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みんなで帰ろう!

放課後、転校生の周りにはクラスメイトが集まりちょっとした質問大会になっていた。

俺たち4人は少し離れた場所から、その様子を見ていた。


「俺、いつ善がゲロるか気になって授業どころじゃなかったわ」


海斗がいつも通りの悪態をつく。


「僕も……。いつ頭に吐瀉物が降りかかってくるか心配だったけど、なんともなくて安心したよ。」


航は心底安心したという顔で言った。


「今日はいつもより体調がいいからかもな。全然気持ち悪くならなかった」

「机一つ分くらい離れてたら大丈夫だろ? 善の半径20㎝くらいが女子の近づける限界範囲だからな」

「人を地雷原みたいに言うなよ」


勇希の冷静な分析に俺は思わず顔を顰める。


「卯ノ沢くん」


突然クラスの女子が勇希に声をかけた。


「清宮?」


声をかけられた勇希が返事を返す。

声をかけてきたのはクラス委員長の清宮野菊(きよみやのぎぐ)だった。清宮は黒く長い髪が印象的でとても整った顔立ちをしていた。そして、その人柄の良さも相まって男女共に大人気の生徒だ。

俺は清宮に気づかれない様に少し距離を取る。


「あ、ごめんね。お話中に…あの、明日光さんが駅までの道が分からないらしくて、よかったら彼女と一緒に帰ってあげて欲しいの」

「え?」

「私、これから習い事があるから寄り道できなくて。卯ノ沢くん達なら、駅の方へ行くでしょ? お願いできないかな?」

「オレは別に構わないけど、コイツも一緒だけど大丈夫か?」


勇希が自分の後ろに立つ俺を親指で指差した。

清宮は俺をみあげ、小首を傾げながら言った。


「久保田くん、お願いできるかな?」

「お、おう」


俺は清宮の可愛らしい仕草に負け、了承する。


「わ、ありがとう! 久保田くん! よかったね、明日光さん、一緒に帰ってくれるって」

「わぁ! ありがとうございます、委員長さん! みなさん、よろしくお願いしますね!」


いつの間にか清宮の側まで来ていた明日光が手を叩いて喜んでいた。



「リズムちゃん、電車通勤なの?」

「はい! あ、いいえ! えっと、駅の近くなんです!」


海斗の質問に転校生が答える。微妙に質問と答えが合っていない気もするが、帰国子女とはこんな感じなのだろうか?


「家はどの辺? オレ達も駅の近くに住んでるんだ」

「えっとですねー」


さしかかった横断歩道の信号が赤になり、俺たち4人は立ち止まった。しかし、転校生だけは信号に気づいていないのか、何かを考えるような仕草でそのまま歩きつづけた。


「おい…!」

「え?」


横断歩道を歩く彼女に向かって、バイクが猛スピードで走り込んで来るのが見えた。


(あ、やばい)


一瞬、俺の脳裏にいつかの記憶が蘇る。

暑い夏の日差しの中、麦わら帽子が空に舞う光景。

それは決して忘れられないけれど、思い出したくもない記憶だった。


俺は転校生の腕を掴んで思い切り引き戻した。

勢い余った俺たちはそのまま地面に倒れ込む。


「……あっぶねー!」


バイクとの接触をギリギリ免れた彼女は俺の腕の中でキョトンとした顔をして何が起こったのか理解出来ていない様子だった。


「何やってんだよ、アンタ! 信号見えてなかったのかよ!」


勇希が転校生に詰めより怒鳴った。


「ご、ごめんなさい。乗り物があんな風に走ってくるなんて思わなくて……」


転校生は恐怖からなのか、困惑した声で呟いた。


「善、お前大丈夫なのか? そんなにくっついて」

「ん? うわあああ!!」


海斗の指摘に、我に返った俺は、転校生から距離を取るように後ずさった。


「……あ、あれ? なんだ? 気持ち悪く、ない?」

「マジかよ! まさか今の衝撃でアレルギーが治ったのか!?」


女性に触れても何ともない俺を見て3人が仰天する。


「あ! 善さん、手に怪我してる!」


転校生はそう言うや否や、俺の手首を掴み、手のひらの傷口をひと舐めした。


「うえっ!?」

「はああああ!?」


転校生の予想外の行動に俺は思わず手を振り払う。


「ちょ、何やってんの、アスピカさん! いくら何でもそれは衛生的によくないよ!」


慌てた航がポケットティッシュを取り出し、俺の傷口に当てがった。


「善が今のでもゲロらねぇなんて……マジで治ったんじゃね?」


海斗の言葉に俺はハッとした。そして立ち上がり、近くを歩いていた女性に向かって走り出す。


「お姉さん! 俺と一緒に…う゛お゛え゛ぇぇぇー!」

「きゃー!! 何この人ー!!」


女性は突然、目の前で嘔吐する高校生に悲鳴をあげながら、走り去っていった。

俺は自分の吐いたもので汚れた口元を拭いながら、拳を握りした。


(違う、俺の体質は変わってねえ!)

(違うのは……コイツの……)


俺の傍に立つ転校生を見上げる。さっきのバイクから助けた時に感じた違和感の正体を探るように、彼女を分析する。


(コイツからはあの独特な香りがしない)


俺が苦手だと意識する、女性特有の匂いを思い出しながら、再び酸っぱいものが込み上げてくるの必死で堪えて考えた。


(むしろ、この匂いはどこかで嗅いだことがある…あれは、確か、先週買った……そうだ!)


「お前、買ったばかりの冷蔵庫の匂いがするな」


俺は思わず口に出してしまった。

転校生はキョトンとした顔で、数回瞬きをしてから口を開いた。


「それはたぶん、私がまだ新品だからかもしれないです」

「それって、処女ってことぉ!?」


転校生の答えに、海斗もまたおかしな突っ込みをしてしまい、勇希が海斗の頭を思いっきりぶっ叩いた。

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