オーパーツとは
オーパーツとは何だろうか。
私は、この問いに、"何にも囚われることのない生命の神秘"と答えよう。
「それで、野比さん、ボクはオーパーツなのでしょうか」
「多分、違うんじゃないかな」
俺の名前は、野比不憫。
不憫な名前だね、って良く言われるが、不憫な名前では無く、不憫が名前なのだ。
不憫に生まれたそんな俺の人生は、やはり不憫なものだった。
一ヶ月前、勤めていた会社が倒産したのだ。
途方に暮れていたある日、喋る犬を拾った。
「オーパーツになるにはどうしたら良いですか」
そいつの第一声はそんな言葉だった。
「ハロワに行け」
俺の返答はそんな言葉だった。
「そもそも何でお前はオーパーツになんてなりたいんだよ」
「なんかかっこいいじゃないですか、オーパーツって」
「え、そんな理由なの」
「そんな理由とは何ですか。夢を見る理由に優劣なんてないんですよ。
何にも囚われない、それが"夢"です。そういった面では"夢"もオーパーツかもしれませんね」
「いや、違うだろ」
そもそも、オーパーツの定義とは、"場違いな工芸品"なのである。だから、工芸品でも何でもない夢は、オーパーツでも何でもないし、ましてや喋る犬も、オーパーツたり得るわけがないのだ。
「実は、ボクは元々、人間でした」
「え、まじか」
「まじです。
ボクは元々オーパーツを探し求める研究者だったのです。
ですが、オーパーツを探し求めるあまり、いつしかオーパーツそのものになりたいと思うようになりました」
「馬鹿だろ」
「ええ、確かにボクは馬鹿で愚かでクソ野郎だったかもしれません」
「いや、そこまでは言ってないけど」
「私ごときがオーパーツになりたいだなんて烏滸がましいにも程があります」
「あー、なるほど。そういう感じね、理解した」
「そして、やはり私はオーパーツになることはできなかった。まるで愚かであることを指し示すかのように美少女から犬になってしまった」
「いや、犬って案外賢いと思うよ。っていうか、お前女だったのかよ。犬の姿とはいえ、裸の女性を家に連れ込むというシチュエーションには背徳感を覚えるな」
「しかも私は未熟ゆえ、この犬の姿も1時間しか保たないのです」
「へー、って、今なんて」
「せっかく、犬の姿になったからと、外に散歩に出て迷ってしまった時はどうしようかと思いましたが、あなたに拾ってもらったのは幸いでした。外で元の姿に戻ってしまえば、露出狂として捕まるところでしたので」
「え、それって」