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第14話 アルゼンタム教会

 帰る前にもう一か所立ち寄りたいという場所があるようで、そこへ向かった。



「――教会、ですか」


「そうです。ここは帝国ウィスティリア最大のアルゼンタム教会。此処(ここ)には有名な大賢者様がおられるのですよ。その方に逢って戴きたい」



 お城のような教会があった。

 そこへ巡礼者が多く行き交っていた。あんなに多くの信者の方がおられるのね。そのせいか、外から見てもその神聖な空気感が伝わってくる。



「ここにどなたが?」



 教会の中へ歩きながら聞く。



枢機卿(カーディナル)様です」


「えぇ? そんなお偉い方とお逢いできるんですか……」



 戸惑っていると、奥から礼服に身を包む白髪白髭のお爺様が現れた。あのお方が……大賢者にして枢機卿。



「オムニブス枢機卿。予定通り参りました」

「おぉ……カエルムではないか。おや、そちらの金髪のお嬢さんは?」


「こちらの方はスピラ・ネルウス様です」



「これは美しい御仁ですな。カエルム、やっと運命の人が見つかったのかな」

「か、かもしれません。……いえ、その通りです」



 恥ずかしそうにしながらも、カエルム様は認めた。う、運命の人……良い響きね。



「あの……スピラ・ネルウスです」

「ほう。(なんじ)は清き心を持っていますな。ふむ……ふむふむ」



 オムニブス枢機卿は左手をわたしに向けられ、何かを感じ取っていた。やっぱり、こういう賢者様とかって聖なる魔法みたいなもので相手の心とか読み取れるのだろうか。


 不思議がっていると……



「な、なんと……! カエルム、これは……」

「ええ、聖女様かもしれません」



 ガタッと後退る枢機卿は、驚いて倒れそうになられていた。――ちょ、ちょっと驚きすぎでは……。



「――なんて事だ。道理で心に一点の曇りもないわけだ。これほど清廉(せいれん)潔白(けっぱく)な方は珍しい。スピラ・ネルウス、汝は聖女になるべき存在」


「わ、わたしが……聖女ですか」



「間違いない。力を目覚めさせれば、運命に抗う力を得られましょうな。そして、聖域への立ち入りも容易となる」



 運命に抗う力?

 聖域への立ち入り?



「あの、カエルム様……」


「そうです。僕とスピラ様がいずれ共にする聖域領地クォ・ヴァディスは、聖なる者しか入れないのです。だから僕は余計に運命を感じた……」



 そうだったんだ……。

 ちょっと嬉しいかも。



「カエルム様、嬉しいです……」

「ええ、僕もです」



 手を取って見つめ合っていると――オムニブス枢機卿は、わざとらしく大きな咳をなされた。……あ。



「……カエルム、そこまで発展していたとはな。しかし、貴殿の兄上・ユーデクスから聞いたぞ。ヘルブラオ・ヴァインロートなる者が不穏な動きを見せていると」


「その通りです。彼女はその男に騙され、僕の家へ」


「粗方は耳にしておる。……なるほど、だが、スピラ・ネルウス。汝は幸運にも聖女の資格を持っていた、と」



 (まぶた)を閉じ、瞑想に更けられる枢機卿。やがて、ゆっくりと口を開かれ、こう申された。



「スピラ・ネルウス」

「はい……」



「神は慈悲深く、寛容であらせられる。汝に僅かでも信仰心があり、ペルペトゥス神にその身を捧げるというのなら、アルゼンタム教会への入信を受けれよう」



 ――迷う事はない。


 わたしはカエルム様と一緒にいたいし、運命にも抗いたい。


 幸せを掴む為にも――。





「わたし、聖女になります」





 この日、わたしは、ただの田舎令嬢ではなくなった。

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