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18.撤収

 森の中のゴブリン残党狩りグループが、入れ替わり立ち替わり討伐証明部位を持って出てきては戻っていく。時折、棍棒で殴られたハンターが治癒を受けに来るぐらいで危険な魔物はいないみたい。

 多分ゴブリン以外の魔物はゴブリン村長に追われたり狩られたりして、数を減らしたのかな。


 でも、この状況で討伐証明部位って必要? こんな大量に持ってこられて臭うんですけどっ。

 ゴブリンの耳が詰め込まれているであろう袋から緑色の血がにじみ出て、なんとも言えない臭いがあたり一帯に漂っている。


 「マスター、こんな団体での作戦で討伐証明部位って必要なのっ。」

 「ゴブリンは使える素材が無いからな、討伐証明部位が唯一金になるんだ。だから皆袋詰めにして持ってくるんだ。ほら、袋にパーティー名が書いてあるだろう。」

 「それじゃあ竜巻で巻き上げられたゴブリンの耳はどうなるのよ。私は取りにい行かないわよ。」

 「それは、ギルド職員がちゃんとやってくれてる。ほら、あっちの袋に『風鈴火山』と書いてあるだろう。」


 マスターの指し示す先の袋にたしかに『風鈴火山』の名があった。袋が丸々と膨れ上がっている。

 ギルド職員ってそんな事までやらなきゃいけないの? けっこうハードな仕事だったのね。


 袋を持った人が森から出てきた。


 「マスター、『風鈴火山』の分はこれでおしまいですね。後は森に逃げ込んだゴブリン共をハンター達が狩ってるぐらいです。職員組は皆引き上げてきます。」

 「そうか、『風鈴火山』の分から数量を数えて土に埋めていくか。それが終わったら順次他のパーティー分も勘定たのむ。」

 「ちょっと待って、焼却処分しないと臭うわよ。」

 「そこまでの魔力持ちはいねえんだよな。 ん? ヴィヴィがやってくれるのか? それなら助かるんだが。」

 「そのくらいなら手伝うわよ。数えるのは絶対にやらないけど。」


 そうよ、あんな血の滴るゴブリンの耳なんか触りたくも無いわ。臭うし・・・・・


 ・・・・・ 血が滴る?・・・・・ 乾燥させてしまえばよくない? そうよ、干し椎茸を作った時みたいに、水分を取り出す? やってみましょう。


 『風鈴火山』の名が書かれた袋の前で・・・・・ これをそのまま乾燥させるのはまずいような気がする。袋の中の塊のまま乾燥して固まってしまったら、数えられなくなるんじゃないかしら。

 ギルド職員さんにお願いして、袋の中身を地面に広げてもらう。


 地面に散乱しているゴブリンの耳、そのまわりのマナにイメージを送る。水分移動魔法ね。


 水魔法で水を呼び出すんだけど~、ゴブリンの耳の水分を~、呼び出すっ。 

 空中に呼び出された水の塊が、バシャッと地面に落ち土に吸い込まれていく。散乱してたゴブリンの耳はカラッカラに乾いて、手で持ってもばっちい感じじゃ無くなったけど、私は持たないわよ。


 「これは凄い。一瞬で乾燥させるなんて一体どういう魔法なんだ? 見た事も無いぞ。」


 マスターもギルド職員も驚いてるけど、水を呼び出すだけの普通の水魔法なんですけど。


 「普通に水魔法よ。水を呼び出す元をゴブリンの耳にしただけよ。」

 「そんな簡単な事なのか? じゃあ、向かってくる魔物にその魔法を使えば突然干からびるのか?」

 「あ、それいいわね。新しい攻撃魔法になるわ。」


 考えてもいなかったけど、魔物だけじゃなく人に向かって発動させたら死んじゃうじゃない。人がいる方向に向けてやらないように、注意しなきゃ。



 その後もハンター達がゴブリンの耳が詰まった袋を持ってくる。森に逃げ込んだ残党狩りだから量はそれほど多くは無い。

 けど、ギルド職員さん達の訴えるような眼差し・・・・・  分かってるわよっ、乾燥させろって言いたいんでしょっ。


 乾燥、乾燥、乾燥、乾燥、乾燥 数え終わった分を、焼却、焼却、焼却、焼却、焼却


 「いや~、これは助かったよ。手が汚れなくて済んだし、穴掘って埋める手間も省けた。『風鈴火山』への報酬は、ちょっとだけ色付けておくよ。」


 マスターも、ちょっとだけだなんてみみっちいわねっ。たっぷり付けときなさいよっ。とは言いませんよ、私は。ギルドも今回のゴブリン討伐隊にずいぶんとお金がかかるでしょうし、無理は言わないようにしましょう。


 ソフィ達と遅めの昼休憩で、塩スープをすすりながら堅いパンをかじっていた。一日だけの討伐の仕事なんだから、こんな堅パンじゃなくて美味しそうなお弁当を作って持ってこればよかったわ、と思っても後の祭り。塩スープに堅パンを浸して、ガジガジとかじる。

 そんなみすぼらしい食事をしているのを横目に見ながら、森から出てきた騎士達が私達をじろじろと見ながら通り過ぎていく。ひそひそと声を潜めて会話してたんだけど、ヤな感じ―――っ!!


 あれ? 昼休憩に来たんじゃなくて町に向かって歩き去る? もう帰っちゃうつもりなの。ハンター達はまだお仕事してるのにっ。

 マスターが騎士達にかけよる。そうよね、まだゴブリン討伐終わってないんだし、引き留めるわよね。


 「騎士様方、本日はありがとうございました。領主様にも後日お礼に伺います。お気を付けてお帰り下さい。」


 なんなのよ、ろくに働いていないじゃない、そいつら。もう帰るのっ。最初から来なくてもよかったんじゃないのっ。


 ご挨拶を済ませたマスターが戻ってきた。


 「あんな働きの悪い連中に腰が低すぎよっ。もっと働けって言ってもよかったんじゃないのっ。」

 「なっなっ、何を言ってるんだ。貴族家のお抱え騎士隊だぞ。貴族家のために働く方々だ。平民のために来ているわけじゃないんだぞ。」

 「貴族は平民のために騎士や兵士を動かさなきゃいけないと思うわ。統治する領地が潤うのは平民が働いてくれるからだと理解していないのかしら。」

 「そうかもしれないが、今回はゴブリン討伐だ。騎士や兵士が働き過ぎたらハンター達の取り分が減っちまうだろ。このくらいがちょうどいいんだよ。ゴブリン討伐にかかる費用は、ギルドだけじゃなくて領主様も負担してくれてるしな。」

 「えーっ、そうだったの。も、もしかして、すごく平民思いの良い領主様だったりする?」

 「ああ、そうだな。俺はいい領主様だと思うよ。」


 へ~、そうなんだ。平民に親しまれている領主か。町も活気があったし、ひとえに領主様のおかげなのかしら。

 もう少しぐらいこの町に長居してもいいかもしれないわね。テオとニコがどう言うか分からないけど。




 「ねえ、ヴィヴィ、もう怪我人が出そうもないみたいだけど、まだ私達ここにいなきゃいけないのかな。」


 ソフィが帰りたいみたいな事を言い出した。かくいう私も・・・・・ 帰りたい。

 そう、もう重傷者が運ばれてくる事もなく、さっきまで棍棒で殴られた人がたまに森から出て来る程度だったのが、全く怪我人が来なくなった。耳を詰めた袋を持ってくる人もいないし、もうゴブリンいないんじゃない?

 暇つぶしにハンティングしたくっても、これだけ大人数のハンターが森に入って荒らし回ってる状態で獲物が人前に出てくるわけもなく、暇を持て余しちゃってるのよね。


 「もう討伐作戦は終了してもよさそうよね。

 テオ、もう帰ってもいいと思う?」

 「マスターに聞いてきましょう。」


 テオがマスターと連れだって戻ってきた。


 「思っていたよりも早く討伐作戦が終わった。本来ならここで野営しながら討伐を続行するつもりだったんだがな、1日で終わっちまった。ヴィヴィの竜巻のおかげだ、感謝するよ。ハンター達へはギルド職員が撤収を呼びかけにいってる。そろそろ森から出てくるだろう。もう帰ってもいいぞ。」

 「ソフィも帰ってもいいんでしょうね。」

 「ソフィか、う~ん・・・ もう治癒魔法は必要はないか。『暁の空』も撤収していいぞ。」


 ギルドマスターの許可も出たわ。マスターの気が変わらないうちに帰りましょう。ソフィの手を取って歩き出せば『暁の空』がついてくると思ったんだけど・・・・・

 若干1名、どよよよよ~~~ん、と頭の上に暗雲漂う男が・・・・・ この暗さにリリアも声を掛けられないでいる。

 これは私が喝を入れなきゃいけないわね。


 「ジュスト、あなたは今『暁の空』のお荷物になってるわよ。」


 私の声に反応してびくりと体を震わせ、気の抜けたような声で返事が返ってきた。


 「お・・・・・  俺は・・・ 俺が前に出なきゃいけねえときにびびっちまった。ヴィヴィもソフィも立ち向かったっていうのに、あんなバケモンは俺には無理だ。」

 「ジュスト一人が無理でもあなたには仲間がいるんでしょっ!! 連携して立ち向かおうとは思わないのっ!!」

 「そうよ、私達がいるわ。力を合わせればバケモノ相手だって立ち向かえるわよ。」


 リリアの言葉にも元気が出てきそうもない。このポンコツ~、チョーシこいたジュストはどこ行っちゃったのよ。


 「俺は剣士だ。俺が前衛でおまえ達を護らなきゃいけないのに、前衛がびびっちまったらもうおしまいだ。」

 「恐怖を感じる事は必要な事よ。どんなに強大な魔物にも恐怖を覚えずに向かっていったら、単なる自殺志願者よ。ただし、恐怖を覚えたままその恐怖に立ち向かえないようじゃ、もうハンターとしてはおしまいね。」

 「なっ、おしまいだとっ」

 「自分で言ったんじゃない。びびったからおしまいだって。」

 「クッ、こんなとこでおしまいにしてたまるかっ!!」


 ガバッと立ち上がったジュストが私を睨んできてるんだけど、


 「私を睨みつけるってお門違いよ。ジュストがやらなきゃいけない事は自分を鍛える事じゃないの。」

 「そ、そうだ。俺は弱いっ。強くならなきゃいけない。仲間を護れる男になるぞ。」


 もう大丈夫かしら。これで元気が出るとチョーシこきだして、元気がない方がよかったなんてリリアに言われそうね。でもっ、私の関知するところではないわっ。


 リリアはそんな事は言わなかった。町へ帰る途中に『ジュストの事、ありがとう。』とお礼を言われた。チョ-シこいた奴でもパーティーメンバーとして信頼はしてるみたいね。



 町へ帰り着いてもハンターギルドへ寄りもせず、『暁の空』とは解散、宿へ直帰。

 ギルドへ寄ったとしてもほとんどの職員がゴブリン討伐隊で出払っちゃってるから、受付のお姉さんぐらいしかいないんじゃないかな。だから、今日の討伐報酬も明日以降、下手したら何日も待たされるかも。

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