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20.何を言い出したのかよくわかんない

 門前の兵に挨拶をするのは、当然テオよね。私が話しかけたら、大人を差し置いてなんだこの子供は、って事になるし、一番無難な選択じゃないかしら。


 「ムーレヴリエ子爵様のお呼び出しでヴィヴィとソフィをお連れしました。私は付き添いのテオです。子爵様にお目通り願えるでしょうか。」

 「え? その者達が来たらすぐに通せと聞いているが、明日以降ではなかったのか。」

 「子爵様のご都合が付かなければ、出直してまいります。」

 「あ、待ってくれ。今確認をしてくる。」


 一人が門の中に駆け込んでいった。

 うわ~、これけっこう待たされるパターンじゃない? と思ってたらすぐにさっきの門番がもう一人を連れて出てきた。


 「確かにこの二人の娘達だ。」


 え? 私達を知ってるの? 誰だっけ、と考えていたらソフィが耳打ちして教えてくれた。


 「ゴブリン討伐の時の騎士様よ。」


 あ~、あのやな感じでじろじろと私達を見ていった人達のうちの一人なのね。


 「ラザール様は執務中で少し待つかもしれないが、中に入ってくれ。」

 「いえ、執務中をお邪魔しては申し訳ありません。明日出直してまいりましょう。」

 「待て、ラザール様がその娘達に会いたがっておられる。出直さずとも、今お会いしてほしい。」


 帰るといっても引き止められちゃうんだから、付いて行くしかないわね。門を抜けた詰め所みたいなとこで武器類を預けるように言われて全員が丸腰状態になるんだけど、私は魔法使いだから武器の有る無しは関係無いんだけど・・・ まあ、腰に吊した短剣は預けておきましょ。

 騎士に邸の中まで案内されて歩いていると、小走りで走ってくるおじさん、その後ろには家礼っぽい人が『お待ちくださいっ、ラザール様。』と言いながら追い縋ってくる。

 このおじさんがムーレヴリエ子爵なのね。子爵様相手の平民ということで私達からご挨拶しなきゃいけないわよね。

 と、思ってたのにっ。


 「おまえ達が聖女と『風鈴火山』の者達か。聖女はそちらの娘だな。」


 挨拶する暇も与えずになんなのよ、このおじさんは。この勢いに押されてソフィは後じさってるし。

 だけどソフィを指さして聖女だと言ってくるあたり、騎士からの情報は正しく伝わっているようだわ。まあ、ニット帽にダサメガネの私を見て、誰も聖女だとは思わないんでしょうけど。聖女以前に女の子と認識されていない可能性もあるわね。

 それよりも、挨拶よ。片膝をつき頭を垂れて口上を述べる。平民が貴族に対しての挨拶としては充分じゃないかしら。それを真似するようにリリアとソフィには言っておいたから、全員がその場に跪く。


 「ラザール・ムーレヴリエ子爵様とお見受け致します。ハンターパーティー『風鈴火山』リーダー、ヴィヴィと申します。隣はパーティー『暁の空』のソフィ、その他は付き添いにございます。」

 「あ、いや、これは丁寧なご挨拶痛み入る。私がラザール・ムーレヴリエである。ほう、ヴィヴィとやら、貴族家の娘御か?」

 「な、何をおっしゃいます。わたくしは貴族様とは縁もゆかりもございません。平民の娘にございます。」

 「う、そうか、すまなかった。この件はもう話題にはすまい。」


 いきなり一目で貴族家の子女とかバレてんですけどっ。何がいけなかったの。子爵様に堂々としてたからなの。しかも子爵様のご厚意で、分かってるんだけど話題にはしないよ、と言われちゃってるんですけど。


 「こんなとこで挨拶をさせてすまなかった。

 おい、アルフォンス、客人達をご案内しろ。」


 前に出てきたおじさんが腰を折って挨拶をする。


 「このようなところでご挨拶をさせてしまいまして、誠に申し訳ございません。家礼のアルフォンスと申します。皆様、ご案内致します。こちらへどうぞ。」


 家礼さんが先に立って歩き始めたので、皆が後に付いて歩く。子爵様まで・・・・・

 もっと堂々と一番前を歩くもんじゃないのかしら。しかも家礼さんに小言を言われてるし。


 「これというのもラザール様がお客様の元へ走ってしまわれたのがいけなかったのですよ。子爵たる者、部屋でどっしり構えていらっしゃればよろしいものを、」

 「いや、しかし、話題の竜巻娘と聖女だぞ。早く会ってみたいと思うだろう。」


 ちょっとーっ!! その不穏なネーミングは何。しかも話題って・・・・・

 町中歩いてると後ろ指を指されて、竜巻娘とか噂されてるのっ。こ、これは、早急に町を出るようにしましょう。この邸を出たら馬車を探しに行くわ。誰がなんと言っても町を出るわ。


 応接間に通されて皆が席に着けば、侍女がポットとカップを持って入ってきた。全員にお茶を配り侍女が出ていくのと入れ替わりに、家礼さんが布をかぶせたトレーを恭しく掲げて入ってきた。

 げ、ゲンナマよっ。あの布の盛り上がりはどんだけあるのっ。


 子爵様の前に置かれたトレー、被せられた布を取り払ってのたまう。


 「今回のゴブリン討伐作戦において、そなた達の竜巻の効果、治癒の効果、どちらも多大なる成果を上げたと聞き及んでいる。この地を治める領主として褒賞を授与する。聖女並びに竜巻娘、」

 「竜巻娘ではございませんっ。ヴィヴィでございますっ。そして、ソフィも聖女などと名乗ったことはございませんっ。」


 私の完全否定に押されたのか、子爵様はどもりながらも言い直してくれた。


 「う、あ、す、すまぬ。そのように聞き及んでいたのでな、そのまま口から出てしまった。で、では、ヴィヴィ並びにソフィ、このたびの働きの褒賞としてそれぞれに100万ゴルビーを授与する。」

 「ありがとうございますっ!!」

 「え? 私が100万ゴルビー?・・・・・」


 その金額を聞いて驚き、お礼も言えずに固まってしまったソフィ。まさか、もらえません、とか言い出さないわよね。


 「ソフィはそれだけの事をやったわ。褒賞は胸をはって受け取るべきよ。」

 「うむ、そうだな。巷では聖女だとの噂になるほど、怪我人を治癒したそうではないか。充分に褒賞に値する働きである。」

 「あ、ありがとうございます。」


 布に載せられた10枚ずつの金貨が私とソフィの前に置かれる。こんな物を目の前に置きっぱなしも落ち着かないし、テオの前に布ごと金貨を押し出す。テオは布で金貨をくるみ懐にしまい込んでくれた。

 ソフィは? まだ金貨を凝視して固まっていた。


 「ソフィ、リリアにしまってもらいなさい。そんなのが目の前にあったら落ち着かないでしょ。」


 それを聞いたリリアがすぐに・・・ 慌てた感じで動き、金貨を包みしまい込む。ちょっと手元がおぼつかなかったけど、なんとか無事に懐へしまい込めたわね。


 「さて、我が騎士達から報告を受けているのだが、竜巻の魔法が得意だそうだな。見せてはもらう事は可能だろうか。」

 「あの竜巻を見せるためだけにここで再現するのは、あまりにも危険です。そしてソフィの治癒魔法に関しても、治せるのかを確認するために誰かを傷つけるような行為は人道的にいかがなものかと思います。」

 「そうか、見れぬか。確かに森に現れた竜巻は凄かった。あんな物を再現されたら町が崩壊してしまうが、小さな竜巻はできぬか。」


 小さな竜巻なら、手のひらの上で巻き上げる程度のものを発生させればいいのかな。手乗り文鳥ならぬ手乗り竜巻ねっ。

 だけど、竜巻って土埃や木の葉を巻き上げてるから見えるのであって、手のひらの上で風が渦を巻いていても見えないんじゃないかな? 紙吹雪でもあればいいんだけど。子爵様のお屋敷だし捨てるような紙くずもあるかしら。


 「子爵様、捨ててもよい紙くずなどはございますでしょうか。」

 「ラザールと呼んでもらって構わぬぞ。

 アルフォンス、執務室のくずかごに紙が捨ててある。それを持ってきてくれ。」


 執務室は近かったようで、家礼さんはすぐに戻ってきた。しかもくずかごごと持って。

 その中から一枚の紙を取り出して、小さくちぎって紙吹雪にする。


 「そんな小さな紙片で何をしようとしてるのだ。」

 「部屋の中で風が渦を巻いても何も見えませんから、見えるようにする工夫です。」


 では、手のひらの上のマナに風を回転させるイメージ、ゆっくりと空気が回転を始める。徐々に回転を速めながらも大きくは育てない。小さなままで手のひらの上で竜巻の完成。風が回っているだけで竜巻とは見えないそれをテーブルの紙吹雪のうえに放てば、紙吹雪を巻き上げグルグルと回り誰の目にも認識されるようになった。


 「おおーっ!! 凄いぞ。そうか、風だけでは見えぬのか。」

 「いかがでしょう。ラザール様。」

 「これは、すばらしい。パーティー会場での余興として、この紙片をまき散らすのも面白いかもしれぬ。」


 それって普通に紙吹雪の使用方法でしょうっ。紙吹雪要員としてパーティーに呼ばれるなんて嫌よっ。


 「うむ、面白い物を見せてもらった。聖女殿の治癒に関しては誰かをケガさせるわけにもいかんな。」


 いかんな、とか言いながら家礼さんを振り返ってるあたり、おまえがケガをしてみろとでも言いたそうだわ。いい領主様じゃなかったのっ。


 「私はケガをするのは嫌ですよっ。そんな益体もないことやりませんよっ。」


 そりゃそうよね。好き好んで痛い目に遭いたい人なんて・・・・・ い、いないはずよ。


 「ケガをしろとは言っておらぬであろう。しかし、そんな時に得てして事故は起こりやすいものだ。」

 「事故などと、あわて者のラザール様がそうならないか心配です。」

 「うむ、そうだな。そうならぬよう気をつけよう。

 さて、ヴィヴィ、ソフィ、ここからが本題だ。」


 でたわね。褒賞金を渡すだけならギルドマスターに託せばよかったものを、ここまで呼びつけて顔つなぎをしたって事は、私達にラザール・ムーレヴリエ子爵の家来になりなさいと迫るつもりなのね。

 ソフィは子爵家に仕えたいとは言ってなかったけど、条件がよかったらここで働きたくなったりするのかしら。もしそうなら私が交渉して、いい条件を引っ張り出してあげるわ。


 「私が雇っていた兵士が一人行方をくらませた。」


 は? 何を言い出したのかよくわかんない??

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