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04

「そうか、引き受けてくれるか。それは良かった」

俺の答えを聞いて、イルは満足そうに微笑み、

「では、この情報を提供しても問題はなさそうだな」

と、敵の居場所を発見した事と、他の者たちは既に動いている事を教えてくれた。

仕事の早い事だ。ただ、先を越されるのを避けたい俺にとってはあまりいいい話じゃない。

「ところで、そちらが情報を手に入れたのはいつ頃の話ですか?」

「ちょうど一時間ほど前の事だ。もっとも、ラウたちはもっと早くに捕捉しているだろうがな」

「……でしょうね」

ヘキサフレアスの最大の強みは情報だ。本来のポテンシャルを発揮できているのなら、誰よりも早く敵を丸裸にすることだろう。

「あぁ、そうだ、協力者全てに報酬は支払うが、貢献の度合いによって追加の報酬を上乗せし、さらに首を持ってきてくれた者には、その三倍を支払うという話はもうしただろうか?」

「……いえ」

「ドールマンのように乗り気でない者も居そうだったのでな。犠牲を生んででも成果を優先する事にした。それを糧に、そちらも気を張ってもらえると助かる。では、期待しているぞ。レニ・ソルクラウ」

その言葉に応えることなく、俺は彼の書斎を後にした。

ドアを閉めたところで、ため息をつく。

イル・レコンノルンという人物には、そこまで嫌な印象はなかったんだけど、今回の件で最悪な部類になったと言ってもいいだろう。

母はまだ、元居たの世界にいる。イルの読みは外れたわけだけど、これで多くの人がその世界に足を踏み入れる決断をしたはずだ。

向こう側で戦争が起きる。そして巻き添えに多くの人が危険に晒される。それが嫌ならお前が早く片付けろと、イルは暗に言ってきたわけだ。落ちてきた人達の救助を求めた代価は、思っていたよりも大きくなりそうだった。

「なにか、進展はありましたか?」

部屋の外に控えていたミーアが聞いてくる。

その腰には細剣が携えられており、同行する意志が滲んで見えた。

正直、彼女を付き合わせるつもりはなかったので、一人でイルのところに行ったんだけど、どうやらそれが読まれていたようだ。

「今の私は戦力になります。それに彼も私の協力を拒みはしないでしょう」

こちらの表情を見てか、ミーアは淡々とした口調で言った。

つまり、俺が断ってもイルから情報を訊きだして勝手に動くというわけである。。

口先だけではなく、彼女なら本当にそうするだろうというのは、これまでの行動を振り返れば容易に想像がついた。

だったら、自分の目の届くところで動いてもらった方がいいに決まっているし……それに、彼女が居てくれた方が、こっちの精神状態も多少は安定してくれるだろう。

最後は一人でやる必要があるけれど、それまではせめて誰かが居てくれた方がいい。

最後の最後まで、弱気を消しきれないのは嫌な感じだけど、消し切れるような相手なら、そもそも生前のうちに立ち直れていたのだ。だから、これはもう仕方がない。

「判った。でも、一つお願いがある」

「なんでしょうか?」

「ディアネットを殺すのだけは、なにがあっても私がやる。ミーアにはそれを邪魔する相手の対処を任せたいんだ。」

「理由を、窺ってもよろしいですか?」

「……向こうで話すよ」

他の誰かに聞かれたくはないし、ミーアにだってどこまで話すべきなのかを決めていなかった事もあり、俺は彼女の要求を一時保留して、足早に屋敷を後にした。

此処から向かうべき場所は広場の転移門だ。

イル曰く、その転移門を使えば、こちらの世界の影響を向こうに与えないために用意した空の結界を傷つけることなく、倉瀬蓮の世界に行けるらしい。

「……」

数時間の仮眠の間に、中地区の様子はずいぶんと改善されていた。

もう瓦礫の類も殆ど見つからないし、外を出歩く一般人の姿も多く目につく。この辺りは魔法という超常故の再建の早さといえる。

でも、向こう側の世界はそうもいかないだろう。三つ以上の市にあった建物が丸ごと全部無くなったのだ。コンクリートだって亀裂塗れになっていたし、元の生活を取り戻すまでにどれだけ時間がかかるのか……。

そんな憂鬱を抱えながら、転移門の前に到着する。

「やぁ、おはよう」

「……アカイアネさん」

仏頂面をした守衛の男の隣でこちらに向けて軽く手をあげた彼女に対し、俺は微かに身構えた。

それだけで、色々とこちらの心情を察してくれたのか、

「心配しなくても、私の標的は貴女とは違うわ」

と、彼女は言った。

「違う?」

「私は一応、リフィルディール側の人間だという事よ。でも、従順に彼女の側にいる人間という訳でもない」

「……つまり、他の神が今回の件に絡んでいて、リフィルディールはそれを黙認しているけれど、貴女はそれが気に入らない、という事ですか?」

「ええ、彼等は私が潰すから、貴方は自分の事だけを考えておけばいい」

そう言ってアカイアネさんは大人びた微笑を浮かべ、それからミーアの方に視線を向けて彼女をおもむろに抱きしめて、

「ミーア、レニをちゃんと助けてあげるのよ? それはきっと貴女にしかできない事だと思うから」

「そんな事、貴女に言われるまでもありませんが。というか、突然なんですか? 貴女が赤の他人なら斬り殺していましたよ?」

戸惑いを表情に見せつつミーアが言う。

その手は言葉のままに細剣の柄に掛けられており、突然の接近に反応した事を物語っていた。でも、反応したうえで回避するでもなく受け入れる当たり、彼女への信頼が窺える。

「多少無理をしても大丈夫な、おまじない、かしら」

おまじないというのは、強く抱きしめた際にミーアの心臓に流れされた魔法の事だろう。

「……それにしても、貴女の身体は柔らかくていいわね。ぱっと見より胸もあるし。羨ましいわ」

「――っ、離れなさい!」

しみじみとした呟きを前に、ミーアはアカイアネさんを押し退けた。

それによってアカイアネさんは数歩ほど後ずさったが、特に気にすることなく、瞑想でもしているかのように目を瞑り仁王立ちしていた守衛に視線を向けて、

「話は終わったわ。だから、早く扉を開けてくれないかしら?」

と、言った。

「……了解しました」

感情のない声で守衛さんが答え、転移門が開かれる。

その作業の硬さから、彼が単純に緊張しているだけだというのが判った。それがアカイアネさんに対してなのか、それとも異世界に対してなのかまでは探れなかったけれど、おそらくは後者だろう。

……そう思ったのは、俺自身がそうだからか。

一度は自分の意志で帰らないと決めた世界。まさか、こんな形で帰還する事になるとは思っても居なかった。

(目新しいものは期待できそうだな)

そんな俺とは裏腹に、レニは観光気分なようだ。

さすがに少しイラッとしたが、同じ気持ちを抱かれて二倍沈むよりはマシだろうと言い聞かせて、先に扉の中に入って行ったアカイアネさんの後に続く。

ちゃんと調整された転移門だったからか、俺たちはたった一歩で向こう側の世界に足を踏み入れ、

「――っ!?」

踏み入れて早々に、トルフィネでは絶対に味わえない歓迎を受ける事になった。

銃声を何十倍にも増幅させたような轟音の群れが鳴り響いたのだ。

それが、戦車の砲撃である事と、トルフィネからでは見えなかった場所では既に激しい戦闘が行われていた事を知るまでに、さして時間は掛からなかった。


次回は四日後に投稿予定です。よろしければ、また読んでやってください。

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