103.あぁーっ、壊れちゃったわ
おじいちゃん家令の訪問は、搾油器の試作品を届けるためだったんだわ。ちっちゃい髭おじさんは使用説明に来てくれたのかな?
「セレスタンさん、ホントに搾油器を注文したのがこの子供なんですか?
あっ、まさか・・・ エルフ族?」
「私はエルフじゃありませんよっ。れっきとした人族ですっ!!」
「そう、ヴィヴィさんは人族の子供ですが、知識量は大人の我々を遥かに凌駕しているでしょう。」
そう言いながら木箱の蓋を開け、取り出した中身をテーブルの上に置いていく。そこにはいくつかの部品が並べられていくんだけど・・・
え~、これホントに私が注文した搾油器になってるの? 部品が並んでるだけじゃよくわからないわ。
「組み立てていただかないと、どんな形なのかわからないわ。簡単に組み立てられるのよね。」
「はい、簡単に組み立てられるように制作しました。これをですね、」
「オットマーさん、堅苦しいわ。普通に話す感じでしゃべってもらった方が理解しやすいと思うわ。」
ちらりと視線を移した先のおじいちゃん家令がうなずくのを見て、砕けた口調になるちっちゃい髭おじさん。
「そうさせてもらえりゃ助かる。堅苦しいと説明が伝わってるのかよく分からねえからな。
で、この台座だ。下に万力がついてるだろ。テーブルの端っこに万力を挟んで締める。するってえと台座がテーブルにしっかり固定される。こんなちゃちなソファテーブルじゃあ、力が加わればテーブルごと動いちまうが、もっとでかい作業用テーブルなら大丈夫だろう。そしたらこの筒、四角い金属が付いてるんだが、それを台座のこの位置にはめ込めば筒が回転するのを防いでくれる。これがないと筒だけじゃ共回りしちまうんだ。
そしたら、ポツポツ穴が開いた蓋をこの筒の出口側にねじで固定。反対側にはねじ込み式のボルトを付けた蓋を固定、このボルトには圧搾用の皿付きだ。ボルトを回転させてやれば皿が豆を圧搾してくれる。最後にボルト回転用のハンドルを固定すりゃあ完成だ。
どうだろう、理解してもらえただろうか?」
「そんな長々と説明されても分かんないわ。案ずるより産むが易し、よ。実際に使っているところを見たいわ。」
「あ、案ずるより・・・?」
「あ、そこは気にしないで。その器具の使い勝手を見たいのよ。」
「え? ああ、そうか、
じいさん、豆持ってきたよな。」
「ええ、ございますよ。」
おじいちゃん家令が箱の中から取り出した袋。それほど大きくない袋だけどナニカがいっぱいに詰まっているのが分かる。
豆って言ったわよね。多分、大豆を用意してきたんだわ。
おじいちゃん家令が袋の中から取り出した大豆を、搾油器の筒の上に漏斗状に設けられた投入口にザラザラと投入していく。
「出来上がったときに試してみたんだがな、思ったほど絞れないみたいだぞ。」
ちっちゃい髭おじさんがハンドルを回し始める。
「ちょっとっ、いきなり回し始めちゃダメでしょうっ!!」
「なんだって? 回すためのハンドルだぞ。回しちゃいけねえのか?」
思ったほど絞れなかった、って言ってたのはこのせいだわ。大豆をフライパンで炒ったりして温めなきゃいけないのよ。でももう筒の中に入れちゃったし、筒ごと温めてやればいいわ。幸いにも搾油器は全部鉄でできてるみたいだから、火で焙っても問題はないでしょ。注意するのはテーブルに熱が伝わって焦げないようにしなきゃね。
筒の回りだけにピンポイントで火魔法を発動させて、ジリジリと筒の内部が温められる。充分に内部の大豆が温められたのを見計らって、火魔法を解除。
「もうハンドルを回してもいいわ。」
「あ、いいのか? そうか熱くしなきゃいけなかったんだな。」
おじいちゃん家令は油の出口の下に器を置き、ちっちゃい髭おじさんはグルグルとハンドルを回し始める。
大豆に圧がかかり始めたようで油がポトポトと滴り落ちる。
「ほう、熱くしただけでこうも違うのか。」
フンフンとハンドルを回し続け、このあたりが限界かなと思うところでちっちゃい髭おじさんがハンドルから手を離す。
「こんなもんだな、たくさん絞れただろう。」
え? こんなものなの? もうちょっとハンドル回せそうじゃない?
「私が回すわ。変わって頂戴。」
「お、やりたくなったか。ちょっと待て、豆を交換してやる。」
「いえ、このままでいいわ。」
ちっちゃい髭おじさんがハンドルの前からどいてくれる。
「わし、なかなかに力持ちだぞ。そのハンドルをもっと回そうなんて、無理だろう。」
回るか回らないかはやってみなきゃ分かんないわ。無理なようだったら諦めればいいだけよ。
これは将来子供たちにやってもらう仕事だから、【身体能力強化】は使わない。あくまでも私自身の純粋な力で回すのよ。
ハンドルを握りフンッと回せば、グルリンと回り油が滴り落ちる。
「ええ――っ!! わしより力があるのかっ。信じられん。はっ、まさかドワーフ族かっ。」
「エルフでもドワーフでもありませんよっ。」
フンフンとハンドルに力を入れる度に、ギュッギュッと絞りだされる油。もうこの辺で絞るのも限界かしら、と思って最後のひと踏ん張り
バキッと音がして出口の蓋が砕けた。
あぁーっ、壊れちゃったわ。私のせい? 私のせいなの? いえっ、違うわ、慌てちゃいけない。ここは毅然とした態度をとるのよ。
「あら、強度不足みたいね。この蓋の強度が足りないようだわ。あ、押し出す側のボルトも歪んできてるわね。全体的に強度を上げてもらわないと無理ね。この回すハンドルもオットマーさんよりも非力な子供たちが回すのよ。もっと大きなハンドルにしてもらわないと子供たちが回せないわ。」
「す、すまねえっ。想定が甘かった。指摘されたところだけじゃねえ。全体的に強度不足だ。もう一度やり直させてくれねえか。次は満足してもらえる物を作って見せるっ。」
「そうね、次に期待するわ。」
「任せてもらえるのかっ?」
「もちろんお任せします。試作品第一号で強度不足を理解して頂けたのだから、第二号は充分に期待できるものだと思うわ。」
「ありがてえっ、絶対満足するものを作ってやる。
おいっ、じいさんっ。試作品第二号を作らなきゃいけねえ。さっさと帰るぞ。」
「そんな慌てずともいいでしょう。せっかくここまで来たのですから、どこをどのように改良したらいいのか、もっとヴィヴィさんと相談するべきではないですか?」
大慌てですぐにも帰ろうと、ソファから飛び降りていたちっちゃい髭おじさん。え? と考え込むような顔をした後、ソファに戻る。
「そうだ、急いだって得はねえ。改良点をしっかり相談すべきだな。
壊れた所ははもっと強度を上げることは承知した。他にも改良したい所があれば言ってくれ。」
ソファに座りなおしたちっちゃい髭おじさんが、そう言ってポケットを探って木板とペンとインク壺を出して、さあ何でも言ってくれ、と言わんばかりに私を凝視する。
この際だし、自分の要望をもれなく伝えて納得のいくものを作ってもらえば、試作品第二号の完成でそのまま量産体制に入れるかも。
「私の意見だけじゃなくてオットマーさんの意見も聞かせてほしいわ。」
「わしの意見? 気の利いた意見ができるか分からんぞ。」
「ええ、いいわ。まず、壊れた所の強度を上げるのはもちろんだけど、本体の筒も強度を上げてほしいわ。壊れた蓋やボルトは強度を上げたとしても、使ってるうちにまた壊れることも考えて、予備の部品を用意して部品交換で対処しましょう。」
「なるほど、壊れそうな部品は先に作っておけ、と。」
うんうんとうなずきながら木板に書きなぐるちっちゃい髭おじさん、そんな乱暴に書いて後で読み返すときに読めるのかしら。
「後は、ハンドルを大きくして子供の力でも簡単に回せれるようにしたとき、本体にかかる力が大きくなるわ。その時に台座がその力に耐えられるかの検証もお願いしたいわ。」
「たしかに、台座にかかる力も大きくなるな。よし、それもしっかり耐えられる強度を持たせよう。」
そんな感じで意見をやり取りして、お互いに納得した結論に至ったところでおじいちゃん家令とちっちゃい髭おじさんは帰っていった。
次こそは納得のいくものができるはずだわ。期待しながら待ちましょう。




