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12.耳の切り落とし.? いやよっ

 解体したツノウサギを焼くために、土魔法で土を盛り上げてかまどを作る。それを見よう見まねでソフィにも作らせる。初めての土魔法で土が盛り上がるさまを見たソフィのテンションの上がり方、上がりすぎて私の作ったかまどとは似ても似つかぬ形になった。

 だめよ、魔法発動は落ち着いてやらなきゃ。

 二度目の挑戦でなんとか使えそうな形が出来上がる。

 次は火魔法よ。これは制御できる自信がつくまで、人前で使わないように注意する。火力制御できてないと、自ら火だるまになって周りの人達まで巻き込む事だってある。


 「いいこと、火の精霊の力を集めすぎないで。最初は小さな火をおこすの。」

 「できたわっ。まさか私が火魔法まで扱えるなんて。」


 ソフィの指の先にマッチを擦った程度の小さな炎が揺らめいていた。


 「その炎を薪の下へ動かして、そしたら精霊の力を少しずつ増やしてみて。」


 炎が大きくなり薪がパチパチと音を立て始めた。


 「うん、肉を焼いてもいいわよ。」


 私の作ったかまどは、もう既に肉の焼ける香ばしいにおいが漂っている。ニコが焼けた肉を子供達に配りはじめる。


 「美味しい~。」

 「うめ~。俺達肉なんてめったに食えないもんな~。でもこれ、食っちゃってよかったのか。ギルドへ持ってくんじゃなかったのか。」

 「子供がそんな心配するもんじゃないわよ。出された物は遠慮せずに食べなさい。」

 「俺より小さいくせに、ヴィヴィだって子供だろ。」

 「小さいけど私は一人前のハンターよっ。少しは敬意を払いなさい。」


 何か反論しそうなリュカだったけど、自分よりは年上だと認めたようで、口から出そうだった文句は焼いた肉と共に飲み込んだみたい。

 これで少しは私に対しての態度もよくなるかしら。



 焼いた肉もみんなのお腹に収まって子供達の満足した顔が・・・・・ リュカの顔も満足してる。


 「薬草採取に来てお昼ご飯が食べれるなんて、初めてだよ。」

 「今までお昼ご飯はどうしてたのよ。」

 「昼飯なんか食べなくても採取はできるしな、」

 「お腹減っちゃうじゃない。子供達はたくさん食べなきゃ大きくなれないのよ。」

 「大きくないヴィヴィに言われてもな~。」


 し、失礼ねっ、私は小さくないわよっ。私は本当は8歳なのよって・・・・・ 言いたいけど、言えない。

 いつか言ってやる、と思ってもそんな機会はきっと訪れないでしょうね。どうせ馬車が手に入れば、この町から出て行く事になるしね。




 森の奥から川沿いに歩いて出てくる人達が、それもかなりの急ぎ足? ジュスト達にしては人数が多い。


 「ジュスト達だわ。こんな早い時間に戻るなんて。あの抱えられてる人達、ケガしてるみたい。」


 ソフィが森から出てきたジュスト達のもとへ駆け寄る。

 やっぱりジュスト達だったんだ。テオはどうしたの、いないみたいよ。


 「ヴィヴィ、テオがいないようですっ。」


 ニコの焦った声に、やっぱりいないんだと判断できた。


 「ジュスト、テオはどうしたのっ!!」

 「すまん。怪我人を逃がすために他のハンター達と残った。怪我人を頼む。すぐにテオの元に駆けつけなきゃいけないっ。」

 「いったい何と戦っているのよ。」

 「ゴブリンの集団だ。数が多すぎる。」

 「私が行くわっ。怪我人はあなた達が見てて。

 ニコ!! 行くわよっ。」

 「ヴィヴィ、危険ですっ。私が行きますっ。」


 ニコが制止の声を上げるけど、私はもう既に走り出してる。身体強化の魔法で大人の足でも到底追いつけない速度で。かろうじてニコがついてきているけど、私を止められる速度ではない。


 「グギャーッ」「ゲギャーッ!!」


 奇声を発しながらゴブリンが向かってきた。手に手に棍棒を構えている。しかも10匹以上。なぜ? テオはどうしたの。

 向かってくるゴブリンを風の刃が切り刻んでいく。討ち漏らした3匹のゴブリンが私を危険な存在だと認識したようで、迂回して後ろへ抜けていく。

 抜けてもニコが私に追いついてきてるんだから、逃げ場はない。ニコが私の討ち漏らしをしっかり切り捨ててくれた。


 前方にゴブリンに囲まれ剣を振るテオを発見した。追われて逃げてきたハンター達も戦っている。ゴブリンの死体を避け後じさりながら、廻りにたかるゴブリンを切り捨てている。

 森の奥からはまだ大量のゴブリンが迫りハンター達を迂回してこちらに向かってくる。これではキリがないわね。


 「ニコ、こっちに向かってるゴブリンを任せたわっ。私はテオの向こう側に魔法を放つわっ。」


 返事はなくてもニコはすぐに私の前へ出て、私を護る態勢になる。

 私は無数の風の刃を弧状に放つ。ハンター達の頭上を越えた風の刃が迫るゴブリンに向かって高度を下げる。風の刃がゴブリン達を切り刻んでいく。いや、ゴブリン達だけじゃないわね。廻りの木もズバズバ切れちゃってるわ。

 風の刃を撃ちまくれば森の奥から迫るゴブリン達を切り刻み死体の山ができていく。ハンター達の周りにいたゴブリンは数を減らし、テオとニコは私の横に来て護ってくれてる。

 前方にハンター達がいなくなったなら、もっと派手な魔法も大丈夫よね。

 目の前に竜巻を発生させる。徐々に大きく育てる。


 「テオ、ハンター達を全員下がらせてっ。」


 大きく育っていく竜巻を見て、すぐにテオがハンター達の戦っている場に走る。

 目の前のゴブリンを切り捨てながらハンター達に叫ぶテオ。


 「おいっ!! 下がれっ!! 竜巻が発生したっ!! 巻き込まれないように後ろへ下がれっ!!」


 振り返ったハンター達は、驚き慌てて竜巻から遠ざかる。

 みんな避難したかしら。もう放ってもいいよね。

 充分に大きく育った竜巻をゴブリンの向かってくる方向に放つ。巨大な竜巻がゴブリンだけじゃなく、木や石も巻き上げながら森の奥へと進んでいく。


 こんなんでよかったかしら。逃げおおせたゴブリンがいたら誰かが狩ってくれるわよね。

 後はあの竜巻を消さなきゃいけないわね。放置して町に向かったりするとまずいしね。でもあんな遠くに離れた竜巻に干渉できるのかな。うまくいったら儲けもの、みたいなかんじでいいかな。

 魔法で作った竜巻だけど実際に起きている風だから、消えなさいと念じて突然消える事もなく、廻りのマナに干渉させて徐々に風の威力を弱めていく。

 あ、うまい具合に竜巻が小さくなってく。小さくなれば巻き上げられてた木やゴブリンも、ボトボトと落ちてきた。


 「い、いったい・・・・・  何が起きているんだ。」


 え? 振り向いた先にジュストとレオンが立っていた。女性と子供は置いてきたみたいね。


 「あ、ジュスト、来たの? ちょっと待っててね。いまあれを消すから。」


 細くなって揺らめいていた竜巻の残滓もフッと消え去った。廻りを見まわせば、動いているゴブリンの姿は見えず、竜巻から非難したハンター達が集まってきてた。


 「おい、ジュスト、おまえ達の知り合いか?」


 戦ってたハンター達の中でも一番強そうなムキムキのおじさんが、ジュストに話しかけてきた。


 「あ、レナルドさん。子供達の薬草採取と森の狩りで一緒に行動してるパーティーです。」

 「この小さい娘も・・・・・ ハンターなのか?」


 メガネにじっと目を向けながら、笑う事もイジる事も無くスルーしてくれた。でも、そのわずかの沈黙がイラッとしたのも事実よ。


 「失礼ね、れっきとしたDランクのハンターよ。」

 「え、そうか、それはすまん。俺はBランクハンターのレナルドだ。ランクアップ審査を合格したパーティーがいるって聞いたがおまえ達か。

 「ええ、そうよ。私がヴィヴィ、こっちがテオとニコ、共にDランクハンターよ。」

 「それで何が起こったのか説明してもらえるのか。」

 「見ての通りよ。突然発生した竜巻にゴブリンの群れが巻き込まれて壊滅状態ね。」

 「突然って、ヴィヴィが発生させたんじゃないのか。」

 「偶然にもっ、突然発生したのよっ!!」

 「いや、そんな偶然、あるか?」

 「偶然にもっ、突然発生したのよっ!!」


 まだレナルドがいちゃもんを付けそうだったから、二回言ってやったわ。これ大事よ。

 それでも何か言いたそうなレナルドをテオがビシリと止める。


 「それ以上ヴィヴィを追求されても困る。あれは偶然発生したんだ。」

 「う、わ、分かった。竜巻は偶然だったとしよう。だけど、その巨大竜巻を今俺の目の前で消したよな。」

 「当たり前でしょ。あんな天変地異を放置して町に向かうような事になったら、どんな大災害になるか分からないでしょ。そうなる前に対処しただけよ。でも消し去る自信は無かったんだけどね。」

 「消し去れないかもしれないのに、やったのか。危険じゃなかったのか?」

 「離れていたし、それほどの危険は感じなかったわね。」


 額に手を当てたレナルドが、は~っと息を吐く。

 お疲れのようね。子供達が薬草採取してるんだから、滋養強壮に効く薬草を分けてもらえばいいんじゃない?


 「こんな大事件にはギルドに報告書を上げなきゃいけないんだが、この件に関してはどんな報告書を書けばいいんだよ。」


 何? 報告書? 私の事を書くつもりじゃないでしょうね。報告書提出の前に私が確認できないかしら。


 「あのまま戦っていても全滅する可能性もあった。それが突然、風魔法の援護、突如発生した巨大竜巻、竜巻に吹き飛ばされたゴブリンの群れ、見たとおりの事を報告書で提出しても、突き返されるのが想像出来る。」

 「あ、お困りでしたら私が書類作成を請け負います。有料ですが。」


 そうよ、私が報告書を作れば、都合の悪い事は全て消え去った報告書ができるわ。思うがままの報告書を作成した上に利益も出るわ。


 「おまえが当事者じゃないだろ。あ、いや当事者だな。でもな、その場にいた上位のハンターが報告書を作んなきゃいけないんだ。でも、文章作るのが苦手なんだよな~。」

 「それなら、レナルドさんが説明してくれた状況を私が文章にします。そうすれば私の代筆で報告書ができますよ。」

 「お、そうか、それで頼む。出来がよかったらギルドから出る書類報酬はヴィヴィに全額回してやるよ。」


 やった~、書類報酬が出るのね。どのくらいかしら。


 「そんな事よりもゴブリンの討伐証明に、左耳を切り落として持って帰らないといけないだろ。さっさとやらないと日が暮れちまうぞ。」


 ええ~っ、耳を切り落とすなんて・・・・・  いやよ、気持ち悪い。しかも、それ持って帰らなきゃいけないとか。量が多すぎるわよ。持ち運べないわよ。


 「それはジュスト達にまかせるわ。私達は、森の奥の状況を確認してくるわ。

 テオ、ニコ、付いてきて。」

 「ヴィヴィ、討ち漏らしたゴブリンに襲われます。危険です。」

 「それは許可出来ないぞ。この先にどれだけのゴブリンが待ち構えているかもわからないんだ。」


 テオとニコに反対された。それだけじゃない。レナルドまで残念な物を見る目で話しかけてきた。


 「死にたいのならヴィヴィ一人で死にに行け。そんな事をしても勇敢とは言われないぞ、無謀と呼ばれて笑われるぞ。

 ここまでの大事になったら一介のハンター程度が解決できる案件じゃない。ギルドがCランク以上のハンターで討伐隊を組むレベルだぞ。俺達は生きて情報を持ち帰る事を優先させなきゃならないんだ。」


 そ、そうよね。私は死ぬつもりなんてこれっぽっちもなかったけど、ゴブリンの大群が潜んでいるかもしれない森の奥へわずかな人数で攻めこもうだなんて、無謀だと罵られても当然よね。

 ここは素直に謝って即刻撤収よね。


 「ごめんなさい。無謀な事を言ったわ。」

 「あ、いや、わかってくれたんならいいんだ。」

 「それじゃあ、すぐにでも町に戻ってギルドに報告よっ。」

 「ちょっと待て、討伐証明を、」

 「そんなものと、ギルドへの報告とどっちが大事なのよっ。」

 「ゴブリンの大量発生を知らせるためにも、ある程度の討伐証明は必要だぞ。」


 あくまでも耳を切り落とせと言ってるのね。いやよっ。


 「それはあなた達ににまかせるわ。私はギルドに報告に行くから、後はよろしくね。」


 レナルドが何か言ってたけど、森の外に向かって走り出す。テオとニコが私の前と後ろを走る。


 ゴブリンの耳の切り落としなんてまっぴらよ。逃げ出して正解ね。

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