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何をせずとも

俺は和希と一緒に催事で配る菖蒲や雑貨なんかが入ったダンボールを社務所へ運んだ。最後の荷物を運び終えたところでリズム達が戻ってきた。


「お待たせしました、善さん」

「おう、遅かったな……って、巫女服…!? ど、どうしたんだ、それ」


振り返った俺は、リズムの格好を見て驚いた。


「はい、勇希さんにお借りしました。こういった衣装は初めて着るので、少々動きづらいですね」

「転ばないように気をつけろよ」

「はい」

「じゃあ、とりあえず今日の予定だけど……和希は母さん達と受付な。善は去年と同じで、オレと雑用係。リズムも善と一緒に-」

「私は境内の見回りをします!」

「ん?」


リズムは勇希の言葉を遮るように答えた。


「この規模の警備ならば、問題なく行えますので、任せていただけませんか?」

「えっと…」


リズムの唐突な発言に案の定、勇希が戸惑っている。俺は2人の間に割って入る。


「勇希、リズムには境内のゴミ拾いをさせるのはどうだ? リズムもただボーっと突っ立てるよりは何かしてた方がいいだろ」

「なるほど、確かにその方が効率的です」

「じゃあ、リズムにはゴミ拾いと境内の見回りをお願いするよ」

「はい、了解です」


リズムは俺と勇希を交互に見ながら、なぜか満足げな顔をして頷いていた。

俺は部屋を出て行くリズムを呼び止めて、何を考えてるか知らないけど、余計なことはするなよと釘をさした。


* * *


リズムは鳥居のそばに立ち、訪れる人間の生態情報を読み取り、チェックをしていた。まだ朝の9時を過ぎたばかりの神社に訪れる人は少なく、異常も見当たらない。敷地内も掃除が行き届いており、追加で与えられたゴミ拾いもタスク待ちの状態だった。


「石姫さんの時は私が余計な事をして失敗してしまったので、今回はあえて何もせずに見守ります」


数分前の善のセリフを再生しながら、リズムは火バサミをカチカチと鳴らし、足元に落ちた枯れ葉を掴んで袋に入れた。

リズムの視界には様々な情報が絶えず映し出されているが、その中には昨夜、学習したばかりの恋愛アニメも再生されている。リズムはアニメのキャラとシンクロするようにその台詞を口にした。


「幼馴染と言えば最強のフラグ。何をせずとも運命の歯車は回るのです!」


* * *


「今、なんかゾワっとした!」

「風邪か?」


俺は背筋に走った悪寒に身を震わせた。


「いや、あのバカがまた何かやらかしそうな予感がする……」

「あのバカって、リズムの事か? ずいぶん仲いいんだな」

「いや、これは別に仲がいいとかでなく、監督責任的なやつで……」

「ふーん、なんかお前らの関係って謎だよな。たしか、親戚なんだっけ?」

「あ、ああ。まぁ、スッゲー遠い親戚みたいな」


勇希達にはリズムは俺の親戚だと説明している。もちろん、未来のヒューマノイドが親戚ってことはありえないのだが…。一応、俺の子孫がリズムを作ったみたいだし、無関係ではないはずだ。…たぶん。


「やっぱ、身内だとアレルギーも出ないのか?」

「え?」

「ほら、いつもの女性アレルギー」

「あ、ああ……そうなのかも」


俺は、女性に近づきすぎると嘔吐してしまう体質なのだが、リズムにだけはそのアレルギー反応は起こらなかった。それは、リズムが人間ではなくロボットだからなのだが、勇希はその事を知らない。俺は曖昧に頷いてみせた。


「……」

「なんだよ。急に黙るなよ」


俺はひとつ考えていた事がある。この体質を克服する為には多少の荒療治も必要なのではないかと。


「……あ、あのさ」


そして、それを頼む相手はやはりコイツしかいないだろうと。


「いや、やっぱ、なんでもない」

「なんだよ、気になるじゃん」

「……」

「言えよ! ほら、ほら」

「……」

「今さらオレらの間に遠慮なんて必要ないだろ」

「……あー」

「なんだよ〜! 言えよ〜!」


俺は恥ずかしくなって顔を手で覆った。勇希はニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んでくる。


「……抱きしめてもいいか、お前のこと」

「…………は?」


勇希は目を大きく見開いたまま、固まってしまった。俺は、慌てて理由を説明する。


「ア、アレルギーを克服するためには、避けるばかりじゃなくて、慣れていった方がいいんじゃないかと思ってさ! お前で練習させて欲しいっていうか、こんな事頼めるのお前以外いないし、キモいのは十分承知の上なんだけど……!」

「……必死か」


そう言って勇希は吹き出した。


「あはははは! 善の必死な顔久しぶり見たわ!」

「わ、笑うなよ……。こっちは真剣に悩んでるんだ」


勢いを殺された俺は、背中を丸めてうなだれる。

まぁ、いくらアレルギー克服の為とはいえ、この頼み方あり得ないよな。いいさ、愚かな俺を存分に笑うがいい。


「……まぁ、ほうじ茶オレかな」

「え?」

「購買のほうじ茶オレ、奢れよな」

「お、おう」

「ちゃんとゲロ袋の準備しとけよ。汚したら殺す」


そう言って勇希は俺の目の前に立つと、両手を広げて目をつぶった。


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