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11.唖然茫然愕然

 森の外縁まで来たんだけど、ほら、やっぱり子供達が4人も減ってるじゃない。どーすんのよ、これ。子供の引率とか言って何も面倒見てないじゃない。


 「おいおい、そんな非難がましい目で見るんじゃない。3人が遅れるのは最初から承知してるんだから。」


 私がジュストを睨んでいたらそんな事を言ったけど、人数おかしいでしょ。


 「何言ってるのっ、4人いないわよ。」

 「遅れた3人をリュカが面倒見てるからな。」


 え、リュカ? 子供達に目を向ければ、そうだ、あの生意気なリュカが見当たらない。まさか、リュカって面倒見のいいお兄ちゃんだったの?


 「じゃあ、いつもどおりにソフィとジャン、子供達を頼むぞ。

 テオとニコだったか、俺達と森の中で魔物を狩るか?」

 「ヴィヴィはどうします。」

 「おいおい、ハンター初心者のそんなちっちゃい娘を森の中へ連れてったら、危険だぞ。」

 「私にそんな心配は必要ないわ。でも子供達を護るのもそれはそれで重要な仕事よね。私が子供達の護衛を引き受けるわ。」

 「それなら安心できます。

 ニコも残ってヴィヴィを頼む。」

 「なんだ、テオ一人だけか。それならソフィとジャン、どっちか一人ついてこい。」

 「俺が行くっ」


 ジャンがジュストの元へ走って行った。反応が早かったけど、やっぱり子供達の面倒見るより魔物狩りが面白いのかしら。

 先を越されたソフィはさぞかし悔しがってるのかと思ったら、子供達のそばを離れる事もなく涼しい顔をしていた。ソフィは狩りが嫌いなのね。

 テオを含めた大人4人とジャンが森に入っていった。じゃあ私達は何をしたらいいのかしら。


 「ねえ、ソフィ、私達はどうするの?」

 「このあたりで薬草採取ね。あっちに向かえば小川があるから、リュカが来たら移動するわよ。」

 「それなら、最初から小川に向かえばよかったんじゃないの。」

 「一ヶ所で薬草を採り尽くすより、移動しながら採った方がいいでしょ。」


 そ、そうね、なんか理にかなってるみたいな事いわれちゃったわ。ここはおとなしくうなずいときましょ。


 「それで、薬草採取の間、私達がこの子達を護らないといけないんだけど、ヴィヴィとニコさん、」

 「私の事は『ニコ』でいいわ。」

 「うん、わかった、ニコ。私は呪文の詠唱に時間がかかるの。だから森の中から魔物や獣が出てきたら先にあなた達にに対応して欲しいの。」


 あ、いつもはその役はジャンがやってたのか。ジャンがジュストについてっちゃったから、変わりに私達にやれって事ね。


 「あ、でもあまり身構えなくてもいいよ。こんな森のへりの方まで出てくるのなんて、ほとんど無いから。」

 「え、出てこないの? 森の中へ行かなくてもいっぱい出てくると思ってたのに。」

 「そんなとこへ子供達を連れていけないでしょ。」


 それもそうか。子供達を安全に薬草採取させるために来てるんだし、魔物が出るところに来るわけないか。

 あれ? 子供がしゃがんでいる向こう、森の中、動く影が・・・・・ 何かいる?

 ピョーンと跳んだ。ウサギ? 額に何か付いてる? ツノウサギだ。本で見た事がある。跳ねながら子供に向かっている。

 即座に風の刃を形成。ジャンプした瞬間、放物線の頂点を狙って刃を飛ばす。見事に命中。首と胴が分かれたツノウサギが地面に転がる。

 すぐに子供の元へ走り立ち上がらせる。


 「あなた達っ、森から離れてっ!!」


 まだ森の奥からピョンピョン跳びはねる物がこっちに向かってくる。

 次々に風の刃を放つ。こ、これは、倒しきれない。


 「ヴィヴィ、私の後ろへっ。」


 ニコが駆けつけて私の前で剣を振るう。面白いようにツノウサギたちは首をはねられていった。

 最後のツノウサギが切り捨てられ、その場が静かになる。じっとあたりの気配を伺っていたニコが剣の血糊を拭き取り鞘に収める。


 「もう他の気配はないようです。ヴィヴィ、怪我はありませんか。」

 「私はいざとなったら結界魔法もあるから、問題はないわ。」

 「それじゃあヴィヴィは子供達のそばに行ってあげて下さい。私は獲物を回収してきます。」


 子供達は荷車に乗せられて青い顔をしてた。女の子はメソメソと泣いてるし。


 「あなた、短剣を持って魔法使いとか、おかしいんじゃない?」

 「魔法使いが刃物を持っていちゃいけない事はないでしょ。」

 「いけないわけじゃ無いけど・・・・・ それと今の魔法は詠唱してなかったわよね。」

 「子供が襲われそうで急いでたし。」

 「急いでたからってっ、あんな威力の魔法を何発も・・・・・  一体何発の魔法を撃ったのよ。」

 「う~ん、14発ぐらい?」

 「14って、限界はないのっ。普通ならあんな威力の魔法、2~3発も放てば倒れてもおかしくないわよっ。」

 「ええっ、そうなの? でも、私の魔力を使ってるわけじゃないし、倒れるわけないじゃない。」

 「あなたの魔力を使ってないってどういうこと。魔法は体内の魔力を呪文詠唱で外に撃ち出すって教わったんだけど。」

 「それは大きな間違いね。後で落ち着いたところでソフィにも教えてあげるわ。」


 そう、リュカが子供達とすぐ近くまで歩いてきてた。


 「どうしたんだよ、薬草採取してないのか。このツノウサギはどうしたんだよ。」


 ニコが回収した獲物を荷車にのせてた。もちろん子供達は降ろして。

 リュカの疑問にはソフィが答えてくれてる。


 「今、ツノウサギの群れに襲われたのよ。だから子供達を森から離しているの。」

 「すっげ~、こんなにたくさんのツノウサギだなんて、大猟だよ。今日はもう薬草採取しなくてもいいんじゃない?」

 「駄目よ。ヴィヴィとニコが狩った獲物よ。私達に権利はないわ。」

 「そんな事はないわよ。ソフィが子供達を護ってくれたおかげで私とニコがツノウサギを狩れたの。だから権利はソフィにもあるのよ。」

 「なんだか無理矢理こじつけてるみたいよ。まあ、後でジュストに相談するわ。それじゃあ、小川に向かいましょ。ジュスト達は小川沿いに森から出てくるから、そこで落ち合うわ。」



 小川のほとり、水にツノウサギをつけて血抜きをしておく。

 森の入口付近で子供達に薬草採取をさせ、奧には行かないように注意する。子供達より奧に私とソフィ、それよりも奧でニコが剣で枝葉をはらったり、草を刈ったりしている。

 馬は一番の外側の木に縛って、小川で水を飲んでいる。帰りは獲物をどっさりと積んでいかなきゃいけないし、充分に休んでもらわなきゃね。


 「ねえ、さっきの魔法に魔力を使わないって、どういう意味なの。」


 ソフィが凄く強力な魔法使いになれば、私がちょっと羽目を外した魔法を使ってもあまり目立たなくなるんじゃないかしら。ここでソフィに魔法の極意を教えて大魔法使いになってもらいましょう。


 「ソフィは空気中に魔法の元となる物が存在するのを感じる事ができる?」

 「そんな事聞いた事もないわよっ。」


 両手を水を救うような形で胸の前に差し出す。


 「空気中にある魔法の元となる物を集めてイメージをするの。」


 手のひらの上に火が灯る。火を消し、風を回転させ小さな竜巻が手のひらの上に渦を巻く。風が止み、空中に水が現れ手のひらにバシャッと落ちる。手を開けば水は地面に落ち、土にイメージを働きかけ土が隆起してくる。


 「この事象は全て空気中の魔法の元に自分のイメージを伝えているだけ。この魔法の元を私は『マナ』と呼んでいるんだけど。」

 「マ・・・・・  ナ・・・・・ ? そ、そのマナを感じる事ができれば、私も強力な魔法が?」

 「感じるよりもイメージよ。マナがあるとイメージをして、そのマナを集めてくるイメージ、マナに・・・・・ う~ん、最初は水をイメージして。手のひらに溜まる程度よ。」


 最初に火をイメージするのは危険よね。制御できないような炎が出たら焼け死ぬ可能性も否定できないしね。ここは安全に水一択よね。


 「水の精霊よ、私の力を使って。わずかな飲み水でいいの、私の手元に水を出して。」


 呪文の詠唱っていっても決まった呪文があるわけでもなく、人それぞれが体内の魔力を引き出すためと信じて、言葉を並べ立てていると思うんだけど。

 それがたまたまマナにイメージが当てはまって魔法が発動した時、それが自分の得意分野の魔法になるんだろうな。


 「無理よ、私の属性は風なの。水の魔法なんて使えた事は無いのよ。ヴィヴィみたいに4大精霊の魔法を全て使えるなんて、宮廷魔道士ぐらいよ。宮廷魔道士だって自分の属性以外は生活魔法程度しか使えないって話よ。」

 「4大精霊か~。精霊っていると思う?」


 ソフィがあっけにとられたような顔をして、言いつのる。


 「何言ってるのっ、いるに決まってるでしょ。全ての魔法は精霊の力を借りて発動するって教わったわ。」

 「いるかどうかは私にも分からないけど、ソフィの精霊がいるというイメージがそこまで強いなら、少し考え方を変えてみない? あなたが呼吸しているこの空気、周りにあるこの空気全てに精霊の力が満ちあふれている、と考えて。そして精霊の力を借りるのではなく、満ちた精霊の力を集めて魔法を発動するイメージでやってみましょう。さっきは水を出してって言ったけど、ソフィの得意な風魔法で試した方がいいかもしれないわね。」

 「風ならイメージを強く持てるわ。やってみるわね。」


 誰もいない方向を向きげんこつを突き出すソフィ。両目をギュッと瞑り、ムムムムッと眉間に皺を寄せ・・・・・・  拳の先に風が渦を巻き始める。

 カッと目を見開き叫ぶ。


 「風よっ、敵を切り裂けっ!!」


 開いた手の先の渦を巻いた小さな竜巻、そこから無数の風の刃が森に向かって放たれる。

 ズバババババーッ!! バキバキバキッ

 力が入りすぎよっ。まずは制御する事を覚えさせるべきだったわ。森の奥まで風の刃が通り抜けた所が木々がなぎ倒されてる。 


 「ひ、人がいない方向でよかったわ。次からはもっと力を押さえて魔法を放ってね。」


 ソフィに目を戻せば、唖然茫然愕然、開いた口が閉じられないソフィ。

 ニコが走ってきた。


 「魔物ですかっ!!」


 突然あれだけの規模の魔法を放てば、そう思うのも無理はない。ニコは剣を構え臨戦状態で廻りを警戒してる。子供達は大慌てで森の外に走り出ている。


 「ごめんなさい。ソフィの魔法の練習をしてただけなの。思いのほか大きな魔法になってしまってみんなを驚かせちゃったみたいね。子供達にも危険は無いって伝えなきゃね。」


 ソフィの手を引っ張って子供達の元まで行く。

 ニコにはみんなのお昼ご飯用に角兎を・・・・・ 二匹? 二羽? まあどっちでもいいわね。解体を頼んでおく。小川につけておいたから充分に血抜きはできてるでしょう。


 脅えた子供達をかばっているリュカを見ると、やっぱり面倒見のいいおにいちゃんだったんだ。

 リュカが私に食ってかかる。


 「さっきのは一体何だったんだよっ!!」

 「魔物に襲われたとかじゃないのよ。ソフィの魔法の練習をしてただけよ。」

 「練習って、ソフィ姉ちゃんおかしくなっちまってるじゃないかっ。何したんだっ!!」


 ソフィを見れば驚き覚めやらぬ状態を抜け出せず、まだ目が泳いだまま。


 「私は何もしてないわ。茫然自失でトリップしてるわね。リュカが呼びかけてあげて。」

 「何だよ、トリップって、意味分かんねーよ。

 姉ちゃん、ソフィ姉ちゃんっ、どうしちゃったんだよ。返事してくれよ。」


 「え・・・・・・・  あ・・・ リュカ、  なに?」

 「姉ちゃんっ、だいじょうぶなのか?」

 「え? 私はなんともないわよ・・・・・・・  って

 ヴィヴィ、突然あんな大魔法を放つなんてあぶないじゃないっ。」


 な、何を突然・・・・・  あ、もしかして私がやった事にして自分の記憶から消去しようとでも思ってるのかしら。


 「ソフィ、駄目よ。記憶を改ざんしようとしても。あれはたしかにソフィが放った魔法だし、あれだけの力があるという事を理解しないといけないわ。」

 「いやよっ。あんな大きな力。廻りの誰かが怪我したり死んじゃったりしたらどうするのよっ!!」

 「だからといって無かった事にはできないわ。ソフィは既にその魔法の発動のしかたを知ってしまったの。危険を回避するためにも制御のしかたを覚えなきゃいけないわ。」

 「あんな物が制御できるって言うの?」

 「できるかどうかじゃないわ。やらなきゃいけないの。」


 思わず笑いがこぼれてしまうけど、これでルクエールの町にいる間は私の魔法が目立つ事はないわね。

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