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月のない夜に

「善!」


いきなり名前を呼ばれた俺は、慌てて飛び起きた。

女子に膝枕してもらっているところを誰かに見られてはないだろうかとあたりを見まわすと、少し離れた所に勇希が立っていた。


「用事は済んだか?」

「お、おお」

「なら早く帰ろーぜ」


勇希は普段通りの様子で声をかけて来た。どうやらリズムに膝枕されていたところは見られていないようだ。俺は安堵し、校門へ向かった。


「……? どうかしましたか?」


勇希はなぜか立ち止まったまま、リズムを見ていた。


「アンタもしかして、男……なわけないか」

「?」


勇希の質問にリズムは首を傾げた。勇希はそれ以上何も言わなかった。



帰り道、勇希が俺に話題を振った。


「あ、そうだ。来月の子供の日だけど、大丈夫だよな?」

「ああ、そういえばもうそんな時期か。まぁ、多分大丈夫。毎年のことだし、予定は空けとくよ」

「来月、何かあるんですか?」


リズムが質問する。


「そうだ、今年はコイツも一緒に行っていいか?」

「ん、まぁウチは全然構わないけど……」

「?」

「来月、勇希んちの寺で祭りがあるんだよ。で、それの手伝いに人手が必要なんだ」

「お祭りですか! それはとても興味あります! ぜひお手伝いさせてください!」

「お、おお……。そんな派手な祭りじゃなくて、町内会のちょっとした催しだから、あんまり期待はするなよ?……まぁ、とりあえず、人手は多い方が助かるからな。よろしく頼むわ」

「はい! こちらそこ、よろしくお願いします。勇希さん!」



帰路に着き、夕食後の片付けをしていた俺は冷蔵庫の中身を見て呟いた。


「げ、明日の牛乳がない」


牛乳を買いそびれていたことをすっかり忘れていた俺は、慌てて財布を手に取り玄関へ向う。


「俺、ちょっとコンビニ行ってくるわ」

「それなら私が代わりにいきます」


後をついて来たリズムに俺は首を振った。


「いや、いいよ。喜美を1人にする方が心配だから、リズムは留守番しててくれ」

「そうですか、わかりました。では、ご自宅はしっかり警備しておきます!」


リズムはすぐに了承し、敬礼のポーズをとる。

俺は2階にいる喜美に声をかけた。


「喜美〜! コンビニ行ってくるけどなんか欲しいものあるか〜?」


すぐにポケットに入れたスマホから音が鳴ったので、届いたメッセージを確認した。


「チョコミントアイスね。はいはい……」


俺はスマホをポケットにしまい、家を出た。



コンビニで目的のものを買い終え外へ出ると、先に店を出たサラリーマンがなぜか振り返り反対方向へと足早に去っていくのが見えた。


「?」

「いいじゃん、いいじゃん! ちょっとだけ俺らと遊ぼうよー」


コンビニの前に大学生くらいの男たちが何かを取り囲んで騒いでいた。先ほどのサラリーマンはあれを避けて行ったのか。


「あの、うぉは…もうお家に帰らないと……」


大学生に取り囲まれていたのは背の低い女の子だった。彼女は今にも泣きそうな顔でこちらを見た。俺は思わず立ち止まる。

彼女は長いふわふわとした髪型をしていて、俺と同じ高校の制服を着ていた。


「あ、わり〜、待たせたな〜」

「……え?」

「悪いね、お兄さん。俺のツレです。さ、帰ろうぜ」


俺に突然話しかけられた女子は驚いた顔をしていたが、俺は構わず彼女の手首を掴んで歩き出した。


「チッ、男がいたのかよ、萎える〜」


後ろで男達のボヤく声が聴こえた。


しばらく無言で歩き、コンビニが見えなくなったところでようやく彼女の手を離し、俺はものすごい勢いで持っていたコンビニ袋に胃の内容物を吐き出した。


「あ、あの、大丈夫、ですか…?」


突然、ゲロった俺に戸惑いながらも心配そうに声をかけてくれる女子に俺は涙目で謝った。


「ご、ごめん。俺、ちょっとアレルギーがあって……」

「アレルギー?」

「じょ、女性がちょっと苦手で……悪いけど少し離れてくれるか?」

「あ、ご、ごめんなさいっ」


ゆるふわ髪の女子は慌てて俺から距離をとった。


「……あの、どうして助けてくれたんですか?」

「困ってたみたいだし、見て見ぬ振りは出来ないでしょ」


そう答えた俺を見て、彼女は丸い目をさらに丸くしてパチクリと瞬きをした。


「……?」

「あ、うぉ…は、皆月魚花(みなづきうおか)と言います……あなたは?

「俺? 俺は久保田善。同じ八高の2年」

「お、同じ学校! それに学年も一緒……うぉは、3組です!」

「お、じゃあ隣のクラスだ。俺2組」

「わ! すごい偶然!」

「え、どのへんが偶然?」


俺のツッコミに皆月がおかしそうに笑ったので、俺も釣られて笑ってしまう。


「家はこの辺? 暗いから送ってくよ」

「だ、大丈夫です。お家、すぐそこだから」

「そうか? じゃあ気をつけて帰れよ」

「はい、今日は助けてくれて、本当にありがとうございました。ま、また、学校で!」


皆月はパタパタと小走りに駆け出して行った。その後、何度か振り返り、俺の姿が見えなくなるまで手を振っていた。

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