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102.ちっちゃい髭おじさん

 「ソフィ、おめでとう。土魔法【耕耘】修得よ。」

 「こううん? って何。」

 「土を耕して軟らかくする作業のことよ。」

 「ちょっと待って、私が土魔法を・・・?」

 「ええ、そうよ。やろうと思えば土の槍とか土の壁なんかもできるはずよ。ソフィ自身やソフィの回りの人達を守る手段が増えたわね。」

 「魔法使いってすごいんだね~。」

 「アンナ、私は何も凄くないわ。ヴィヴィが凄いのよ。」

 「それはなんとなく分かるよ。でも私から見たら魔法を使えるって事が凄いんだよ。

 あ、そろそろ私は帰らなきゃ。ヴィヴィ、今日はありがとう。」


 アンナは魔法見学に満足したようで、振り返って走り去る。


 「待って、アンナ。馬車で送るわっ。」

 「いいよ、遠くないし。まだガエル村にいるからまた来るよ。」


 元気よく走って行っちゃったわ。ベルトランさんと一緒に残るみたいだし、またいつでも会えるわね。

 さて私はまだ日も高いことだし、もう一仕事二仕事ね。

 荒れ地を【耕耘】してもいいんだけど、もっと重要なことが。畑を作ったのよ、そこには水が必要不可欠なのよっ。

 畑ができたのなら次は水路が欲しいわ。欲を言えば溜め池も作っておけば万全だわ。


 「荒れ地の【耕耘】をソフィにお願いできるかしら。」

 「私一人でやれって言うの? ヴィヴィにやってもらわないと無理よ。」

 「私は水路を作るから、その間開墾をしていてほしいの。無理ならしょうがないけど、将来のために練習してほしいの。」

 「将来のためって、何?」

 「将来ここの子供達が増えて畑が手狭になったときには、荒れ地を開墾していかないといけないの。そんなときにソフィが【耕耘】で開墾できたら、みんながとっても喜ぶわ。」


 私がしゃべっている最中から目が輝くソフィ。


 「できないなんて言ってちゃダメなのね。子供達のためにもできるように頑張るわっ。」


 ソフィはやっぱり子供達が力の源なのね。これからも子供達のために、って付け加えれば発奮してくれるかも。

 できてもできなくても問題は無いけど、開墾はソフィに任せて私は水路と溜め池工事よ。


 森から流れ出る川から、ガエル村の中へいくつもの水路に枝分かれして流されている。でもそっちが水下だから、私達が開墾する畑には上の森の近くから水路を引っ張ってこなきゃいけないわね。

 川は充分な水量がある大きめの川で、子供達の畑用に取水したからってガエル村の水が減るって事は全く無さそう。大丈夫よ。ここから取水しましょう。


 川の手前から土魔法による水路形成。水路を作りながらその水路はコンクリートの強度を持たせるぐらいに土を強化、おおよそ1mぐらいの水路が、開墾したばかりの畑に向かって伸びていく。

 水路だけじゃダメよね、人や馬車が渡らなきゃいけないんだし橋も作っておかなきゃ。他にも溜め池も作っておきましょう。畑までつなげるまでの途中の荒れ地にも溜め池を作っておけば、そのまわりに畑を拡げていけばいいのよ。


 ソフィが開墾している畑まで水路を延ばしていく途中、橋や溜め池を作りながら水路を伸ばしていけば、ソフィはもう二枚目の畑を開墾し始めていた。

 すごいわっ、ソフィ。土魔法はもう完全にソフィのものよ。


 「ちょっとヴィヴィ、一体何を作ってるのよ。私はまだ畑が一つしかできてないのにっ。」


 ソフィが【耕耘】を展開しているちょっと手前で溜め池を作り始めた私。それに驚いた様子で声を上げたソフィ。


 「せっかく畑を作るのよ。水が無ければ作物が育たないわ。だから水の溜め池を作ってるのよ。」

 「溜め池って、水が入ってないじゃない。」

 「先に水を流したら土がしっかり固まらないわ。水が流れ込む先に水路をつないだら、ようやく水を流せるのよ。」

 「そうなのね、出過ぎたことを言っちゃったかしら。ごめんなさい。」

 「いいのよ。私はこの先に水路をつなげてくるわ。ソフィはさっきと同じように開墾をしていてね。」


 私との会話で【耕耘】が止まっていたソフィ。あっ、と言いながらすぐに開墾に戻る。 しゃべりながらも私の土魔法は止まっていなかった。溜め池を作り終わり水下に向かって水路を伸ばし始める。

 このまま村内の水路につなげて、用水路工事はおしまいね。最後は上流の川との接続が終われば水が流れるけど、もう明日でいいんじゃない?


 働き過ぎはよくないわ。前世での私のお父さんは働き過ぎで顔色が悪かった。家族が幸せになるために頑張って働いてたんだろうけど、働き過ぎで健康を害したら本末転倒よ。

 自分自身が充分に働いたと思ったらそれに見合う休息も必要よね。


 「ソフィ、今日はもう終わりましょう。」

 「まだ明るいわ。もっとできそうよ。」

 「そんなに躍起になって働かなくてもいいのよ。子供達がここへ来るのはずっと先なんだから。」


 え? と、不思議な顔を私に向けたソフィ。ほんのわずか何やら難しい顔で悩んだようだけど、すぐに私の意見に納得してくれたみたい。


 「そうだったわね。子供達のためって思っちゃうと、早くやらなきゃ、って自分を追い詰めているんだわ。ヴィヴィの言う通りよ。そんなに急いでやる必要は無いんだわ。」


 こうしておとなしく家路につくソフィ。

 家路って、すぐ近くの神父様の家なんですけどっ!!



 そんなかんじでのんびり開墾していたり、たまに他の土魔法の練習をしているところへ、テオが来客を告げに来た。


 「ヴィヴィ、セレスタンさんが訪ねて来ました。お会いになれる時間はありますか?」

 「セレスタンさんが? すぐ行くわ。

 ソフィ、今日は終わりにしましょう。」

 「今日は私一人でも開墾をしていくわ。」

 「それならニコ、ソフィについててあげて。私はセレスタンさんに会ってくるわ。」



 テオと屋敷に向かって歩く。畑の開墾を教会の北側から初めて東へ東へと拡げ、今では孤児院建設地の北側まで拡がってる。

 神父様のお屋敷までは・・・ まあまあ距離はあるわね。ま、いいわ。おじいちゃん家令だし、待たせておけばいいのよ。先触れも無しに突然の訪問だし。

 神父様邸までの道すがら、おじいちゃん家令は何しに来たのかを考える。

 ま、まさか・・・ テコ入れ? さっさと畑を作りなさい、とでも言いに来たんじゃないでしょうね。

 って、それはなさそうね。私が畑を作ってるっておじいちゃん家令に言ってなかったし。

 じゃあ、何の用事? 分からないわね。本人が来ていることだし、直接聞けばいいことだわ。


 応接室でお待ちですよ、と神父様の奥様に言われて応接に向かう。

 ソファにはおじいちゃん家令ともう一人、子供?・・・ 違うわっ、こんな髭面の子供がいるわけないじゃないっ!!

 ダッシュで髭面に駆け寄り、ほっぺをツンツン、髭をピンピン、


 「やめんかっ!! わしゃおもちゃじゃないぞっ!!」

 「しゃべったわ、ドワーフって精霊じゃなかったの? なんでさわれるのよっ!!」

 「なんじゃとっ!! おぬし何を知っておる?」


 私の言葉がちっちゃい髭おじさんのナニカに触れたみたい? ちっちゃい髭おじさんに不穏な空気が漂う。

 飛びかかってこられてもいいように【身体能力強化】の準備はしておかなきゃ。


 「私が何かを知っているというわけじゃないわ。ドワーフは精霊だったということを物語で読んだような気がしただけよ。私の勘違いのようだわ。ごめんなさい。」

 「まあまあ、ヴィヴィさん、オットマーさん。そんな緊張した空気では話もできませんよ。もう少し力を抜いてください。」


 おじいちゃん家令の言葉に気づけば、私はいつでも【身体能力強化】発動準備中だし、ちっちゃい髭おじさんは私を探ろうと鋭い視線を投げつけてきてる。

 そうよ、おじいちゃん家令の言う通り、こんな空気で会話したって腹の探り合いになるだけよ。私の言葉から空気が張り詰めたようになってしまったんだから、私から歩み寄らなければダメよね。

 私自身の緊張した体を弛緩させてニッコリ笑顔で握手のための手を差し出す。


 「ごめんなさい、うろ覚えの知識であなたを不快にさせてしまったようだわ。私はヴィヴィです。ようこそガエル村へ、オットマーさん。」


 拍子抜けしたような顔で、ああ、とか言いながらソファから降りて私の手を握るちっちゃい髭おじさん。

 ちっちゃいとは言っても私よりも少し大きいわね・・・ 少しだけよっ!! 私は成長過程にあるのよっ。すぐに大きくなってやるんだからっ!!


 「ヴィヴィさん、こちらはクレマンソー領にて鍛冶工房を運営されているオットマーさんです。ヴィヴィさんが注文をした搾油器の試作品を作っていただきました。

 オットマーさん、こちらがヴィヴィさんです。失礼のないようにお願いしますよ。」


 そうよっ、搾油器よっ!! 完成したのねっ。どんなものができたのかドキドキだわ。

 おじいちゃん家令が足元に置かれていた木箱をテーブルの上に置く。

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