹介しようという王都のハンターギルドのマスターは信用に値する者だ。永きにわたりギルドマスターを務め外部組織の圧力を全てはねのけてきた女性だ。王でさえも一目置くと言われている。まずは王都でギルドマスターをたよればいいだろう。王都のハンターギルド所属となればうかつに手を出してくることもないだろうし、普通にハンター活動ができるかもしれぬぞ。」

 「ありがとうございます。それは私達に有益な情報だと理解出来ます。王都行きも検討してみます。」

 「そうか、ギルドマスターは・・・・ エルフだ、見た目は若い娘? なのだが老獪さを備えておる。本人の前で老獪などと、口が裂けても言ってはならんぞ。」


 え? エ、エルフですって―っ!! ファンタジーの王道、エルフに会えるのよっ。


 「行きますっ、王都っ。」

 「お・・・ おぉ、 手紙は用意しておく。町を出る前に寄ってくれ。」




 これは、ホントにソフィを連れていかなきゃ、いけなくなったって事ね。

 リリアは渋るソフィに言い聞かせてるし。


 「ソフィがこの町を離れたくないのもわかるんだけど、さらわれちゃったらどうするつもり。私達じゃ助けに行く力は無いわよ。」

 「でも・・・・・ 私がいなくなって孤児院の子供達がさらわれたら・・・・・」

 「あの子達は魔法なんて使えないし、秀でた能力があるわけじゃないわ。誰も攫おうなんて思わないわよ。でもソフィは聖女なんて噂まで立ってるのよ。」

 「ソフィ、ウジウジ考えていてもどうにもならないわ。私は王都に向かう決断をしたわ。この後馬車と旅の荷物をそろえたら、近日中に町を離れるわ。それまでにあなたも思いきった決断が必要よ。」


 ソフィとリリアは孤児院へ向かう道へ、私達は馬車を調達するためにその場から離れようとしたら、リリアが私の手を取って訴えてくる。


 「ソフィは必ず説得するから、絶対に黙って町を離れないでね。」


 リリアの言葉にコクコクとうなずいてその場を離れる。

 彼女達と離れて見えなくなったところで、ソフィに対してのテオの否定的な意見が。


 「ソフィを連れていくのには賛成はできません。」

 「なんてこと言うのよ。テオはソフィが嫌いなの。」

 「好きとか嫌いとかではなく、我々はヴィヴィの護衛です。護衛対象が増えることに反対なのです。」

 「私の事もそうだけど、ソフィもあなた達が護衛しなきゃならない存在ではないと思うわ。」


 そうよ、ソフィには光の魔法だと教えて、光の結界魔法の中から光の矢を撃ち出すことができたのよ。光の結界魔法だって簡単に習得できるはずよ。そうすれば人に頼らなくても自らの身を護ることぐらいはできるはずだわ。

 護衛護衛って、テオは少し私に対しても過保護すぎると思うのよね。もう少し放任主義になってもらいたいものだわ。



 馬車を調達するとなれば、あの商人さんよね。この町に来る前に街道上で狼の群れに襲われてたあの人・・・・・ そういえば名前聞いてなかったわね。お店の場所は聞いてるからすぐにでも店にいって、馬車を調達してもらいましょ。あの時助けてあげたんだし、少しぐらいおまけしてくれるかも。



 「これはようこそおいで下さいました。その節はありがとうございました。こうして私の店を尋ねて下さったのは何かご入り用な物がございましたか?」

 「ご入り用な物はあなたの名前よっ。なんて呼べばいいのか分からないじゃない。」

 「ヴィヴィ、失礼です。黙っていて下さい。交渉は私がします。」


 テオにたしなめられ後ろへ下げられたけど、テオだってその商人さんをどう呼べば分かってないじゃない。


 「これは大変失礼を致しました。助けて頂いたのに名乗りもしなかったとは、あの時はよほど慌てていたのですね。改めましてわたくし、ブランシュ商会の商会主のベルトランと申します。」


 商会ってあちこちにお店があっていろんな所に行って商売したりとか・・・・・ え、でも商会主がこんなとこにいるってどういうことなの。


 「商会主って本店でどっしり構えてたりしないの。」

 「普通はそう考えますが、私は地方の店を巡るのが好きなんですよ。本店は息子に任せて自由気ままに店巡りですよ。」


 自由気ままに旅をする商会主さん、好きなことができていいんだけど魔物や獣に襲われたり果ては盗賊だって出るんじゃないの? もう少し身の安全を考えるべきなんじゃないかしら。

 そんなことより馬車よ。テオ、早く馬車の話をしなさいよ。


 「ブランシュ商会では馬車は扱っているのか。すぐにでも手に入れたいのだが。」

 「馬車でございますか。荷物運搬用に二台の幌馬車を新調しておりますが、そのうちの一台でよろしければテオ様にお譲り致しますよ。」

 「それは助かる。幌馬車で何も問題はない。是非とも譲って欲しい。いくらで譲ってくれるのだ。」

 「・・・・・条件を出させて頂いてもよろしいでしょうか。」

 「条件とは。」

 「テオさん達は旅に出るつもりで馬車をご所望なのでしょう。」

 「ああ、そのつもりだ。」

 「私も町や村をを巡りながら王都の本店に向かいます。その間の商隊の護衛をお願いできないでしょうか。王都までの護衛依頼完了の後、その幌馬車を一台さしあげます。もちろん王都までの護衛の報酬はギルドを通して相場にのっとった額を約束します。」


 えーっ!! なになに、旅の間に護衛の仕事でお金をもらえる上に最後には馬車までもらえちゃうの? テオ、そのお話受けなさいよっ。

 一人で決めて返事をすることに躊躇したテオ、私を振り返った。

 私の意見を聞こうとでも思ったの? いいわ、私が返事をするわ。


 「その依頼、『風鈴火山』が請けましょう。」

 「待って下さい、護衛依頼ということは最短で目的地に向かう訳にはいかなくなりますよ。」

 「そんなに急いで行かなくたってのんびり旅を楽しめばいいのよ。私の旅はまだ始まったばかりなんだから。」


 「請けていただけますか。ありがとうございます。出発は馬車の納車待ちだったのですが、明日納車できるとの連絡が来まして、ハンターギルドへ護衛依頼を出しに行くところだったのですよ。皆さんもご一緒に今からハンターギルドへ行きましょう。『風鈴火山』さんでしたかな、一緒に行けばブランシュ商会からの指名依頼を『風鈴火山』に出す手続きが早くすみそうです。」



 ブランシュ商会の馬車に揺られてハンターギルドに向かう間、ベルトランさんが王都に向かう予定を話してくれる。


 「この町は漁師町ですからね、魚の干物を仕入れて内陸の町や村を訪ねます。干物を売ったら内陸でなければ買えないような物を買い付けて、また海辺の町を目指します。そんな行商をしながら王都を目指すのです。」

 「その旅で寄る村にガエル村は含まれているのか。」

 「ほう、ガエル村をご存じですか。王都に近い村ではありますが、旅の途中に寄るような場所ではない寂れた村ですよ。王都に近いおかげで、若者は皆王都に出稼ぎに出てしまいますしね。」


 私達がこれから向かおうとしてる新天地って、そんな田舎なの。若者がいない年寄りばかりの村でやっていけるのかしら。

 でも王都が近いのなら、王都とガエル村とで生活の拠点を二ヶ所用意してもいいわね。

 それも王都への旅が終わってから考えましょ。先のことを今から思い悩んでもしょうがないわ。



 「あら、ブランシュ商会さん。今日は『風鈴火山』のみなさんとご一緒なんですね。」


 受付でマリーがいち早く声を掛けてきた。っていうか、この時間はギルド内は人もまばらで受付嬢も暇そうだったし。


 「ええ、『風鈴火山』さんに護衛依頼をお願いしたら快く引き受けて下さったので、こちらへ指名依頼の手続きに伺った次第です。」

 「え? 護衛依頼ですか? どちらかへお出掛けになるんでしょうか。」

 「いつもの行商の旅ですよ。」

 「すると、王都まで?」

 「ええ、目的地は王都本店ですね。」

 「『風鈴火山』さんはこの町に戻ってきてくれるんですか~。」


 私達の事ですかっ。いやもうここはビシッと、帰りませんよ宣言しておかなきゃね。と思ってたらテオがビシッと言ってくれたわ。


 「いや、我々は旅の途中でこの町に寄っただけだ。それに我々にも王都へ向かう用事もできてしまったしな。」

 「ちょ、ちょっと待って下さい。こちらの部屋へお願いします。」


 またもや応接室ね。マリーがベルトランさんとテオに紙を渡して説明してる。


 「こちらがブランシュ商会さんの依頼用紙です。何度も依頼をされてるから説明は不要ですね。

 これがテオさんの依頼受注用紙です。分かるとこだけ書いておいて下さい。今ギルドマスターを呼んできます。」


 パタパタとマリーが出て行っちゃった。なんなの、いったい。依頼の発注と受注の場にギルドマスターが必要ってどういうことよ。


 「どうしたんでしょう。発注用紙と受注用紙、必要事項を埋めるだけなのに。ギルドマスターを呼びに行くとは。

 まあ、項目を埋めておきましょうか。テオさんは書き方は承知しておりますか。」

 「見たところ問題はありませんが、護衛に付くハンターの人数が我々3人だけじゃなくもう一人増えるかもしれません。」

 「ああ、それは構いませんよ。もう3~4人護衛を頼むつもりでしたからね。この町で集まらなければ次の町でといった感じで護衛を雇いながら旅をするつもりです。」


 ということは、ソフィを入れての私達4人がずっと王都までの護衛について、町から町への移動時に入れ替わり立ち替わりで護衛が入れ替わるって事? それって安全なの。変な奴らに引っかかったりしないのかしら。

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