約束
リズムの視界は赤く点滅し、緊急アラートが鳴り続けている。視界に映る善のバイタルは平行線のままぴくりとも動かなかった。
「え、なに?」
勇希は目の前に視線を向けたまま動かすことなく、つぶやいた。その足元には善の作った血だまりが広がり、白いスニーカーを汚していった。
「……」
声も出せずに、地面に尻餅をついた魚花の手や体にも善の返り血が飛んでいる。
「善さん? 大丈夫ですか? 今すぐ、手当を……」
リズムが倒れた善の肩に手を触れるが、画面のエラー音は鳴り止まなかった。
「いやあああああああ!」
魚花が悲鳴をあげたあと、そのまま気を失い地面に倒れ込んだ。
「きゅ、救急車! オレ、誰か呼んでくる!」
勇希は大声で叫び回りながらながらその場から離れて行った。1人残ったリズムは善の傍に膝をついて呟いた。
「守るって約束したのに」
善は答えない。
「善さんが殺される事は初めから分かっていたのに……どうして私は……っ」
(あなたを守るために未来からやってきたのに)
(いつから、狙われていた?)
(犯人は?)
(善さんが死んでしまったら、未来は?)
(あの人はどうなるの?)
「いけない。このままじゃダメだ」
リズムは拳を握りしめて立ち上がった。
「やり直さなくちゃ、もう一度」
リズムが目の前に現れた扉を開けると、善に与えられた部屋へとつながっていた。中にはウサギの形をしたメンテナンスマシンが置いてある。
リズムはその中に入って、静かに目を閉じた。
***
次の瞬間、リズムが目を開けると目の前は真っ暗で何も見えなかった。
(あれ、もしかしてまた失敗しちゃった?)
身体もがっちりと何かに掴まれたかのように動かない。リズムが焦っていると近づいてくる足音と共に声が聞こえた。
「ん? なんだありゃ? ぬいぐるみ……いや、着ぐるみか?」
リズムはじっとその声に耳を傾けた。
「誰だよ。こんなの捨てた奴。捨てるならちゃんと分別しろよなっ!」
突然、視界が明るくなりリズムの身体は宙を舞った。
「きゃうう!」
「ぐえっ!」
落ちた衝撃で、尻から潰れた蛙のような声がして、リズムは慌てて立ち上がる。
「はわぁ! ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」
「な、なんだ、中に人が入ってたのか……」
少年は潰された鼻さすりながら、怪訝そうな顔でリズムを見ていた。
「うさぎ?」
「あ! ごめんなさい、私、もう行かなきゃいけないので、これで失礼します!」
リズムはおぼつかない足取りでその場から駆け出していく。
「あ、そうだ。この事は忘れてくださいね!」
渡り廊下の扉に入る直前で、リズムはそう言ってからもふもふとした手を善に振ってみせた。
「あ?」
リズムは廊下の陰に隠れ、そっと善の様子を伺った。記憶消去の影響で意識を失っているであろう姿を確認し、ホッと胸を撫で下ろす。
「善さん、次は絶対に救って見せます」
リズムはそう静かに呟き、誓いを新にする。
いつか久保田善が救われるその日まで。
完結しました!
回収しきれなかった伏線なんかもまだ残ってますが、また続きを書く機会があったら、その時にでも……最後まで読んでくださりありがとうございました!




