もうすぐ終わりがくるよ
「メグルという生徒は存在しない?」
次の日の放課後、リズムの報告を聞いて俺は思わず聞き返した。
「存在しないってどういう事だ? リズムはその生徒に会ったって言ってなかったか?」
「はい。なので改めて生徒名簿をチェックしましたが、『メグル』という名前の生徒は見つけられませんでした」
「この学校の生徒じゃない可能性もあるのか?」
「どうでしょう? 制服は同じ八幡高校の制服でしたが、その可能性も0とは言い切れませんね」
「リズムのリサーチ能力を持ってしても特定できない人物か……あ、もしかしたら卒業生とか」
「卒業生がわざわざ制服を着て学校へ来るとは思えませんが、一度その線でも調べてみます」
生徒名簿にも載っていない生徒を探すのはなかなか骨が折れそうだ。そもそも『メグル』というのも偽名かもしれない。
「あ、そうだ。航に聞いてみようぜ」
「最上さんですか?」
「アイツ、生徒会副会長だし、何か知ってるかも」
俺は友人の顔を思い出し、善は急げとばかりに教室へ引き返した。教室へ入ると航と海斗と勇希が話をしていた。勇希が戻ってきた俺たちに気づき声をかける。
「善、そろそろ帰るか?」
「いやまだ、ちょっと航に用があって」
「僕?」
航は意外そうな顔で自分を指差した。
「ああ、ちょっと人を探しててさ。在校生の名簿は調べたんだけど、見つけらんなくて」
「へぇ、誰を探してるの?」
「えーと、3年の『メグル』って名前の女子なんだけど……」
「女子!? 善がまた女漁りしてる! 一体どうしたんだよ、お前の女アレルギーは偽りだったのか!?」
一緒に話を聞いていた海斗が椅子から転げ落ちそうな勢いで騒ぎ立てる。
「人聞きの悪い事言うな」
俺はなおも騒ぐ海斗を無視して航に向き直った。航は顎に手を当ててしばらく考えたあと、俺を見て言った。
「今日は生徒会ない日だし、生徒会室に行ってみようか。あそこなら何か見つかるかも」
「おう、助かるぜ」
俺とリズムは顔を見合わせて頷く。
「じゃあ行こうか。2人も一緒にいく?」
航は立ち上がると、海斗と勇希を見ていった。
「あ、俺は部活あるからパス」
海斗が手を振って答える。
「オレは帰る、じゃあな」
「おう、また明日」
勇希はカバンを手に取ると1人でスタスタと教室を出て行った。
「なんか急に不機嫌じゃね?」
勇希の態度に海斗が首を傾げる。
航が「あー……まぁ、勇希にも色々あるんだよ」と言って困った顔をした。
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生徒会室に入ると、航は鍵のかかった棚からノートパソコンを取り出して机に置いた。
すぐにパソコンを立ち上げて、何かを調べ始める。
「確かに、在校生の中に『メグル』という名前の生徒はいないね」
航が画面を見ながらそう言った。
「そんなすぐ分かるのか?」
「生徒名簿はデータベース化されているからね。調べるだけならすぐ出来るよ」
「卒業生の名前も検索できますか?」
リズムが言った。
「データベース化されている生徒なら出来るよ。ちょっと待ってね……」
そう言って航は慣れた手つきで検索する。
「あ」
「ありましたか!?」
航が何かを見つけたようで、パソコンの画面しばらく見つめたあと、画面ごとこちらに向けて見せた。
「……もしかして、この人かな」
俺とリズムは画面を覗き込む。リズムが検索に出てきた生徒の名前を読み上げた。
「西日野 廻」
「たしかに、メグルって名前だ」
「でも、これは……」
俺は画面に表示された生徒の詳細欄を目で追った。
そこには「休学中」と書かれていた。
「休学中って? 今は?」
俺は航とリズムを交互に見た。2人も驚いた様子でパソコンの画面を見ていた。
「詳しい事は何も書かれてないね」
「休学中で学校に来ていないってことか? でも、皆月と一緒にいた人は制服を着てたんだよな?」
「……別人でしょうか?」
「これ、顔写真はないのか?」
パソコンのデータベースには名前と備考欄のみで、住所すら載っていない簡素なものだった。
「まだデータベース化が追いついてないのかもしれない。どこかに記録が残っていないか、探してみるよ」
「悪いな」
「いや、僕もちょっと気になるしね」
航は眉間に皺を寄せて何かを考えるように顎に手を当てた。
「とりあえず、このデータに載っている方と、私が実際にお会いした方は別人の可能性が高いですね。私も引き続き調査してみます」
「僕の方でも色々と調べてみるよ」
「ありがとうございます。では、何かわかり次第ご連絡します」
リズムは航にそう言ってから、俺に向き直った。
「では、帰りましょうか」
「あ、ああ」
航は生徒会の戸締りをしてから帰ると言ったので、俺とリズムは先に学校を後にした。
「結局、謎は深まるばかりだったな」
俺は頭をかいて、息を吐いた。
・・・
窓の外から見えるブルーモーメントを眺めていた少女は、校門へ向かって歩く2人の生徒に気がつき呟いた。
「もうすぐ終わりがくるよ、スミス」
少女の傍に置かれた青い端末がメッセージの受信音を知らせた。
「だってこんな事、今までのスケジュールにはなかった事だもの」
また端末から受信音が鳴った。少女は端末の画面を見て笑みを浮かべる。
「はやく私を見つけてね、久保田善くん♪」




