何者ですか?
俺たち3人は皆月の使っていると言う空き教室に行き、日が暮れるまで「メグル」という名前の人物が現れるのを待っていた。
「なんか、悪かったな。部活の邪魔して……」
俺が頭を下げると、皆月は両手を左右に揺らし「全然、そんなことないです!」と返した。
「いつも1人だったから、楽しかった、です」
「そうか?」
「メグちゃんもたまにしか来ないから……」
「メグルさんは月に何回くらいここにいらっしゃるのですか? 時間は? 先月は何日の何時に? 記録は残っていないのですか?」
「おい、リズム。いい加減にしとけよ」
「あ……すみません」
また暴走しそうになるリズムを俺は軽く抑える。
「お前、急にどうしたんだよ。そのメグルって人に何かあるのか?」
「それは、その……」
何故か珍しく歯切れが悪い。もしかしたら未来に関わる事で、皆月がいると言いにくいのだろうか?
「まぁ、いいや。家に帰ってから聴くよ」
俺は2人に「そろそろ帰ろうか」と言って立ち上がった。あまり遅くなっては、妹が心配する。
「あ、あの!」
「ん?」
皆月が泣きそうな顔で俺を見上げた。
「お、お二人はど、ど、同棲、し、してるんですか!?」
「同棲!? いやいやいやいや、違う違う違う!」
俺は慌てて首を横に振った。そうだった、皆月にはリズムとの関係を説明していないから、今までの会話でそう誤解することもあるだろう。
「リズムは俺の親戚みたいなもので、全然そういう感じじゃなくて!」
「私はこの国にきてまだ日が浅く、一人暮らしをするには多少の不安があったので、善さんのお父様にお願いして居候させていただいているんですよ」
慌てる俺にリズムが冷静にフォローを入れる。
「親戚……」
「そ、そう」
「そうなんだぁ!」
皆月は納得したように手を叩いた。
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帰り道、皆月を家まで送り届けた俺たちは2人並んで家路を歩いていた。
「今日は色々とすみませんでした」
先に口を開いたのはリズムだった。
「いや、別にいいんだけど。お前の目的がよくわかんないから説明して欲しいなーとは思うけど……まぁ、言いたくないことなら別に無理して話さなくてもいいけどさ、あんま無茶だけはするなよ?」
「はい」
「未来のこととか、人にバレたらまずいんだろ?」
「それは……はい。おっしゃる通りです」
「なんか問題が起きて、一緒にいられなくなったりしたら嫌じゃん」
「……え?」
「せっかく楽しく過ごせてるのにさ」
「……ふふっ」
リズムは小さく笑った。
「善さん、それは……」
リズムが何かを言いかけた瞬間、それは目の前に現れた。
「うわ!?」
リズムが立っていた場所に落ちてきたそれは、轟音と共に地面に大きなひび割れを作り、俺は衝撃で尻餅をつく。
「アナタ、何者ですか」
俺の目の前に現れたのは、見慣れた白いリボンを頭につけたリズムだった。
黒いリボンのリズムはブロック塀の上で立ち上がる。
「私はリズムですよ。アスピカ・リズム。あなたと同じヒューマノイドです」
「……っ! あなたの目的は何ですか!」
「それはあなたには関係のない事です。……さようなら」
黒リズムはそのまま大きくジャンプをして暗闇に姿をくらませた。
「待ちなさい!!」
「痛って…」
リズムが後を追おうとしたが、尻餅をついた俺に気がつき青ざめた顔で振り返った。
「善さん! ごめんなさい、大丈夫ですか!? どこかお怪我は……」
「いや、大丈夫。尻餅ついただけだから」
「私、つい必死になってしまって、力加減が出来ませんでした!」
リズムはあわあわと慌てふためき、俺を抱え上げようとしたので俺は慌ててそれを振り払う。
「大丈夫だから! 歩ける! と、とりあえず帰ろう、家に! 話はそれからだ!」
「は、はい!」
俺は起こった出来事の全てが処理しきれず、パンク寸前の脳を必死で落ち着かせよう頭を振った。




