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苦手なものは?

「善はこんな面して女性恐怖症なんだよ、ウケるよな」


勇希に殴られた頭をさすりながら、海斗が茶化すように言った。


「恐怖症じゃない、ただちょっと苦手なだけだ。それに面は関係ないだろ」


俺は少しむくれながら訂正する。


「海斗だって虫、苦手だろ。それと同じことじゃん。今すぐ、その辺の虫をとってこいって言っても無理だろ?」


勇希の言葉に俺はそうだそうだと頷く。


「う、確かに虫に触るのとか無理だわ……想像しただけでゾワゾワする」

「僕も割と潔癖なところがあるから、人と握手したりするのは苦手かな」

「割と〜? お前の潔癖も相当だと思うけどな」


勇希のツッコミに航は苦笑いする。


「そう言う勇希は何が苦手なんだ?」


海斗が勇希に質問する。


「オレ? オレは別に苦手なものなんて……」

「勇希は電化製品が苦手だよな」

「はぁ!?」


俺の言葉に勇希は声を荒げる。


「だってしょっちゅう、家電壊すし、スマホの使い方もわかんねーって言ってよく聞いてくるじゃん」

「お年寄りかよ」

「あぁ!?」


海斗のツッコミに勇希がキレる。


「なるほど、皆さんそれぞれ苦手なものがあるんですね」

「アスピカさんは? 何が苦手なものってある?」

「え、私ですか?」


航の質問に転校生は少し驚いた顔をする。


「私は……。うーん、私に苦手なものなんてあるんでしょうか?」


彼女は眉間に皺を寄せ、腕を組んで考え込んだ。


「何で聞き返すんだよ。自分の事だろ」


俺の言葉に転校生は「確かにそうですね」と当たり前の事を言った。


「リズムちゃんって割と天然? いや、不思議ちゃんって感じ?

「不思議ですか!? それは私の言動がどこか不自然と言うことでしょうか!?」

「え、いやいやいや、全然不自然ではないよ! 俺はいいと思うよ不思議系転校生なんてキャラ強めで! な、なぁ!?」


海斗は俺に同意を求める。


「あ、ああ。かなりおもしろいとは思う」

「おもしろい? それはユーモラスってことでしょうか? なるほど……。貴重なご意見ありがとうございます! 今後のサービス向上のためフィードバックしておきますね」

「いや、ビジネスマンかよ」


海斗がおもわずツッコミを入れた。




「あ、僕たちこっちの道だから」


航が分かれ道で右の道を指差した。


「リズムちゃんはどっち方面?」

「え、えっと……」


転校生はなぜかチラリと俺を見た。何か言いたいことがありげな視線に俺は思わず左の道を指差す。


「俺たちはこっちだけど」

「あ、私もそっちです!」

「そっか、じゃあ僕たちはここで」

「んじゃまた明日ね〜、リズムちゃん」

「はい! さよなら、また明日!」

「……」


転校生は航と海斗に手を振った。勇希と俺は互いに目を合わせ仕草だけで会話した。


「えっと、じゃあ、行くか」

「あ、はい!」


俺たちが歩き出すと、転校生も後をついてくる。

歩きながら勇希が彼女に説明する。


「この先に神社があってさ、そこがオレの家」

「そうなんですね。善さんのお家はどこなんですか?」

「俺? 俺は神社の手前の道を右に行ったとこ」

「へー! じゃあ、お二人はご近所さんなんですね」

「まぁ、そういうことだな……」

「神社の周りは善の家と雑木林しかないんだけど、アンタは一体どこに引っ越して来たんだ?」

「……え?」


勇希の言葉に彼女は立ち止まる。俺と勇希は振り返り返事を待った。

彼女は動揺した様子で言葉を詰まらせる。


「……あ、う」

「2人とも何してるの〜」


俺と勇希が声のした方へ振り向く。そこには学ランを着た中学生が立っていた。


「和希。今帰りか?」

「うん、ただいま」


和希(かずき)は勇希の弟だ。ちょうど学校帰りだったようで、小走りに駆け寄ってくる。


「2人は何してたの〜?」

「ああ、今この子の家に…って、あれ?」


俺たちが振り返ると、さっきまでそこにいたはずの転校生の姿はどこにもなかった。



勇希達と別れ、帰路についた俺は玄関先でカバンから鍵を取り出す。そして鍵を手にした右手のひらを見て驚いた。


「怪我が、治ってる?」


先刻、交差点で転校生を助けた時に擦りむいた傷がすでに傷跡ひとつ付いていないことに気がつき目を丸くした。


「そんな大した傷じゃなかったのか?」


そんな事を考えながら、俺は玄関の扉を開けた。

そして、中へ一歩踏み込んだ瞬間、視界がぐにゃりと歪み、目の前が真っ白な空間に変わった。


「な、なんだ!?」

「驚かしてしまってすみません」

「え?」

「なんとか2人きりになれる機会を窺ってのですが、なかなか難しくて……強行手段を取らせて頂きました」

「は? 転校生?」

「少しだけ、お時間よろしいですか?」


戸惑う俺の前の現れたのは、先ほど姿を消した転校生だった。

彼女は深々と下げた頭をゆっくりとあげ、真っ直ぐに俺を見た。

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