第24話 グラスゴー会長の罪
「7年前?」
「神聖ロマイナ帝国第十二皇子カイルロッドが7年前の夏にお忍びでやってきた。その時に接待を任されたのが筆頭御用商人だったお前だ」
「カイルロッド皇子の訪問は極秘だったはずだが、なぜお前のような者がそのことを知っているんだい?」
「今質問しているのは俺だ、黙って聞けよ」
「てめぇ、会長に対して何を偉そうに――ぎゃあっ!」
話に割って入り、リュージの胸倉を掴もうとしたゴロツキリーダーを、リュージが容赦なく斬った。
スパンと驚くほどに間抜けな音がして、ゴロツキリーダーの首が胴から離れて落ちる。
「うるせえんだよ、永遠に黙ってろ」
「……っ!」
荒事には慣れているはずのグラスゴー会長と最高幹部も、一片の容赦もない殺戮を見せられて一瞬息をのんだ。
リュージが脅しの意味も込めて首を刎ねたのは、2人とも当然理解している。
しかしそれでもそのあまり狂気じみた躊躇のなさに、2人は底知れぬ恐怖を禁じ得なかった。
「じゃあ静かになったところで話を戻すぜ? その時お前は町娘をさらわせたよな? 黒髪のよく似合う美しい女だ、覚えてないとは言わせない」
「……そんなことまで知っているとは、お前さんはいったい何者だい?」
会長の顔が最大限の警戒心を露わにする。
「俺の名前はリュージ。お前がさらわせた町娘の弟だ」
「あの時の娘の弟、お前さんが……」
「俺が知りたいのは拉致実行犯の名前と居場所。そしてもう1つ、助けに向かったパウロ兄を殴り殺したやつらの情報だ」
「……もし断ると言ったら?」
「正直に教えたくなるまで、お前を容赦なく痛めつける」
むき出しの殺意を見せつけて言ったリュージに、
「……ふっふふふ」
グラスゴー会長が小さく笑った。
「なにが可笑しい?」
「正直に教えたくなるまで容赦なく痛めつけるだと? 馬鹿め! この屋敷には300人を超える私兵がいるのだぞ?」
「それがどうした?」
「くくっ、強がっても無駄よ! 300人を相手に、たった1人の剣士風情に何ができるものか!」
「事ここに至って反省の色すら見せないとは、本当にどうしようもない大悪党だな、てめぇは」
リュージの中で憎悪がマグマのように煮えたぎっていく。
「なにを言おうとしょせんは多勢に無勢よ! 者ども、曲者だ! であえ、であえ!」
グラスゴー会長の声が屋敷に響くとともに、あちこちの部屋から剣を持った私兵たちが次々と現れた。
「へへっ、なんすか会長?」
「こやつは我が屋敷に忍び込んだ不届き者だ、今すぐ斬って捨てい! 生かしてこの屋敷から帰すな!」
その言葉を聞いた私兵たちは、にやつきながらリュージを取り囲む。
「やれやれまったく。なるべく殺さないって約束したんだけどな。でもこれは仕方ないよな、うん」
「まだそんな戯れ言を言っているのかい? 置かれた状況もわからぬ愚かな青二才めが、己の力を過信したまま死にゆくがよい!」
「お前こそ、まだ相手の実力がわかってないのか? いいぜ、なら見せてやるよ、神明流の誇る対軍奥義を――たった1人で軍隊を丸々相手にできる絶剣技をな」
「対軍奥義だと? ふん、そんな虚仮威しが通じるものか」
「虚仮威しがどうか、その目でしかと確かめるといい――神明流・皆伝奥義・五ノ型『乱れカザハナ』」
リュージの『気』が一気に膨れ上がった。
膨大な『気』が身体の隅々にまで巡っていく。
「じゃあ行くぜ――?」
その言葉が発せられた瞬間。
取り囲む輪の最前列にいた私兵6人が、首から真っ赤な鮮血を吹き上げてその場に崩れ落ちた。
リュージの激烈な踏み込みからの横一文字が6人の首を斬り裂き、たったの一太刀で瞬時に絶命させたのだ。
「え……?」
「は……?」
状況を認識できていない私兵たちの間抜けな声が、ちらりほらりと上がる。
もちろんそんな決定的なまでの隙を逃すリュージではない。
まるで冬の晴れた日に舞う風花のごとくリュージの姿が乱れ舞い、銀閃がきらめいた。
目にも止まらぬ高速機動から放たれる連続の斬撃。
しかも一太刀が2人3人、3人4人と斬り殺していくのだ。
神明流・皆伝奥義・五ノ型『乱れカザハナ』。
大量の『気』を消費することで身体能力を猛烈に高め、1人で大多数の相手と同時に戦う神明流の対軍奥義は、300人という小さな兵団規模になる私兵たちを相手にしても、後れを取ることはなかった。
「な、なにが――ぎゃぁ!」
「ぎはぁっ!?」
「ぎぁっあ!?」
そしてグラスゴー会長の豪奢な大邸宅は、瞬く間にリュージという死神によって描かれる地獄絵図と様変わりした。
容赦のない殺戮の嵐により、物言わぬ死体だけが恐ろしい速さでどんどんと数を増やしていく。
あっという間に100人ほどが斬り殺されたところで、私兵たちはついに力の差を悟り、これは無理だと恐れをなして逃げ始めた。
最初の1人が逃げれば後は早い、私兵たちは一気に総崩れの状況になる。
「ぐぬぅっ、なにを逃げておるか貴様ら! 金貨100枚だ! あいつの首を獲った者には、金貨100枚と最高幹部の座を用意してやるぞ!」
しかしグラスゴー会長が発破をかけたことで、逃げ出していた半数ほどの私兵が取って返してきた。
そして無謀にも再びリュージに向かっていっては、
「たった金貨100枚ごときで、1つしかない命をドブに捨てるか――」
新たな死体となってその場に転がることになったのだった。
300人いた私兵は最終的に220人が斬り殺され、80人が命からがらにほうほうのていで逃げ出した。
そして今、
「あ、悪魔だ……お前は悪魔だ……」
「なんだお前、まだ生きてたのかよ。お前に用はないんだよ」
グラスゴー会長と一緒にいた最高幹部が、リュージに一刀のもとに切り伏せられて。
残されたのは、広大な屋敷にグラスゴー会長ただ1人だけとなった。
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