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いつか話せる時がきたら

「いっててて…」


俺は地面に打ちつけた臀部を摩りながら、湯船に浸かる。そして今日の出来事を思い返しながら天井を見上げた。


今日、学校で一緒に過ごしたのは間違いなくリズムだった。けれど、先ほど目の前に現れたのも間違いなくリズムで。2人の明確な違いはリボンの色が白か黒かという事だけ……。

いや、白リボンがいつものリズムだよな? という事は黒リボン、いやめんどくさい。ここはとりあえず、黒リズムとしておこう。黒リズムは一体何者だ? 一体いつから入れ替わった? なんで黒リズムは皆月の知り合いを探していたんだ? いや、そもそも未来のヒューマノイドが現在に2体もいるって事は、つまり……?


「どういう事か説明してくれ」

「は、はい」


風呂から上がった俺は、開口一番そう言った。

リズムも困ったような表情で俺を見上げた。


「私は、昨夜からメンテナンスマシンに入っていまして、目覚めたのはつい先ほどです。それで、善さんの姿が見えなかったので、周辺を捜索しようと外に出たところ、例の不明個体に遭遇した次第です」

「なるほど、状況は理解した。で、あの黒リズムは何者なんだ?」


俺はタオルで髪を乱暴に乾かしながら椅子に座った。


「それは、私にもわかりません。そもそもこの時代に私と同じ型のヒューマノイドがいること自体、イレギュラーです」

「同じ型?」

「はい、私はH(ヒトミネ)T(テクノロジー)C(コーポレーション)で製作された、アスピカシリーズのリズムモデルのヒューマノイドです」

「う、うん?」


聞き慣れない用語の羅列に戸惑ったが、今は細かく突っ込むのはやめておこう。


「アスピカシリーズでも、私のようなリズムタイプはそれほど数も多くなく、ましてや時間跳躍(タイムリープ)をしてこの時代に存在しているのは、私だけのはずです」

「うーん、お前のことを迎えにきたんじゃないか? 未来から」

「確かに、その可能性は多いにあります。ですが、その場合私を迎えに来たのではなく、おそらく破壊、あるいは抹消が目的であると考えられます」

「は、かい?」


俺は思わず聞き返す。リズムは小さく頷いた。


「善さんと契約した時にも説明しましたが、私はこの時代において存在してはいけないものなのです。私というバグによって未来にもたらされる影響は未知数です」

「それは、そうかもしれないけど……何も破壊する事はないだろ。悪い事はしてないんだし」

「果たしてそれは、そうなのでしょうか」

「え?」

「人類が絶滅の危機に瀕した理由のひとつとして考えられているのが、時間旅行(タイムトラベラル)によって生じたタイムパラドクスです」

「あー、なんか映画とかで見た事あるな。タイムマシンで過去に行って、自分の父親を殺したら、未来の自分も消えてしまうってやつだろ」

「はい、まさにそれです」

「私にはその件に関して詳しい内容を把握していないので、詳細は不明ですが、私が未来からやってきたことがトリガーになりうる。あるいは既に過去の改変が起きていても不思議ではありません」

「……」


リズムの話に俺は黙って耳を傾ける。


「私をこのまま未来に連れ帰ったとしても、結果は同じ。未来で廃棄処分されるだけです。だったらこのままここで破壊してしまった方が効率的です」

「その、破壊されるのは決定事項なのか……?」

「はい。私のした事は規約違反そのものですから」


リズムは困ったよう眉を下げて笑った。


「だったらなんであの黒リボンは逃げたんだろう?」

「そうですね。私の破壊が目的なら、すぐに拘束するべきです。それをしなかったのは、何か他の目的があるから、とかでしょうか?」

「ああ、そうだ。アイツ、皆月の知り合いを探してたんだ」

「皆月さんのお知り合いですか?」

「昨日、皆月と何かあったみたいで、その時に一緒いた、3年のメグルとかいう人を探してたんだ。……側から見てもだいぶ必死な感じだったけど」

「私も昨日、皆月さんにお会いしました。ノイズがひどくて特定までは出来なかったのですが、多分メグルさんという方にも会っていると思います」

「え?」


リズムは何かを考えるように俯き、独り言のようにつぶやく。


「記録の共有……? あるいは、どこからか監視していたのか……」


リズムと一緒に俺も腕を組んで、考えをめぐらすが特にこれといって思いつかなかった。


「黒リボンの目的がわからない以上、考えても無駄か」

「ですが、警戒はすべきでしょう」

「そうだな、また皆月に接触してくる可能性もあるしな」

「メグルという人物についても特定はしておいた方がいいかもしれません。明日、学校で調べてみます」

「ああ、俺も手伝うよ」

「ありがとうございます」


リズムは丁寧にお辞儀をして、立ち上がった。

自分の部屋に戻ろうとするリズム俺は声をかける。


「なぁ」

「はい、なんでしょう?」

「リズムはどうしてそんなリスクを犯してまで、過去へ来たんだ?」

「……それは、善さんの子孫をお守りするためです」

「うーん、それがよく分かんないんだけどさ、未来にはリズムを作った人が存在している訳だろ? なら、わざわざ過去に来てまで子孫を守らなくてもいいんじゃないか?」

「……」


俺の問いかけに、黙り込んでしまったリズムは俺の顔をジッと見つめる。


「あ、わ、悪い……ちょっと気になったもんで聞いただけだから。言いたくないなら別に……」

「……ごめんなさい、善さん」


リズムは何故か目を伏せて謝る。


「へ?」

「今はまだ、お話しする事は出来ません」


キッパリとそう告げた。


「でも、いつか話せる時が来たら、必ず全てお話します。ですから、今はまだ……何も聞かないでください」


そう言い残して、リズムは部屋を後にした。

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