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第45話 老近衛騎士

 セルバンテス大公に罪の重さを存分に理解させた(=なぶり殺した)リュージは、


「ふぅ……」


 復讐の達成感とともに、失われた人は決して戻ってこないという現実をまたもや再確認し小さくため息をついてから太閤の間を後にするべく(きびす)を返した。


 そこへ、


「なんということじゃ!」

「皆殺しだと!?」

「むごい死体だ……」

「用心棒のフロスト殿まで――!」

「セルバンテス大公閣下!」


 リーダーの老騎士に率いられた、近衛騎士の一団12名が大公の間へとやってきた。

 近衛騎士だけが装着を許される美しい装飾のなされた鎧を、全員が装備している。


 別の場所を警備していた彼らは、大公の間の騒ぎを聞きつけて馳せ参じたのだった。

 そしてリュージの行く手を阻むようにして、大公の間の入り口で立ち塞がった。


「この惨状はお主がやったのか?」


 代表して声を発した老騎士の問いかけに、


「そうだ、俺が殺した。姉さんとパウロ兄のかたき討ちのためにな」


 リュージは静かに答えた。


「復讐というわけか」


「ああ。ところでそこに立たれていると通れないんだが?」


「悪いがお主を通すわけにはいかん。復讐とはいえ我が主君を討った者を、近衛騎士たる我らがみすみす逃がすわけにはいかんのでな」


「セルバンテスはどうしようもない愚か者だった。忠誠を尽くす価値はこれっぽっちもないと思うんだけどな?」


「騎士道とは忠義をもって道と為すなり」


 老騎士がリュージの言葉尻に被せるようにして発した、その教え諭すような上から目線の言葉に、


「は?」


 リュージは露骨にイラっとした顔を見せた。


「たとえ愚かであっても、剣を捧げたからにはセルバンテス大公閣下に忠誠を尽くすのが真の騎士道というものなのだ。それが近衛騎士であるならなおさらよ」


「へぇ、それで後を追って死のうってか? 言っておくが、お前ら程度じゃ束になっても俺には触れることすらできないぜ?」


「それもまた騎士の道だ。諸君! たとえ敵わぬとしても亡き主君への忠義のため、せめてあのならず者に一刺ししてみせようぞ! 騎士の誇りを今ここで示すのだ!」


 老騎士が剣を抜いて天を指して突き上げると、この展開を予想していたのか残りの騎士たちが呼応して次々と抜剣していく。


 唯一、老騎士のすぐ隣にいた一番若い近衛騎士だけは全くの想定外だったのか、完全に出遅れてしまって焦ったように剣を抜いた。


「くだらねぇな」

 しかしそれを見たリュージは吐き捨てるように言った。


「……くだらないとは、どういう意味だ?」


「忠義だの騎士道だの誇りだの、そんなもんはただのおためごかし、何の役にもたたないゴミだと言ったんだ」


 セルバンテス大公への復讐を果たして少しだけ収まっていた世の理不尽への怒りが、再びリュージの中で鎌首をもたげていく。


「我らが騎士の生きざまを侮辱するか!」


「なにが騎士の生きざまだ、なにが騎士道だ。汚いゴミクズに、またたいそうご立派な名前をつけたもんだな?」


「なにィっ!?」


 己の人生と言っても過言ではない騎士道をゴミと罵られた老騎士は、顔を真っ赤にして声を荒げた。


「なにが違うってんだ? セルバンテスの邪悪極まりない振る舞いに見てみぬふりをし。忠義などという美辞麗句で己の思考停止と自己保身を賛美し。だけでなく、それをさも美しいものであるかのように見てくれだけ飾り立てる。あまりに醜悪すぎて反吐が出るぜ」


「なんだとっ!」


「おいおい、お前らが忠義を尽くそうとするセルバンテス大公閣下のご評判を知らないのか? 大の女好きで、気に入った娘をさらっては好き放題犯していたってことは、遠く離れた王都でも噂されていたことだぜ? それをまさか、すぐ近くにいたお前らが知らないわけはないよなぁ?」


「ぐ――っ」


 リュージのこれ以上ない正論の前に、老騎士は論理的に反論するための言葉を完全に失ってしまっていた。



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