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第15話 わたし、聖女ですから

「聖女スピラ・ネルウス、これはまだ第一歩を踏み出したに過ぎない。運命に抗う程の力を得るには、祈りを捧げねば。今後、毎日教会へ来られ祈るのだ。宜しいかな」



「……ま、毎日ですか……」

「嫌というのかね?」



 オムニブス枢機卿からギロッと(にら)まれ、返す言葉も無かった。そっか……聖女ってそんな楽な存在でもないわよね。



 でも諦めない。


 わたしは、この道を自ら選択し、己の足で歩み始めたのだから――。



「わたし、がんばります……!」



 ◆



 陽が沈み、闇が空を覆い隠す。


 遥かなる宇宙が創りだす幻想の散光星雲(ネビュラ)


 菖蒲(あやめ)色を織り成し、世界を祝福する。



「あれは、ペルペトゥス神の涙『カルブンクルス』と呼ばれておりますね。サラマンドラの業火を一瞬にして鎮火したという神話があります」


「わぁ、お詳しいのですね」


「ええ、子供の頃から宇宙(そら)を見上げておりました。あの暗闇の向こうには何があるのかと――でも、今は星々よりも美しい女性に恋心を抱いているのです」



 ――そう言われ、わたしはドキッとした……そ、それって……




「冗談じゃありませんわ!!」




 ――いきなり誰かが叫び、遮られた。


 良いところだったのに!



 誰かと思っていれば……



「あ……」



 ゴンドラ下船時にヒソヒソとこちらを見ていた女性達のひとりだった。カエルム様がわたしを(かば)うようにして前へ。



「お嬢さん、どなたか存じませんが……む、貴女は」



「お気づきになられたようね。そう、わたくしはフェリクスです。インフラマラエ侯爵令嬢と言えば御存知なのでは。

 カエルム様、わたくし言いましたわよね。アナタをわたくしのモノすると。今日の行いをずっと監視させて戴きましたが……なんてつまらない女を連れ歩いていますの」



 ジロッと見られる。


 うぁ、目つき悪い。


 ――って、誰がつまらない女よ!!


 失礼しちゃうわ!!



 け、けれど、わたしは聖女。

 聖なる女たるもの、これしきで動じてはダメ。そう自分に言い聞かせ、平静を保った。



「スピラ様は、お優しく聡明なお方です。そのような侮辱……訂正して戴きたい」


「こんな田舎娘が!? ふざけないで!! こんなイモ臭くってドジでマヌケな女……女としての価値もありませんわ!! カエルム様とは釣り合わないし、身分も違いすぎる。……そうね、アナタには公娼がお似合いよ」



「…………」



 そんな言い方って……!


 さすがに言い返そうとしたのだけど――




 別の方角から男性が現れ、彼女の名を叫んだ。



「フェリクス! フェリクス! こんな所にいたのか……!」

「オムニブス!?」




 ――って、このお爺様!!




「オムニブス枢機卿……?」


「む? うぉ!? カエルムに聖女スピラではないか」



 それを聞いたインフラマラエ侯爵令嬢も――



「はぁ!? この女が聖女ぉ!?」



 ついに全員が顔を合わせ――





「「「「どういうこと!?」」」」





 と叫んだ。




 ◆




 ――つまり、インフラマラエ侯爵令嬢はオムニブス枢機卿の婚約者だったようだ。家の取り決めてそうなったらしい。でも、歳の差がありすぎてインフラマラエ侯爵令嬢……フェリクスさんは不満を爆発させたみたい。



 そこで、インペリアルガーディアンで有名かつ若くて勇ましいカエルム様に目をつけたのだとか。



「嘘でしょ……」

「それが本当なのだ、聖女スピラ」



 えぇ……。

 一方のフェリクスさんは怒りに満ちていた。



「このクソジジイ! ヘンタイ! わたしはニ十歳よ! アンタなんか死にぞこないの六十の老いぼれじゃない!」



「失礼な。私はまだ五十九だ」


「大差ないじゃない!! 婚約は破棄よ! いくらお父様がお決めになったからと……枢機卿が相手だからと限度というものがあるわ!」



 フェリクスさんにもほんの少しだけ同情できる点があったのね。こうなると、わたし達はお邪魔になる。



「あのう……。すみませんが、わたしとカエルム様は帰ります。あなた方の問題に首を突っ込む気もありませんし」



「な―――っ!」



 口をパクパクさせるフェリクスさん。ちょっと待ってよという目をされても、知りません。(きびす)を返そうとすると、カエルム様が重い口調でこう言った。



「インフラマラエ侯爵令嬢。スピラ様への侮辱を謝罪して戴きたい。枢機卿の前ですし、まさか……貴女ともあろう方がこのまま逃げるなど……ありますまい」



「――――っ!!」



 ついにカエルム様に反撃され、インフラマラエ侯爵令嬢は立場がなくなり、顔を青くした。悔しそうにわたしを(にら)む。



「……くぅ。ご無礼、も、申し訳ありませんでしたわ……。まさか、貴女が聖女様だなんて思わなかったですの……」



 そう、聖女は爵位に関係なく上位の存在(・・・・・)となる。カエルム様のインペリアルガーディアンと同等の存在だった。わたしは彼と同じになったのだ。



 もうわたしは、弱いわたしではない。



 わたし、聖女ですから。

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