104.信ずる者は足元を掬われる・・・・・とか?
ソフィと畑を耕したり水路を作ったりして過ごしていたら、当然村民が気が付くわね。
村長さんがおじいちゃん家令にお願いしたみたい。おじいちゃん家令と村長さんが連れだって訪ねてきた。
「こんにちは、ヴィヴィさん。素晴らしい畑と水路、それとあれは貯水池ですか? これほどの農地や水路の整備ができるなんてうらやましい限りです。そこでセルジュ村長にも相談を受けたのですが、村の中の水路が少なくて畑を思うように運用できていないという意見があるのです。」
「それって、水路が近くにない畑を放棄して水路がある畑だけを耕作してるって事ですよね。」
随分と荒れた畑が目立ったけど、水路のある所でだけ作物を作っていたんだわ。
「そのようですね。しかし侯爵領の民がここへ移住してくるのです。条件の悪い畑を押し付けるわけにもいきません。水路の整備も考えてはいたのです。それがセルジュ村長に、教会の北の荒れ地に畑が開墾され水路が引かれた。水路を南の畑にも引けないものかと、相談を受けたのです。」
「水路の整備を考えているのなら、工事を進めてもらっても問題ないですよ。着工にあたっての私の許可は必要ないですよね。」
「ヴィヴィさん、私が言わんとしていることは理解して頂いてると思いますが、」
「そんなの分かってますよっ!! 私にその工事をやらせたいんですよねっ。でも、すごく忙しいんですけどっ。」
「気分を害してしまったのなら申し訳ありません。でもお時間がありましたらご協力をお願いしたいと思ったのですが。もちろん充分な報酬は用意させていただきますよ。」
「村の人たちじゃ支払い能力はないですよね。」
「いえ、ガエル村の再開拓事業に組み込みます。侯爵領の資金から捻出いたします。」
侯爵様の資金から・・・? それならもらい損ねることはないわ。
北に広がる荒地は森の近くまで開墾が進んだし、水路の整備は終わっちゃってるし。
ちっちゃい髭おじさんが試作品第二号を持ってくるのを待って、王都に戻ろうかと考えてたのよ。
「オットマーさんが試作品第二号を届けてくれるのは、どのくらい先になるかわかりますか?」
「え? オットマーさんが侯爵領に向かってから5日ぐらいでしたね。早く見積もってもあと10日ぐらいでしょうか。」
「10日ですか、分かりました。それまでに突貫工事で終わらせちゃいましょう。そしたらオットマーさんが来るのを待って私は王都に戻ります。」
「無理して終わらせてくれなくても大丈夫ですよ。途中で工事が終わってもそこまでの費用はお支払いいたします。」
「そうですか? じゃあ、急がず頑張ります。」
その後は村長さんも話に加わって、どこに水路が欲しいとか、溜め池はこことここに、なんて打ち合わせをする。
そこへ、ここぞとばかりにおじいちゃん家令まで口をはさむ。
「確かに昔からの畑に水路が必要なんですが、もっと南の村を拡げている先にも水路が欲しいのですよ。」
「それって、いったいどこまで村を拡げようと思ってるんですか。」
「ゆくゆくは、王都へ向かう街道まで拡げるつもりですが、ヴィヴィさんはそこまで考えなくてもいいですよ。今開拓している所、新しく住居を建て始めた所ぐらいまで水路を伸ばしていただけるのなら200万ゴルビー、旧ガエル村の村内で終わってしまうようでしたら100万ゴルビーでいかがですか。」
う~ん、レオンティーヌ様の家庭教師代金と比較すると、随分と渋いわね。この世界の人件費って安そうだしそこから算出してるのなら、妥当なのかしら?
でも、一言言っておきたいわ。
「もう一声っ!!」
「えっ? も、申し訳ありません。ヴィヴィさんの能力に対して安すぎでしたね。分かりました。下手な交渉はしません。200万と言ったところを300万、いえ、限界を提示します。350万ゴルビーでいかがですか。」
ウムムム~、と考えるふりをしながらほくそ笑む。ちょっとケチつけるだけで150万アップよ。
でも、見てなさい。そのアップ分に大満足の仕事を見せてあげるわ。きっとおじいちゃん家令は私に感謝することになるわっ!!
今まで教会の北側しかやっていない水路の整備。これを下流につなげて水を流し込んでいるんだけど、下流側の畑の水路は充実してるとはお世辞にも言えない。
水路が通っていない畑で作物を作ろうだなんて考えたら、遠い水路から水を汲んで運んでこなきゃいけない。必然的に水路に接した畑しか使わなくなる。おかげで水路から離れた畑は荒れる一方。
で、クレマンソー侯爵領から移住してくる人達にその荒れた畑を任せたいのだけど水路がない。移住してくる人たちは荒れた畑を耕すところから始めるのではなく、水路造りから始めなきゃならない。
そこへうまい具合に村長さんが訪ねて行ったんだわ。あの子供が水路を作ってる、わしらの畑にも水路を、とか言ったんじゃないかしら。そんなことを聞いたらおじいちゃん家令、じゃああの娘に水路工事を任せてみようか、てな感じで私のところへ話を持ってきたんでしょうね。
そんなことを考えながら南へ南へと歩いてきた。クリストフ神父様のおうちが遥か彼方に小さく見えるぐらいまでの所まで来てようやく振り返る。
今からやるのは私が立つこの位置から見える範囲を、ずーっとまっすぐに前後左右に水路を伸ばすのよ。
まずは手始めに現在地から神父様のおうちの北側に引いた水路までを一気につなげましょう。
手を差し伸べると海が割れたとか、そんなかんじの宗教的なお話があったわね。
海を割るのをまねして土を割るイメージでマナに働きかければ、一気にどこまでも水路が出来上がりそうだわ。でも見えないところまで魔法が及べばマナが勝手に水路を作り続けて、魔法の暴走を引き起こしかねないわね。安全にをモットーに、工事は安全第一よ。目の届く範囲内だけで魔法は停止させるわ。
遥か彼方に見える神父様のおうちに向けて手を差し伸べる。土が割れて水路になるイメージをぶつける。土魔法発動よっ!!
私の足元からビキビキと割れ始めた土はとんでもない速度で神父様のおうちに向かって進んでいく。
ちょっと―――っ!! 止まって―っ!!
と、止まったみたい?・・・ この土の割れ方、何なのよ。早すぎよっ。こてはまさか、宗教パワーってやつじゃないでしょうね。
信ずる者は足元を掬われる・・・・・とか?
神を信じて万事がうまくいくと思っていたら、掬い投げを食らって一本、大どんでん返しみたいな?
また同じようなことやって魔法が暴走するのも怖いわね。何かうまい方法はないかしら。
ここまで水路を作りますよ、の目印があればそこに土魔法が到達した時点で強制魔法停止? あるいは目印から私に向かって魔法が迫ってくれば、その方が止めやすそうだわ。後者に決定ね。
今できた目の前の長い水路から後ろを振り返り、さあ遥か彼方に目印を作ってそこから水路を私に向かって・・・・・
そう、私の目の前には、今作ろうとしている水路と直行する道がある。そこへ水路を作ってしまったら、人も馬車も水路を渡れなくなっちゃうわ。ってゆうか、さっき作った神父様のおうちに向かう水路も、所々で道を横断してるわ。放置してたら道を歩いてる誰かが落ちてケガしちゃうかも。
まず先に水路の蓋を作ることが優先よっ。神父様のおうちに向けて走り出せば畑の切れたところに道を横断する水路。
ここから水路に蓋をしましょう。幸い水路分の土が水路脇に山になってる。その土を水路の上で、圧縮っ、圧縮っ、圧縮っ。コンクリート並みの、いえっ、コンクリート以上の強度の蓋ができたはずよ。これなら荷物満載の荷馬車が通っても大丈夫のはずよ。
そんな感じで水路に蓋をかぶせながら神父様のおうちまで戻ってきた。
だけどこれじゃあ手間がかかるわ、オットマーさんがもう一度ガエル村を訪ねてくるまでに終わるかしら。
あれやこれやと試行錯誤をしながら、最終的には水路をソフィに任せて私は蓋を作って回ることになった。
ソフィが水路を作るとなると一回に作る距離が短くなっちゃうから、蓋を作り終えた私が次の蓋を作る場所がなくてソフィの仕事が進むのを待つことになる、などということにはならないわ。
自分の仕事がなくなったら待ってなんかいられないわ。ソフィとは別の方向を向いて水路を伸ばす。伸ばした先に向かって走り蓋を作って回る。戻ってきたらソフィが作った水路の蓋を作る。
ソフィと私がガエル村の中を走り回って水路を作りまくるおかげで、ガエル村の古くからの村民たちは手を組んで首を垂れる。
ちょっと、あなた達っ、私は神様じゃないわよっ、崇めないでっ!!
この村を再開拓に来た侯爵領の人達は付き合いやすかったわね。
「おっ、嬢ちゃん達、今日も頑張ってんな。腹減ってたら昼飯一緒に食うか?」
私のことは嬢ちゃんなんて思っていなくても、職人さん達から見れば嬢ちゃん枠のソフィと一緒だったから、いっしょくたに呼ばれて嬢ちゃん達と呼ばれているのよね。
「食べる~」
「スープとパンしかねえが好きなだけ食ってけ。」
竈で温められたスープを受け取れば自然にお礼の言葉が出るわね。
「ありがとう、いただきま~す。」
そろそろ肌寒くなってくる季節に温かいスープがおなかにしみる。暖かいスープに固いパンを浸しふやかしながらパンを食べる。
「どうだ、うまいか?」
「お世辞にも美味しいとは言えないわね。スープをもっと美味しくするための素材をブランシュ商会が持ってたはずだけど、さすがにガエル村に持ってきてないでしょうね。」
いりこやコンブ、干しシイタケは世間一般に流通させるほどの生産量はまだないでしょうね。王都で貴族や平民の富裕層相手に商売してるんでしょうね。一般庶民が手に入れられるまでどれだけかかるのかしら。
「そんないいものがあるのか、さすが大店だな。」
「でも、なかなか庶民の口には入らないと思うわ。」
「そりゃしょうがない。希少価値の高い物は、優先的に金持ちの手に渡っちまうからな。」
それもそうね、と相槌を打ちながら、午後の水路工事の段取りを考える。
ここから先、南へと水路を伸ばしていけば、王都へ向かう街道まで到達するわね。そのあたりの川に水路をつないで~・・・とか考えていたりしたら、おじいちゃん家令が馬車に乗って走ってきた。




