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13.聖女ソフィ様

 森を出た川辺に、怪我人達が座り込んだり横たえられたりしていた。

 怪我人の間を濡れた布を持って介抱するリリアやソフィ、子供達の姿があった。

 この怪我人達を放置して私達だけ町に戻ったら大顰蹙(ひんしゅく)を買いそうだわ。


 「あなた達だけしか戻ってこないって、どういうことなの。まさか、さっきの大竜巻に巻き込まれたの・・・・・」


 あら、ここから大竜巻見えてたのね。

 リリアが絶望の表情で問いかけてきたのを、テオが遮る。


 「他のハンター達は大丈夫だ。討伐証明部位を切り取って森から出てくるだろう。」

 「みんなは無事なの?」

 「ああ、無事だが、討伐したゴブリンの数が多すぎて、まだしばらく時間がかかると思う。」

 「よかった。誰も死んではいないのね。

 じゃあ、私達も手伝いに行くわ。ソフィ、ジャン、一緒に来て。」

 「待て、私も行こう。

 ニコ、ヴィヴィを頼む。」


 テオが行ってくれるのなら子供が付いていっても安心だけど、ソフィはここに残ってほしいわ。


 「待って、ソフィはここに残って。怪我人を見ていてほしいの。」


 私の呼びかけにリリアが怪訝な顔をしたけど、異を唱える事もなくテオと共にジャンを連れて森へ分け入っていった。

 ソフィは治癒士じゃないから、残ってもやる事は無いと思われたのだろうけど。

 でもっ、この怪我人達を利用してソフィを治癒士に仕立てましょう。


 で、怪我人達を見まわせば・・・・・  

 棍棒でメッタ打ちになったみたい。顔の形が変わってしまってる人もいる。

 幸いな事に顔の形が変わってるのが女性でなくてよかったよ。ホントに。

 とりあえず命の危険は無いかもしれないけど、顔が変形した人は脳に衝撃を受けてるかもしれないから優先して治癒していこう。


 うわ、この人ひどいね。顔グチャグチャになってるだけじゃない。手足も折れてどっか向いてる。意識があったらひどい苦痛にもがき苦しんでいたでしょうね。意識がなくてよかったわ。

 とりあえず折れた手足の向きを元に戻して、ソフィを前にしゃがませて、その後ろに私が立つ。


 「私は光の精霊の魔法は使えないわよ。何をさせようっていうの。」

 「使えないと思い込んでいるだけよ。最初は私が補助をするわ。それを感じてみて。」


 ソフィの手を取り怪我人の上にかざし、ケガの回復をマナに念じる。

 横たえられた怪我人が光に包まれ、苦悶の表情が和らいでいく。


 「あなたって光の精霊の魔法まで使えるのっ。」

 「ソフィにも使えるはずよ。」

 「できるわけがないわ。今までも光の精霊にお願いした事はあるけど光の精霊は応えてくれなかったわ。」


 ソフィの言う光の精霊って大気中のマナの事なんだけど、マナに属性とか無いんだよね。魔法は思い込みよ。思い込めば岩をも穿つ、とかいわなかったっけ? ん? そんなの無かったっけ?


 「できるって思い込むの。光の精霊に強く念じて。」

 「念じたからってそんな簡単にできるわけないでしょ。」

 「今ソフィの手を介して治癒を行っているんだけど、それを感じて。」


 う~~ん、とかうなり声が聞こえそうな程に集中して、何やらブツブツと呪文ぽいものをつぶやきだしたソフィ。

 あ、マナの流れが変わり始めた。私のイメージで発動していた治癒魔法、そのイメージ以外のマナが流れ込み始めた。

 ソフィのイメージが治癒魔法として形になりつつある。

 もうこの怪我人は手足の骨も回復してるし、グチャグチャの顔もある程度は綺麗になってきている。後はソフィにまかせてもよさそうだわ。

 私の治癒魔法の主導権を徐々にソフィの治癒魔法に移していき、ソフィから手を離す。



 「もう大丈夫そうだわ。ありがとう、ヴィヴィ。」


 私が後ろにいると思っていたのか、お礼を言いながら振り返ったソフィ。


 「あれ? ヴィヴィ、後ろにいてくれたんじゃなかったの。」

 「ソフィが一人で治癒出来そうだったから、その怪我人はまかせたのよ。」

 「ええっ!? 私が治癒魔法を使ってたの?」

 「そうよ、これでソフィも一人前の治癒士ね。他の怪我人もどんどん治癒してあげて。」

 「ちょ、ちょっと待って。初めて治癒魔法を使えたのよ。いきなり一人でやれって言われても無理よ。」

 「あら、今、治癒魔法で怪我人を治療したでしょ。後は同じ事の繰り返しよ。」


 目の前の怪我人が動けるようになったので、すぐに次の怪我人に移る。

 ソフィは私の後ろを付いてきて、私が手をかざした怪我人に同じように手をかざす。


 「同じ怪我人を治癒してもしょうがないでしょ。この人はソフィにまかせたわ。私は隣の人を治癒するから。」

 「え、私は治癒士としては新人なのよ。もっと面倒見てもらってもいいと思うんだけど。」

 「怪我人は一人二人じゃないのよ。どんどん治癒してちょうだい。」


 ソフィは物言いたげな顔をしながらも、廻りを見まわして怪我人を確認する。


 「わかったわ。やってみる。」

 「意識が無い重傷者は私が看るから、軽傷者をお願いするわ。」


 軽傷とはいっても、痛みで『う~んう~ん』と唸ってる人達しかいないんだけどね。かすり傷程度の人は撤退せずに戦っていたし。


 「ヴィヴィ、先ほどから魔法を使い続けているわ。大丈夫なのですか。」

 「全く問題は無いわね。ニコも治癒魔法をやってみる?」

 「私にそんな事ができるわけが無いでしょうっ。それに私は周囲を警戒しなければいけませんからね。」


 ニコは火魔法が使えてるんだからやってみれば出来そうなんだけど、ソフィが頑張ってくれてるし、ま、いいか。


 「ありがとう、痛みが引いたよ。もう歩けそうだ。もし魔力量が大丈夫そうなら、俺の相棒を看てやってくれないか。」


 ソフィがお礼を言われてる。このハンター達にソフィが優秀な治癒魔法使いである事が、しっかり刷り込まれたわね。

 ソフィにはこの調子でどんどん治癒してもらいましょう。そうすれば聖女とか、噂になって、私の存在はかすむわよね。

 私は意識のない怪我人を治癒して、意識が戻りそうになったらすぐに他の意識のない怪我人に移れば、私が癒やしたという認識は無くなるわよね。


 重傷者はあらかた治癒が終わったみたい。後はソフィにまかせて、森を警戒しているニコのもとに行く。

 ニコの足元には10羽ほどの絶命したツノウサギが散乱していた。

 これはまた、お持ち帰りの獲物が増えちゃったみたい。また川で血抜きしときましょう。



 山盛りのゴブリンの耳をおみやげに持って森から出てきたハンター達。そんな大量の荷物を持って怪我人を抱えて帰れると思ってたのかしら。

 まあ、怪我人達は治療済みで自力歩行が出来るようになっているんだけど。

 Bランクハンター、レナルドの次の言葉で怪我人は忘れ去られていた事が判明。


 「あ、そうだ。怪我人を運ばなくちゃいけないんだ。って、あれ? 死にそうな奴がいたと思ったが、どうした?」

 「レナルドさん、死にそうだったの俺ですよ。」

 「ピンピンしてるじゃないか。ほんとに死にそうだったのか?」

 「聖女ですっ。聖女に救われたんですよ。あそこで治癒魔法を使ってる少女です。」


 よっしゃ、思惑どおりの展開よ。ソフィが聖女認定されたわ。私が治癒魔法を使っていたのはほとんど見られてなかったみたい。


 「え? あの娘はジュストのパーティーメンバーじゃなかったか。」

 「ソフィっ!!」


 ジュストのパーティーメンバーがソフィに駆け寄る。私もその後ろにコソコソッとついていった。


 「ソフィ、あなた治癒魔法が使えたの?」

 「あ、リリア、治癒魔法は、」


 説明をし始めるソフィの言葉をさえぎる。


 「突然、天から光が差してソフィを照らしたの。そうしたらソフィが治癒の力に目覚めたみたい。あれはきっとこの者達を救いなさいという天からの啓示だったのよ。」

 「ちょっと、ヴィヴィ、何を言ってるの。」


 ソフィの耳元で小声で告げる。


 「ソフィが治癒しているのを皆が見ているわ。もう聖女認定されておきなさい。そうすればハンターなんかやらなくてもすむし。」


 私の目を見つめてコクコクうなずくソフィ。ソフィはあまりハンター稼業は好きじゃ無さそうだったしね。町の中で治癒士として生計が成り立つんなら、きっとそっちを選ぶだろうな。

 でもな~、あれだけの攻撃魔法に治癒魔法、ジュスト達が放っておくかな。ジュストの誘いを断り切れなかった場合のために『ナンチャラマンバリア』の魔法を教えておいた方がいいわね。

 Bランクハンターのレナルドが割り込んできた。


 「待て、本当にヴァランティーヌ様が降臨なされたのか。」

 「知らないわ。光が差したのは見たけど、それが女神様なのかは誰も判断は出来ないわよ。しかも光が差しただけでヴァランティーヌ様と決めつけるあなたの考え方も大概よね。」

「治癒魔法を授けて下さったのだぞ。そんな奇跡、ヴァランティーヌ様以外に考えられぬであろう。」

 「そう思うのはレナルドさんの勝手だけど、誰か女神様を見た事がある人はいるの?」


 私に語りかけてきた女神様は実態はなかったはずよね。何も見えない中で女神様の声が頭の中に聞こえて・・・・・ って、あれ? その時は死んだばかりで私の肉体は無かったんだ。魂だけの状態じゃ目も耳も無い? 見えないし聞こえもしないんだ。女神様とは魂への直接の語りかけだったから、会話が成立したのかな。

 もし今、女神様が現れるとしたら、姿を見る事が出来るのかな?


 「いや、ヴァランティーヌ様を見たなんて話は聞いた事が無いな。教皇は声を聞いたとか言ってるらしいが。」

 「それはないでしょ。神殿建造中に女神様に破壊されたんでしょ。」


  書物によれば、教団は『神の門』の廻りに神殿を作ろうとして、建造物を崩壊させられたのよね。女神様はこの教団を嫌ってるんじゃないのかな。教団が国をなして教国となったからと言って、根っこは同じなんだから、いつ女神様が怒りの鉄槌を下してもおかしくないよね。

 ま、あまり宗教には関わらないようにしとこ。寄付寄付ってうるさくなるし。



 森からの帰り道、ハンター達が分担してゴブリンの耳を詰め込んだ袋を背負って歩いていく。怪我人だったハンター達も回復したおかげで、袋を背負って自らの足で歩く。

 回復してなかったら迎えの馬車が来るまで放置ね。あ、もちろん怪我人を護るための護衛は置いてくるんだろうけど、対処できないような魔物に襲われたりしたら護衛達は迷わず逃げるわよね。護衛も怪我人も全滅するぐらいなら、動ける者だけでも助かりましょうと行動するのは、悪い事じゃないわよね。

 そんな条件で置いていかれたかも知れない元怪我人達がブツブツつぶやきながら歩いている。


 「ありがとうございます、ヴァランティーヌ様、聖女ソフィ様。生きて家族の元に戻れます。」


 ええ~っ!! 女神様に次いでソフィにまで『様』ついてるじゃない。

 こ、これは治癒士どころか『女神真教』とか立ち上げて教祖様におさまれば寄付金ガッポガッポ・・・・・・・ 違―――うっ!!

 だ、だめよ、ソフィ。そんなあこぎな商売。あなたにやってほしくはないわ。

 ジュストにも釘を刺しておきましょう。くれぐれもソフィが怪しげな宗教の道に走らないように。

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