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それはとても名誉なこと 

「お、家に戻ってきた」


さっきまでいた真っ白な部屋から、出るとそこは俺の家だった。


「転校生はマジで未来から来たんだな……」

「あ、私のことは簡単にリズムと呼んでくださって結構ですよ」


にわかには信じがたい出来事が続いたが、こう何度も不可思議なものを見せられると信じざるおえない。ボーゼンと立ち尽くす俺に対して、リズムはペコリと頭を下げだ。


「では、私はシェルターで待機していますので、何かありましたらお呼びください」

「え? もしかしてあの何もない所に住むのか?」


俺はシェルターに戻ろうとするリズムを引き止めた。


「なら、ウチに来いよ。ウチは今、妹と2人暮らしだから、部屋なら余ってるし、あんな何もない場所じゃ寂しいだろ」

「……」


リズムは少しだけ間をおくと、何かを噛み締める様に微笑んだ。


「善さんは本当にお優しいかたですね」

「え?」

「私はあなたにもう2度も危機を救われました」


2度……バイクに轢かれかけた時と、溶解処分を止めた事だろうか。


「私は、あなたに恩返しがしたいです」


そう言って彼女は真っ直ぐな瞳で俺を見つめた。


「いや、恩返しなんていいよ。俺は別になにも……」

「もしよろしければ、私に善さんの女性アレルギーを治すお手伝いをさせてください!」


真剣な目をしてにじりよるリズムに俺は思わず後ずさる。


『女性アレルギー』

それはいつからか出始めた症状で、実際に医者に行っても改善する事はなかった。

もちろん、治せるのなら治したい。いや、ずっと治そうと努力してきたつもりだったが今だに改善の兆しはない。

俺は藁にもすがるとはこのことかと少し自傷気味な笑みを浮かべて言った。


「まぁ、じゃあよろしく頼むよ」

「はい!」


リズムは満面の笑みで応えた。



俺が夕飯の支度をしている間、リズムはその様子をじっと観察している様だった。なんとなく見られていると思うとやりずらい。


「あー、リズムは何か好きな食べ物はあるのか?」


俺は間を持たせるために、質問する。


「好きな食べ物ですか? んー、私は基本的に食事をしなくてもエネルギー補給が出来ますので、特にないです」

「え? 飯、食べないのか?」


俺は驚いて振り返る。


「あ、でも食物をエネルギーに変える機能は標準装備されていますので、処理したい残飯などがあれはそれを食べます」

「いやいやいやいや、何言ってんだよ。残飯は食べさせられないぞ」

「そうなんですか? 未来の家庭ではロボットで残飯処理するのか普通なんですが……」

「なんて言うか、未来のロボットの扱いって何気に酷くねーか?」

「そうですか? そんな事考えたこともなかったです」


リズムは何も疑問に思っていない様子で小首を傾げた。


「全ての機械は人間の命令が無ければ動くことさえ出来ない。だから、例えどんな指示であろうと役割を与えられる事はとても名誉なことなんです」


リズムのさも当然と言った語り口に俺は少しだけ違和感を覚えたが、未来の事情を知る由もない俺には反論の余地はなかった。


「名誉ねぇ」


少なくとも、俺の目に映るリズムは人間と何も変わらない様に見える。だからこそ、自分を物のように扱うリズムに違和感を感じているのかもしれない。

まだ納得いかない顔をした俺を見て、リズムは話を続ける。


「私のいた時代では、人類は絶滅危惧種に指定されているんです」

「へ?」


あまりに衝撃的なワードに俺は持っていたオタマを落としそうになる。


「人類が絶滅危惧種? 絶滅危惧種ってあれだろ、レッサーパンダとかイリオモテヤマネコとかそういう、環境破壊とかが原因で数がすごく減ったとかいう、そこに人類が入るのか? どうして?」

「驚かれるも無理のないことです。この時代にはとても多くの生命が存在していますから……。ですが、私のいた時代ではある時を境に人類は激減してしまいました。なので、人類より数の多い私たちの地位が低いのは当然の事なのです」

「……未来ではそんなに少子化が進んでるのか?」

「少子化? ああ、確かに人類の繁殖活動は年々減少傾向にありますが、人類が絶滅の危機に陥った理由は他にあると言われています」

「ほか?」

「これは議会の機密事項なので、詳細は不明ですが、私のアーカイブに、記録されている情報によると、人類激減の理由はタイムトラベルの普及によってもたらされたものだと記録されています」

「タイムトラベル? それは、どういう……」

「はっ!? 善さん、そのお鍋から異常な匂いを検知しました!」

「え、うわ! 焦げる、焦げる!」


話に夢中になってうっかり鍋を焦がしかけた俺は慌てて、鍋の中身をかき混ぜた。

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