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10.ザ日本人、お愛想笑い

 宿での朝食、食堂にいた他の宿泊客の視線を一身に浴びてるみたい。

 そう、あのダサい丸眼鏡、本日真っ黒なサングラスになっております。って、そんなにサングラスが珍しいのかしら。


 「金の瞳を目立たなくするために眼鏡をかけているのに、その黒いメガネはかえって目立ってますよ。」


 ニコレットが声を落としてささやいてきた。


 「こんな感じのメガネって一般に出回っている商品じゃないの?」

 「そんな黒いメガネ見た事もありませんよ。どうやってそんな黒くしたんですか。ちゃんと前が見えてますか。」

 「昨日、防御結界に色を付けたでしょ。あれをヒントにガラスに防御結界を張って色を付けているの。黒が目立つのならもっと薄い色にしようかしら。」

 「いけませんっ、この場で色が変わったら余計に目立ちます。人目の無いところでお願いします。」


 テオドールに止められたけど、そうよね、皆の注目の中で変な魔法を使わない方がいいわね。私はできるだけ目立たないようにしなければいけないんだし。



 ハンターギルドの建物に向かう前にはメガネの色は変えておいた。濃い黄色で金の瞳をぼかす感じ。

 私が見る世界が黄色の世界になっちゃうんだけど、すぐ慣れるでしょう。


 馬一頭に牽かせた荷車に、私だけ乗せられてハンターギルドに向かう。

 馬をつないで建物に入ろうとしたところで声がかかった。子供の声だ。

 8人ほどの子供達ばかりの集団だ。私ぐらいの子から小さい子もいる。一番大きな男の子が声を上げる。


 「おい、おまえ、薬草採取なら・・・・・ って、何だその変なメガネ。」

 「あなたには関係無いでしょ。一体何の用なの。」

 「あ、いや、薬草採取ならここで待ってなきゃいけないんだぞ。」

 「え? 薬草採取?」

 「子供は大人のハンターが一緒じゃないと町の外へ出ちゃいけないんだぞ。」

 「失礼ね。私はDランクのハンターよ。」

 「ウソつくなっ。おまえ、俺よりちっちゃいじゃねーか。」


 た、たしかにこの子、私よりも大きい。で、でも、だからといって下手に出る事はないのよ。お姉さんとしての度量を見せてあげれば。


 「お姉さんとして忠告してあげるわ。自分より小さいからと言って年下と思わない事。対峙した人の能力を過小評価しない事。」

 「何難しい事言ってんだ。さっさとこっちに来い。」


 私の襟を掴もうとして右手が伸びてくる。何なのコイツ、自分の言う事を聞かせるためにこの私に暴力でもふるうつもり? 一瞬で身体機能強化の魔法をイメージする。

 のびてきた右手、その手首を左手でガッとつかみ、右手はシャツのクビ下を掴む。その瞬間私の体は左に反転して左手を引きながら右手を吊り上げ右足が相手の足元に出る。

 私の右足に遮られて男の子の足が前に出ず体が綺麗に一回転、そのまま地面に叩きつけ、あっ、ヤバい。叩きつけたら後頭部強打して怪我するかも。

 地面に叩きつけられる直前に掴んでいた男の子の右手を引っ張り上げる。

 体落とし 一本っ!! 

 なんとっ、私は柔道少女だったのよっ。もっとメジャーな背負い投げとか一本背負いでもよかったんだけど、男の子と密着したくなかったのね。密着することのない体落としで放り投げてみた。

 痛い思いはしたと思うけど怪我はしてないと思うわ。

 テオは非難の口調で私を咎めようとしたところを、後ろから怒鳴りながら走ってきた人に遮られた。


 「ヴィヴィ、何をして、」

 「こら―――っ!! おまえらっ、喧嘩なんかしてんじゃね――っ!!」

 「あっ、ジュスト兄ちゃん。コイツがDランクハンターだなんてウソつくんだ。」

 「え? って、見ない娘だな。変なメガネだし、新しく来た孤児か?」

 「あなたも失礼ねっ。変って言わないでっ!! 私は孤児ではないし、」

 「私が話そう。ヴィヴィでは話がこじれそうだ。」


 テオが私の話に割り込んできた。テオより少し若いぐらいの・・・ ハンター? かしら。


 「あ~、あんたの娘か。いや、悪かった。うちのリュカが迷惑をかけたみたいで。」

 「い、いや、娘では、」

 「俺は何もやってねーよっ。」


 ゴンっ!! 大声を出して否定するリュカの頭にげんこつが落ちた。頭にダメージを与えないように投げてあげたのに、ここで大ダメージが。


 「いて~~~」

 「リュカがこの子に先につかみかかった所は見てたぞ。その後、なんでリュカが吹っ飛んだのか分からんが、

 お嬢ちゃん、今のは魔法なのか? いや、詠唱も無しに即座に人が吹っ飛ぶ魔法なんてあるわけないよな。いや、あるのか?」


 尻すぼみに声が小さくなって、最後は自分に言い聞かせるようにしゃべってた。

 いつまでも付き合っていられないわね。ちらっとテオを見れば私の視線にうなずいてジュストに話しかける。


 「そちらの子供が大丈夫そうなら、我々は中に入らせてもらうが、いいか?」

 「お、ああ、すまねぇ。手間をかけさせちまったな。

 リュカ、他の子供達の面倒見とけよ。手続きしてくるから。

 あんた達もギルドに用があるんだろ。さっさと入ろうぜ。」


 何、この人。勝手に話を決めて勝手に行動して、俺の後に付いてこいみたいに手を振って。その後ろをもう成人してるであろう二人の男女、12歳ぐらいの女の子、10歳ぐらいの男の子が続く。この5人がジュストのパーティーメンバーみたいね。

 成人女性が私達の横で謝った。


 「ごめんなさいね。ジュストって自分勝手なところがあるから。あ、リュカのこともごめんなさい。後でちゃんと叱っとくからね。」


 ジュストの後にテオが続く。その後ろをお姉さんと扉をくぐる。


 「あなた達と子供達って、どういう関係なの。」

 「私達のパーティーは孤児院出身者なの。あ、私はリリア、よろしくね。で、あの子達が今孤児院にいる子達。」

 「私はヴィヴィ、よろしく。」

 「私達は、今日はあの子達の薬草採取の引率をしながら魔物狩りよ。あなた達はどんな仕事を請けるの?」

 「え? 魔物を狩る以外にも仕事ってあるの?」

 「あら、もしかして新人なの? 魔物狩りだけなら狩ってきた魔物を持って帰りに受付によればいいのよ。その他の依頼を請けるなら、そこのボードに貼りだされてる依頼札を見て依頼を選べばいいわ。」


 リリアの指す先に目を向ければ、たしかにボードと呼ばれる物が並んでいた。ボードはランクが記してあって、そこには文字を書き込んだ木札が所狭しと掛けられていた。

 依頼札って紙じゃないんだ。まだ紙は高いからなかなか使えないのかも。木札なら表面を一削りすれば使い回しできるしね。

 ボードの前には既に大勢のハンター達が依頼札の取り合い? みたいになってる。

 なるほど、こんなふうに奪い合いみたいになるって事を考慮しての木札なのね。紙であんな取り合いしてたら、ビリビリに破れた紙片しか手元に残らないんじゃない。

 テオは後ろから眺めてるけど、それじゃあ仕事とれそうもないよ。


 「あれを取るつもりだったら、もっと早く来なきゃ駄目ね。私達は子供達の引率の手続きだから関係ないけどね。」

 「え、でも私達は魔物狩りをするつもりで来てるし、依頼札の取り合いに参加するつもりはないわ。」

 「だったら私達と一緒に行動してみない? 今日は子供達が一緒だし森の深くまでは入らないから、新人でも危険は無いはずよ。」

 「すっごくありがたい申し出だわ。お言葉に甘えさせてもらっていいかしら。」


 リリアの言葉の後半は私の横にいたニコに向けた言葉だったけど、私が答えてしまった事に少し驚いたように私に目を戻す。


 「二人に相談も無しでヴィヴィが決めちゃっていいの?」

 「私がパーティーリーダーだからいいのよ。」

 「ええ―――っ!!」


 リリアがニコに視線で何故? と問いかけてる。

 ニコが頷きながら肯定する。


 「ヴィヴィがリーダーだというのは間違いのない事実よ。その上で今の申し出は私からも是非お願いしたいわ。」

 「え、ええ、手続きからジュストが戻ったら一緒に出かけましょう。」



 町の門を出て北の森に向かう。子供の足でも1時間ぐらいで森の外縁には着くと言ってたけど、小さい子は小走り状態じゃない。私だけ馬に牽かれた荷車に乗ってると非常に申し訳ない気持ちになる。小さい子だけでも荷車に乗るように言ったんだけど、ジュストに断られた。


 「この距離を自分の足で移動できるくらいの体力がなきゃ、次は連れて行かないぞ、って言ってあるからな。」

 「そんな事言ったって後ろの小さい子達、小走りで最後まで体力持つの。」

 「休憩しながらでもちゃんと来るぞ。集合場所は知ってるからな。」


 うぐぐ、よかれと思って乗せてあげようと言ってるのに・・・・・  まあそれぞれのルールがあるみたいだし放っときましょ。


 一緒に行動する5人は『暁の空』と名乗った。リーダーがジュスト、剣士、リリアが槍士、レオンが弓士。この三人が成人していて順番に25歳18歳16歳だと言ってた。後は12歳の女の子ソフィが魔法使い、風魔法が得意らしい。一番小さい男の子がジャン10歳、刃渡り30cmぐらいの短剣を装備しているけど体が小さいから剣士と言ってもいいわね。ちびっ子剣士ね・・・・・ 

 ふと自分の腰にも短剣を吊している事を思い出した。ちびっ子剣士と呼ばなくてよかった。おまえもちびっ子剣士じゃないか、って返されるところだったわ。でも私は剣士じゃなくて魔法使いなんだけどね。


 「ヴィヴィ達はDランクハンターだと言ってたけど、新人でDって、ランクアップ審査に合格したって事よね。」

 「ええ、簡単だったわ。」

 「簡単って・・・・・  私達は受けさせてもくれなかったのよ。ヴィヴィは剣士なんでしょ。どうやって合格できたのよ。」

 「私は剣も振るうけど基本は魔法使いよ。」

 「魔法か~、強力な魔法が使えればDもうなづけるか~。得意魔法はどんな魔法なの?」

 「魔法全般なんでもOKよ。」

 「え、もしかして器用貧乏なの? 駄目よ、何か得意な魔法を磨き上げて強力にしないと、困るときがあるかもしれないわよ。」


 うん、まあ、器用貧乏とも言えるのかも。どんな魔法でもイメージできればそつなくこなせそうだし。

 リリアにはえへへと笑いかけて曖昧にごまかしといた。

 これぞっ、ザ日本人、お愛想笑いよっ!!

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