15.魔法一発 戦線離脱
会議室に集まり、各自パーティーメンバーで寄り添って席に着いているけど、私はソフィと隣り合って座っていた。
「明日の討伐隊にソフィを参加させるって話になっているの。当然ソフィは参加しないんでしょ。」
「でも、ジュストが行くって言ったら私も行かなきゃいけないと思うわ。」
「そんなの関係無いわっ。ソフィは討伐隊に参加するランクには届いていないの。だから付いてこいと言われても拒否する権利があるわ。
そうでしょ、リリア。」
「ええ、ソフィとジャンは連れて行くつもりはないわ。それはジュストだって承知してるわよ。」
離れた席に座ってたレナルドさんに聞こえていたみたい。
「嬢ちゃん達、拒否する権利があったとしても、俺としてはあれほどの治癒魔法使いを連れて行かない選択肢はねえんだよな。前線には絶対出さない、後方支援で森の外で控えてくれるだけでいいんだがな。」
「その程度の事でいいんなら他にも治癒士はたくさんいるはずよ。」
そうよ、こんな少女を治癒士として連れて行かなくったって、大人の治癒士を連れて行けばいいのよ。
ギルドマスターが話に割り込んできた。
「ハンター登録してる治癒士は他にいないんだ。治癒で収入が得られるのにわざわざ危険なハンターなんかやろうと思う奴はいないんだよな。」
「それはソフィだって同じでしょう。そんな危険な事しなくたって町で治癒士として仕事が出来るわ。」
そんな言い合いの間に割って入るソフィの声。
「待って、ヴィヴィ。戦闘にでなくていいのなら参加してもいいと思うの。今日治癒した人達にお礼を言われて・・・・・ 私ができる事で皆が笑顔になってくれた。私が必要とされる事が嬉しいの。」
「よ――しっ、決定だ。ソフィの参加はヴィヴィが反対しても止められないぞ。」
嬉々としてギルドマスターが宣言してるけど、イラッとくるわ。
「ソフィ、ホントにそれでいいの。あんなおじさん達の言いなりにならなくてもいいのよ。」
「私は大丈夫よ。ヴィヴィも行くんでしょ。私も頑張らないと。」
「分かった、それじゃ私はソフィのサポートにつくわ。ソフィの安全は私が守る。」
今度はレナルドさんが割り込んできた。
「あれほどの攻撃魔法を連発できる魔法使いを、後方に置いとくわけがないだろう。どう考えてもおまえ達のパーティーは前線だろう。」
「うぬぬぬ~、このおっさんめ~、」
何が何でも自分の思い通りに事を進めようとしてるわね、このおっさんは。バチバチにらみ合ってる私をテオが止めてくれた。
「ヴィヴィ、私が話そう。
ヴィヴィが後方でソフィを守ると決めたんだ。それに意義をとなえる権利はレナルドにはない。それでも強制しようとするなら我々は参加しない。」
「なんだと、討伐隊をまとめるのは俺だ。俺の采配に異を唱えようってのか。」
いきなり険悪な雰囲気になってお互いが立ち上がってにらみ合いだした。ちょっとまってよ、喧嘩に発展したりしないでしょうね。
ギルドマスターが間に入ったけど、どうなるのよ、これっ。
「待て待て、こんなところでもめ事起こすんじゃないぞ。ヴィヴィを前線に出したいのは分かるが、ランクが低いハンターに参加してもらうんだ。前に出て魔物と戦えだなんて強制は出来ないぞ。ソフィの護衛をしてくれるって言うんだ。レナルド、それで手を打っとけ。」
「ランクが低いって、実際にはBランク並みの実力を持ってるんじゃないのか。」
「それでもだっ!!」
ギルドマスターがびしっといさめる。それでもなにか言いたそうなレナルド。ここは私がびしっとと言ってやるわ。
「そもそもこんな小さな女の子達にどれだけの重荷を背負わせようとしてるのよっ!! あなた達にもし娘がいたら、その娘を連れて討伐隊に参加しようって思うのっ!!」
私の言葉を聞いてぽか~んとするおじさん二人。レナルドがしゅ~ん背中を丸め小さな声でつぶやいた。
「す・・・・・ すまん。そんな事考えてなかった・・・・・ 俺はハンター達の安全の事しか考えてなかった。そうだよな、子供なんだよな。大人がまず責任を果たさなくちゃいけねえんだった・・・・・」
あら? もしかして私ぐらいの娘がいるのかしら。言いすぎちゃった?
いえいえ、言いすぎではないわよ。これで大人の責任に目覚めてくれればいいのよ。
「はっはっはっ、レナルド、今のはこたえた様だな。娘にカブっただろ。これからは若い者に無茶振りするなよ。
さて、明日の討伐隊の編成会議なんだが、『暁の空』『風鈴火山』は後方でソフィの護衛で決定だ。リリア、ジュストに伝えておいてくれ。じゃあ、帰っていいぞ。」
「え、帰っていいの?」
「ああ、配置は決まったからもういいだろ。他の参加者との会議はおまえ達は関係無いしな。」
そんなこんなで会議室を追い出されてしまったけど、まあいいんじゃない? 納得のいく話にはなったと思うわ。私達は聖女ソフィを護る『風鈴火山』よ。これでヴィヴィの名が霞んでくれるわ。
次の日の朝早くに、森に向かう道に多くのハンター達が集まっていた。その中をソフィを探して歩いていたら、いたいた。
「な~~んで俺達が後方支援なんだよ。」
「会議にも出ずに飲んだくれてたジュストが悪いんでしょ。もう決まった事なんだからきっちり仕事をこなしなさいよ。」
ジュストとリリアの言い合いが聞こえてきた。近くに立っておろおろするソフィに、まずは朝のご挨拶ね。
「ソフィ、おはよう。ジュストに説明してなかったの? ずいぶんごきげんななめのようね。」
「あ、おはよう、ヴィヴィ。昨日ジュストが酔っ払ってたから今日の事を告げてなかったんだって。」
「ふ~ん。」
険悪な顔で鼻息荒くジュストとリリアがにらみ合ってるけど、こんな状況でいい仕事が出来るわけないわ。
「前線へ出たければジュストだけで行けばいいのよ。ソフィの護衛は私達『風鈴火山』とリリア、レオンがいれば充分よ。ギルドマスターにも伝えておくわ。」
「ちょっと待て、ソフィを護衛しないとは言ってないんだぞ。ソフィは参加させないつもりだったのに。」
「その件についてはギルドマスターとレナルドさんに文句を言ってよね。仲間内でもめてもしょうがないでしょ。」
うぐぐ、とか唸りながらジュストが反論したそうにしてるんだけど、本当にこんな状況だとチームワークがガタガタになりそうだわ。
ギルドマスターが私達を見つけて歩いてきた。
「ヴィヴィ、竜巻の起きた場所からまだ奧に進んだ場所にゴブリンが集落を形成している、と探索に出ていたパーティーからの報告があった。」
「そんな情報、私達になんの関係があるの。」
「個体数が多すぎるらしい。この人数で一気に攻め込んでも殲滅出来ないかもしれない。まだ騎士や兵士も参加してくれるが、それでもかなり危険だ。」
「それってどういうことなのよ。」
「俺達が全滅とまではいかないだろうが、多数の死傷者が出る可能性もあるって事だ。」
「そんな戦いにみんなは参加しようとしてるの? 死んじゃうじゃない。」
「ここに来ているハンター達は、この町が好きで護りたいって奴らばかりなんだ。で、そんなハンター達を誰も死なせたくない。」
そんな事言ったら、私達は流れ者じゃない。参加する必要も無くなっちゃうんじゃない。
「そこでだ、戦闘開始前にヴィヴィの大竜巻を集落に向けて放ってほしい。」
私とギルドマスターの間にテオが割り込んできた。
「待て、ヴィヴィは前線には出させないぞ。我々はそんな危険な戦いに参加する義務はないっ。」
テオの言いたい事は、私の考えとカブってるわね。このまま帰るって言い出しそうだわ。
「戦わなくてもいいんだ。最初の大竜巻一発かましてくれれば、すぐに離脱してソフィの待機場所へ向かってくれればいい。」
「それは先頭に立てという事なのだぞ。」
「待って、テオ。魔法一発で戦線離脱なら危険は無いと思うわ。」
それぐらいの事なら問題はないわね。そもそも私達はソフィの件がなければ最前線で戦ってるはずよね。
「いいけど、私が戻るまでのソフィの護衛を補充してくれるんでしょうね。」
「そんなものはいらねえ。ソフィは俺達の仲間だ。俺達『暁の空』がきっちりソフィを護るぜ。」
なっ、なっ、なんなのコイツ、さっきまでソフィの護衛をごねまくってたじゃない。
「ジュストはゴブリン討伐隊に入りたかったんじゃなかったのっ!!」
「おう、討伐隊には参加するぞ。でもな、仲間も大事だ。ヴィヴィが戻るまでソフィの護衛につく。ヴィヴィ達が戻り次第討伐隊に参加する。」
「何我が儘言ってんだ。おまえはソフィの護衛に決定してるんだぞ。」
「マスター、このメンバーを見てくれ。はっきり言って戦力過剰だぜ。俺が一人抜けても何の問題もないだろ。」
「まあ、たしかに、森の外で待機するのにここまでの護衛は必要はないか。
リリア達はそれでいいのか。」
「チームワーク的に言ったら一緒に行動すべきなんだけど、言い出したら話聞かないし。マスターに面倒見てもらえるなら助かるわ。」
「ヴィヴィ達もそれでいいのか。」
「異議無し。
でも、ジュストに言っとくけど、私が戻るまではソフィを護りなさいよ。」
「おぅっ、了解だ。早く戻って来いよ。」
ジュストって子供の精神構造そのままで、図体が大きくなっただけのガキじゃないの? パーティーリーダーとして威張ってるけど、いつパーティーから放り出されてもおかしくないんじゃない? リリアもよく我慢してるわね。