第19話 殺しのライセンス
「冗談はさておき、今後はこの部屋を寝泊まりに使ってください。なにせ女王の私室ですから誰もここには入ってこれませんので。わたしとお付きメイド以外は」
「それは助かるな、ありがとう」
「それと一つリュージ様にお願いがあるんですけど」
「聞く気はない」
「少し聞いてくれるぐらいはいいじゃないですか! ちゃんと前振りでお部屋を貸してあげる話もしたでしょう!? ちゃんと空気読んでくださいよ、わたしも寝てないんですよ!」
「なにいきなりキレてんだよ」
「じゃあ言いますね」
「聞かないって言っただろ」
「度が過ぎた殺人はできれば控えてください」
「断る、つーか聞かないって言ってんだろ」
「いいえ聞いてもらいます、度が過ぎた殺人は控えてください」
「……」
「控えてください」
「…………」
「ひ・か・え・て・く・だ・さ・い・っ!」
アストレアの強い意志を湛えた瞳が、リュージをとらえて離さない。
リュージは根負けして言った。
「つまり度が過ぎていなければ、殺してもいいってことだよな?」
「もちろんそこは復讐というあなたの目的を否定することになりますから、こちらも譲歩します」
「つまり女王様公認の『殺しの免許証』ってわけか。ブラックジョークとしてはなかなか悪くないな。キリング・クイーンとして後世に名が残るぞ」
リュージの軽口を、しかしアストレアは取り合わずに真面目な表情のまま言葉を続ける。
「ですがわたしにも見過ごせないラインはあります。だから約束してください、たいした理由もなく人を殺さないと。それがわたしにできる最大の譲歩です。わたしはリュージ様と上手くやっていきたいと思っています」
しっかりとした口調で、これだけは譲れないと強い意思を込めてリュージに伝えるアストレア。
ついにリュージは観念したように言った。
面倒くさくなったともいう。
「わかった。お前が譲歩するように、俺もほんの少しだけだが譲歩しよう。約束する、理由なく殺しはしない」
「ありがとうございます。やはりリュージ様は理性的で正義の心を持ったお方なのですね」
リュージが約束してくれたことに、アストレアは満面の笑みを浮かべた。
しかしリュージはやっぱりリュージなのだった。
「はぁ? 俺が正義の心をもっている? お前の目は節穴か? 頭は回るのに、大事なところで詰めが甘い女だなお前は」
「……はい?」
アストレアが、こてんと不思議そうに小首を傾げた。
「今のは適当に殺す理由を作ってから殺すというだけの意味だ」
「ええっ!!??」
「そんなことより」
「いやあのそんなことじゃないですからね? 少しは考えてくださいよ!? ねっ!? ねねっ!?」
「わかってるわかってる、前向きに善処する。それより頼んでいた件はどうなったんだ?」
「本当にわかってるんですか? まぁわかってることにしておきますけど……えっと、カイルロッド皇子を接待した商人の件ですよね。当時の王宮の記録を見ればすぐわかりましたよ。担当していたのはグラスゴー商会の会長ハインツ=グラスゴーです」
「グラスゴー商会会長のハインツ=グラスゴーだな?」
リュージはその名前を心に刻み込んだ。
強烈な憎悪と怒りがリュージの身体と心にみなぎっていく。
「ええ。ちなみにこのグラスゴー商会というのは王宮御用達の筆頭御用商人なんですけど、それはもうひどいところのようでして。王侯貴族に多額の賄賂を贈っては様々な特権を融通してもらい、時には商売敵を排除してその地位にまでのぼりつめたみたいです」
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