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第4話 インペリアルガーディアン

 帝国ウィスティリアのお城付近にある『オーリム家』は、それはそれは大きなお屋敷だった。ポルフィルン城とまではいかないにしろ、かなり大きい。


 他の邸宅とは並外れていた。



「お庭……広いですね」


「ええ、この庭は十分程度は歩ける距離があります。向こうは庭園もあって、お花畑もありますよ。噴水は三基。テラスもいくつか……なので、エキャルラット辺境伯はよく花を愛でながら紅茶を楽しんでいますね」



 す、すご……。

 緑が永延とどこまでも続いて、フルカラーに咲き乱れる花も綺麗で素敵。謎めいたファッションをした頭髪虹色の庭師らしき方達もいた。……あ、あの人はいったい。


 いやそれにしても、こんな所でお茶とか優雅すぎる。



「そうでした。これからお世話になりますし、まずはエキャルラット辺境伯様にご挨拶をしたいです」


「残念ですが、父は現在、急務で他の領地へ視察中……不在なのです。そこは、通称『聖域』と呼ばれている場所でしてね」


「聖域……ですか」



 初耳。

 そんな大層な場所があるのね。



「ええ、聖域はこの庭のように美しい花の楽園です。僕は一度だけしか入った事がないのですが……それはもう美しくて時間を忘れてしまう程でした。父曰く、近々僕に引き継がせると仰っていました。なので、もしかしたら近いうちに聖域領地クォ・ヴァディスを戴けるかもしれませんね」



「わぁ、領地を……。さすが辺境伯様ともなると、いろんな領地を任されているのでしょうね……」


 クォ……なんとか凄そう、っていうか、噛みそうで言い辛い! なんだか、わたしには理解できない世界。我が家も確かに貴族ではあったけれど、所詮は田舎の出。帝国貴族とは違う世界。


 見てきたモノも感じてきたモノも当然違っている。でも、今はわたしは少しずつだけれど、新しい世界に踏み込めているような気がしていた。



 いや、間違いない。



 わたしは間違いなく新世界に踏み込んでいる。




 ……あ。ちょっと楽しいって思った。



 この人と……カエルム様ともっとお話がしたい。




「そうですね~、数十は領地を管理していると思われますよ。毎日多忙の身で、最近では会話する余暇さえありません」


「そ、そんなに」


「ですから、お屋敷には僕と兄上しかおりません」

「いえ、あの……虹色の庭師さんはいったい……」



 気になって庭の方に視線を向ける。

 なんというか、すっごく目立っている。




「ああ……あれは兄のユーデクスです」


「え……ええええ――――ッ!?」




 あ……あの虹色頭の庭師かと思った男性が……カエルム様のお兄さん!? あれは一体、どんなの趣味なの。



 驚きのあまり口ぱくぱくさせていると、庭師――いえ、お兄さんがこちらに気づいた。


「おぉ、カエルムじゃないか。帰ってきたのだな! 俺は兄として鼻が高いよ。何故ならお前は帝国に認められたインペリアルガーディアン。最強の騎士なのだからな」


「いえ、神速剣と讃えられた兄上の剣技には及びません。僕はただ運が良かっただけなんです。だから、本来なら兄上がインペリアルガーディアンになるべきだったのです」



「謙遜するな、弟よ。……それより、こちらの窈窕淑女(ようちょうしゅくじょ)様は?」




「この女神のような女性は、スピラ・ネルウス様です」



 あれ、なんかお兄さんと張り合ってる?

 ま……まあいいや。


 紹介されると、ユーデクス様は手に持っていた(はさみ)を地面にポロっと落とした。庭仕事していたんだ……。


 それから、足元をがくがく震えさせて驚愕していた。

 そんなに驚くほどだったのかな。



「えっと……すみません。わたし何かしました?」


「い、いえ……その、カエルム! ちょっと来い!」



 なぜかお兄さんは、カエルム様を呼び出し……隅でヒソヒソ話を――こっちを見ながら耳打ちされている。そう目の前でやられるとちょっと居心地が悪い。



「なるほど分かった! カエルム、あの女性はお前が守れ!! あの悪漢ヘルブラオ・ヴァインロートから守護するのだ。それがお前の宿命というわけだ」



 ――なんのこと?


 蚊帳の外すぎて……う~ん。



「ありがたきお言葉です。兄上」


「あの~…わたしはいったい」


「ええ、スピラ様。貴女様には詳しく事情を説明する必要があります。ですので、屋敷内へご案内いたします。こちらへ――」



 その前にわたしは、ユーデクス様と挨拶を交わす。



「スピラ・ネルウス様……愚弟をよろしくお願いします。あれは……俺の婚約者であったグラキエス・インサニアから毎日のようにストーカー被害を受け、精神的に追い詰められているようなので俺は、その負い目を感じているんです」



 だから頭がレインボーなのかな。



 おっと、いけない。

 彼は至って真面目で真剣なのだ。




「……分かりました、ユーデクス様。わたしはお世話になる身ですが、カエルム様の心のケアとか任せて下さい。わたしにはそれくらいしか……恩返しが出来ませんから」


「素晴らしい。まるで女神のような女性(ひと)だ」



 それ、さっきカエルム様が仰ったような……。

 やっぱり張り合っているの!?



 会釈してわたしは、カエルム様の背を追った。

 エキャルラット辺境伯のお屋敷にお邪魔すると――いきなり礼拝堂(・・・)があって、わたしは衝撃を受けた。



 なに、このお屋敷……。

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