16.ゴブリン村長
討伐隊のハンター達、その後ろに領主様が出してくれた騎士や兵士達。その集団の一番先頭を歩くギルドマスターと私達。その位置関係をよく思わないハンターもいるようで・・・・・ よく思わないハンターの方が多いのか。後ろから聞こえるひそひそ話。
「なあ~んで、あんなガキが俺達の前を歩いてるんだ? ゴブリンごとき、俺が殴り込んで一掃してやるぜ。」
「ゴブリンってのは女や子供の肉が大好きだって言うじゃね~か。ゴブリン村に着いたらエサとして放り込むんじゃね~か。」
「おぅ、そりゃいいな。エサに群がるゴブリン共を切りまくるか。」
な、なんて下品な奴らなの。私がエサ扱い? こいつらもゴブリンと一緒に竜巻で巻き上げてやろうかしら。
怒りの形相のテオが振り返って何かを言い出そうとするのを、すかさずレナルドさんが止めた。
そうよね、怒鳴りつけそうな勢いだったもの。足音も押さえながらの行進なのに、ここで大きな声を出したらゴブリンに気付かれてしまいそうだわ。
レナルドさんがハンター達を睨みつけ声を潜めて窘める。
「くだらねえ話で盛り上がってるようだが、ずいぶんと余裕がありそうだな。」
「え~、レナルドさん。ゴブリンですよ、余裕でしょ。」
「昨日はその余裕のゴブリンに敗走してきたんだよ。なめてかかると命を落とすぞ。」
「え? 敗走? レナルドさんが?」
「ああ、怪我人も多数でた。今回は少しでも死傷者を減らすために、あの娘を助っ人に呼んだんだ。これから度肝を抜かれる事が起こるが、その後に今の会話の続きができるか楽しみにしてるぞ。」
「え? 助っ人? 度肝?・・・・・?」
私がいる意味が理解出来ないみたいで、??になってるハンター達。まあ、放っときましょう。
偵察隊のハンター達が潜む場所までやって来た。
「どうだ、動きはあるか。」
「ギルマス、数が多いだけじゃないみたいで、特異固体がいるようです。図体がデカいのを一体確認しました。」
「なんだと、キングか?」
「多分、ゴブリンキングでしょうね。」
キ、キングってなんなのっ。国があるわけでもないのに。せめてゴブリン村長にしときなさいよっ。
「居場所は特定できるか?」
偵察のハンターが木の枝で地面に地図を書いて説明する。
「今、俺達がここにいます。この岩山を越えた先、森に囲まれた平地がゴブリン共の拠点になってます。その先の山の麓に洞窟があったはずなんですけど、キングはそこに潜伏してると思われます。」
「洞窟か~。
ヴィヴィ、洞窟の中でもいけるか?」
「無理よ。竜巻は洞窟の中まで影響を及ぼさないわ。」
「そうか、無理なもんはしょうがねえ。
よし、作戦だ。ハンター達は平地を囲うように散開して逃げ出そうとするゴブリンの殲滅。
騎士様方はこちらの岩山で待機をお願いします。
これから岩山の上から竜巻を起こす。竜巻が終息するまで平地には入るな。竜巻終息後は一気にゴブリン残党を討伐だ。よし、散開。」
ハンター達が散っていった。『どうやって竜巻なんかが』とか聞こえてきたけど無視ね。
あ、無視できない連中がいちゃもん付けてきたわ。
「ちょっと待て。竜巻などどうやって起こすというのだ。」
「ああ、騎士様、昨日の竜巻をごらんにはなっていませんか。ルクエールの町からでも見えたはずですが。」
「あの竜巻は自然現象だろう。それを起こそうなどと、ほらを吹くんじゃない。」
「ええ、そうですね。あれほどの竜巻は無理かもしれませんが、ゴブリン共を脅かす程度の風を吹かせます。奴らが驚いているところへ我々が切り込む算段です。」
「その程度の風なら、必要ないだろう。我々が切り込めば充分だ。」
「いえいえ、こういう物は景気づけが必要なんですよ。」
「そういう物か。じゃあ、さっさと終わらせろ。」
なに、あの態度。イラッとくるわね。
岩山を上りながらギルドマスターが『まあまあ』となだめてくるけど、何かに当たり散らしたいぐらいだわ。
「偉い人達の態度なんてあんなもんだ。ま、大竜巻で奴らの度肝を抜いてやれ。」
「言われなくてもそうするわよっ。」
身を隠しながら平地を見下ろす。うっわ、うじゃうじゃいる。気持ち悪っ。ホントにさっさと終わらせて逃げ帰るわ。
身を隠したままで両手の上に風を起こす。その風が渦を巻き大きく育っていく。
私の頭上でゴウゴウと渦を巻く風。こ、これ以上はヤバいわ。怒りにまかせて竜巻を育てちゃったけど、私達まで巻き込まれそうだわ。
もう、ゴブリン村に向けて発射よっ。
私の元を離れながらも、周辺のマナに干渉させ大きくなっていく竜巻。石や木を巻き上げながら逃げ惑うゴブリンの群れに直撃。大量のゴブリンが悲鳴と共に巻き上げられていく。そこから逃げ出すゴブリンは散開してるハンター達の餌食になってるし。
もうこれだけやれば私の仕事は終わったようなものね。そしたら竜巻を終息させて撤収よ。
「グゥオオオオオオ―――――ッ!!」
突然の咆哮。その元を探せば山の麓にゴブリンの集団が。その中にひときわ大きなゴブリン? なの?
廻りのゴブリンと比べても、頭一つ大きいとかには収まらない大きさ、人間の大人の大きさよりも大きいんじゃない?
「出たな、ゴブリンキングだ。ヴィヴィ、あいつを竜巻に巻き込めれるか。」
言われなくても竜巻をそっちの方角に誘導してるんだけど・・・・・ あのゴブリン村長、私を睨みつけてない? 遠くてよく分からないんだけど、視線がバッチリあったような気がする。
ヤバい? 私、敵認識されちゃってない? まさか、竜巻で攻撃してるのが私だと感づいてる?
誘導した竜巻が洞窟に向かったんだけど、おとなしくその場で待ってる訳がないわ。洞窟の中に引っ込んじゃったじゃない。
これって、竜巻が巻き上げてるものを洞窟の中へ打ち出したり出来ないのかしら。巻き上げられているゴブリンや石、木の枝とかを外に撃ち出すようにマナに念じてみる。
あ、うまく撃ち出した? でも狙った方向には飛ばないみたい。四方八方へ飛び出ていく。洞窟の中にも少しは飛び込んでいくみたいだけど、ゴブリン村長にダメージは与えられそうもないわね。
う~~ん、何かいい方法は・・・・・ 巻き上げたものを撃ち出せるんなら、風の刃も撃ち出せるんじゃないかしら。
思いついたら即実行ね。竜巻のエネルギーを風の刃に変換させ撃ち出すようにマナに念じる。
できたっ!! 360度全てに向かって風の刃が飛び交う。もちろん洞窟の中にも刃が飛び込んで行く。
竜巻のエネルギーを風の刃に変換して飛ばしているから、竜巻を小さくしようと意識しなくても勝手に小さくなっていく。
もう放っといても自然消滅するぐらいまで小さくなった。
「私達は撤退するわっ。後は任せるわねっ。」
「おう。感謝するっ。報酬は期待しておけよっ。」
返事もせずに岩山を駆け下りる。テオもニコもすぐ後ろを走ってくる。騎士や兵士達が唖然とした顔で私達を見ている横をすり抜けてその場を後にする。
あんな攻撃じゃゴブリン村長は倒せていないと思う。ケガぐらいはさせたかもしれないけど、竜巻が消えたら敵認識した私を探すんじゃないかしら。
こんな時こそ、『三十六計逃げるに如かず』よ。ゴブリン村長は他のハンターや騎士達におまかせね。
「グゥオオオオオオォォォォォ―――――――ッ!!」
怒りに打ち震えた咆哮が聞こえてきた。
ダメージ全くないんじゃないの? あの場でゴブリン村長を討伐出来るの?
もし討ち洩らして私を追ってくるような事になったら・・・・・ こんな森の中で遭遇するのは危険だわ。ハンター達がゴブリン村長と戦っている間に森の外まで避難しなきゃ。