ご説明します!
「いやいやいやいや! ちょっと待て! 状況が全く理解できん!! 俺は今、自分の家に帰ってきた所だった!! なのに、ここはどこだ!?」
混乱する俺に転校生は答える。
「あ、ここは私のシェルターです。善さんをお招きする為に、さっき玄関と入口を繋げました!」
「シェルター? 入口を繋げたってどう言う事だ? 俺の家はどうなったんだ!?」
「まぁまぁ、落ち着いてください。ちゃんと説明致しますので……とりあえず座って飲み物でもどうぞ」
俺を落ち着かせようと、彼女は俺に座る様に促した。しかし、真っ白な空間には座れる様な場所や、椅子などは存在しなかった。
「座るってどこに……うわ!」
俺が座れる場所を探そうとしたその時、背中がもふんっとした感触に包まれ、そのまま宙に浮いた形で座った体勢に固定された。
「な、なんだこれ!? 浮いてる!? 見えない椅子!?」
「それは空気の椅子。エアチェアーです」
「俺の知ってる空気椅子とだいぶ違う!」
俺は、そのなんとも言えない座り心地におっかなびっくりしながらも身を任せてみると、思った以上に気持ちがいいことに気づき、少しだけ落ち着きを取り戻した。
「飲み物もどうぞ」
「お、おおお?」
彼女がそういうと、目の前に透明の入れ物に入った液体が湧き出てきた。
「なんだこれ、何で出来てるんだ?」
「未来では資源はとても貴重なのものなので、生活用品などは空気で作られるのが主流なんですよ」
「み、未来?」
「はい。……実は私、未来からやってきたヒューマノイドなんです」
「は?」
俺は彼女の言うことが理解出来ず、フリーズする。
「本当はこの時代に来るはずじゃ無かったんですが、ちょっとした計算違いで目的の時代よりだいぶ前に来てしまって……。それで色々調べた結果、本来の目的であった保護対象が善さんの子孫に当たる方だということが判明しまして、それならば、このまま善さんの元でご子孫様が無事にお生まれになるのを見守るのが私の勤めではないかと思い、目的を新たに設定し直した次第であります!」
転校生は捲し立てるように一気に語った。
「なので、私と契約をしてください!!」
「意味がわからん!!」
俺は大声で返した。
「何一つ理解できなかったぞ!? 仮に未来から来たことは信じたとしても、その後の契約ってのはなんなんだ!? 怪しげなセールスで俺を騙して高額な商品を売りつける気か!?」
「ううううっ! 商談は専門外なので、どう説明すればいいか分からないんですが、もうあまり時間が無いんです」
転校生が目を潤ませて、俺を見た。
「時間跳躍に失敗した私はいわゆるバグ扱いなんです」
「バグ?」
「この時代には存在してはいけないモノって事です……。だからあと数時間もしたら私は私自身に施された保護機能によって溶解されてしまうんです」
「ようかい?」
「溶けて分解されてしまうって事です」
「は? なんで!?」
「法律でそう決まっていて……」
彼女は淡々とした口調で説明をする。
「分解されるって事は、つまり、死ぬってことだろ?」
「死? それは、私の様なヒューマノイドには当てはまらない言葉ですが、わかりやすく説明するとそういう事です」
「……え、じゃあ、転校生を溶解させないためには、契約を結ばなくちゃいけないって事か?」
「善さん、すごい! その通りです!」
転校生は目を輝かせて拍手をする。
「今の私の状態は、会社の資産なので、私の処遇を決定するのは会社から義務付けられたマニュアルだけなんです。でも、善さんと契約を結べたら、私の一切の権利は善さんが受け取る事になるので、私を溶解処分するプログラムを止める事が出来るようになるんです」
「わかるような、わからない様な……。第一、そんな事、本当に可能なのか?」
「本来ならきちんとした手続きが必要ですけど、今はあくまでも私にかけられたプロテクトを外すための応急処置です。善さんに負担はおかけしませんから安心してください」
「負担?」
「実際に私を買うとなると、今の善さんでは一生働いても返せないくらいの額になりますから♪」
そう言って笑顔を見せる転校生は無邪気そのものだった。
「私と契約してくれませんか?」
「……」
「私と契約して頂ければ、私の所有権はあなたに移ります。そうすれば、あなたが権利を放棄しない限り私はその役目を真っ当できる」
「……」
「このままでは、私は役立たずのエラー品です……」
そう呟いた転校生は悲しそうに目を伏せた。
「わかった、契約するよ」
目の前で悲しそうな顔をしている女の子に向かって、断るとはとても言えない。言えるわけがない。
「どうすればいいんだ? 何かに署名とか……」
「いいえ、署名は不要です。必要なのは善さんの生体情報ですから」
「生体情報?」
「大丈夫です! すぐに済みます。痛くも痒くもないですよ。ほんの一瞬目をつぶって下されば」
「は?」
徐々に距離を詰めてくる転校生に俺は思わず目をつぶる。
「さあ、これでペアリングができました」
それは数秒で終わり転校生はよりいっそう明るい声を出して言った。
「これからはマスターのお呼びとあらば、このアスピカ・リズム、いついかなる場所にも馳せ参じます! 安心安全、あなたのセキュリティ! 毎日安心、HTC♪」
CMの様なフレーズを口ずさむ。
「あ、今ならご登録キャンペーンで、当社のマスコットアバターを差し上げてます。どうぞ♪」
そう言って、可愛いのか可愛くないのかよくわからないマスコットを俺に手渡した。
「これから、どうぞよろしくお願いします! マスター!」
そうして俺はこの得体の知れない未来のロボットと契約を結んでしまったのだった。