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15

 まず、俺がするべき事は、彼女の武器の新調だ。

 隙を突かれないタイミングと、出来れば意表をつけるような形で行いたい。とはいえ、あまり時間も掛けられない。

 なかなかの難題だ。主導権が切り替わった直後だったら、もしかしたら安全に渡す事が出来たのかもしれないけど、残念ながら時間は巻き戻せないし、安牌を積み重ねるだけの戦い方をしていたらオリジナルには絶対勝てないだろう。どれだけリスクがあろうと、相手を崩せるかもしれない可能性は減らしてはいけない。

 格上に勝つというのは、そういう事だ。

 そう自分に言い聞かせながら、オリジナルとミーアの間に割って入って、放たれた横薙ぎの斬撃を右手で受け止める。

 受け止めながら、腰のあたりに短剣を具現化し、左手を右の剣に添えてオリジナルに向かって身体を押し付けた。

 馬力勝負だ。

 強引に密着を作って、動きを制限しようと試みる。ついでに周囲に全力で魔力を放出して、遠隔で具現化を行えないようにして、奇襲も潰しておくことにした。

 ここで注意しなければならないのは、身体を引かれて姿勢を崩される事だ。

 とりあえず、距離を離されないようにまだ地面につけていなかった右足で相手の足を思い切り踏みつけてみたが、地面を擦らせるように足を動かされてあえなく躱されてしまった。

 でも、その余分をしている時、片足でこちらの圧力を受けなければならなくなった所為か、オリジナルの腰が僅かに反る。

 それを立て直そうと、こちらへの圧力を強めたところで、ミーアが視界の右端から飛び出してきた。

 右手には刃こぼれしたナイフが、そして左手には俺が具現化した短剣が握られている。

 閃光のような斬撃が、オリジナルの兜を切り裂いた。

 ただ、皮膚にまでは届かない。届かなければ、再構築されて終わりだ。

 出血が溜まるのを嫌ってだろう、右目の再生と同時に解かれていた部位も、綺麗に再構築されて、兜は新品同然に修復される。

 と、同時に凄まじい力が襲い掛かってきた。

 拮抗が一瞬で崩れて、今度はこちらの身体が大きく仰け反る。

 昇華の魔法を膂力に用いたんだろう。こちらも対抗する事は出来るけど、さすがに切り札を無為には使えない。

 踏ん張る事を諦めて衝撃に身を任せつつ、離れる前に義手である左腕を振り抜く。

 オリジナルはそれを避けもせずに別の行動を優先した。ミーアに向かって左右の二連撃を打ちこんだのだ。

 結果、こちらの斬撃は彼女の胴体部に傷をつけたが、間合いが僅かに遠かった所為で、これもまた皮膚にまで届くことはなかった。

 だったらと、その義手との接合を解き、切り離されたそれを前蹴りもって届かせる。

「――っ」

 少しは意表をつけたらしい、オリジナルは回避動作を挟んで、ミーアへの攻撃を中断した。

 それを確認しつつ、俺はバックステップをしながら即座にブレードを備えた義手を具現化して、大上段に構えながら地を蹴って、再度少し遠い間合いから振り下ろす。

 感覚に従うのなら、先程と同じように無視をすればいい。けれど、そうする事はせずに、オリジナルは左後方に飛び退いた。

 咄嗟に行った悪あがきだったんだけど、どうやらそれなりの爪痕を残してくれたようだ。

 距離がかなり開いた。しかも、オリジナルが移動したのはこちらの血が大量に染みついた場所で――

「ミーア!」

 勝負をかけるのは此処だと声を張り上げながら、俺は右手を振り下ろすと同時に、右手の剣の形状を細剣に再構築しつつ切り離して、オリジナルとミーアの間に投擲する。

 ついでに、そこで一つ小さく舌打ちをついておくことにした。

 拵えた得物との距離はオリジナルの方が近い。だから、遅滞なく駆け寄れば、彼女の方が先に手にする事が出来るだろう。そうなってしまった状況を、こちらのミスだと匂わせる事が出来たのなら、崩しの一手を打ちこむことが出来る。

 が、オリジナルは更に距離を取りながら、遠距離攻撃で対処する事にしたようだ。

 左右に十メートル以上の長さの大剣を具現化して、斬撃を乱舞する。

 その寸前に細剣を手に取ってミーアが、斬撃の真下を潜って一気に肉薄した。

 長射程の武器は一方的に敵を叩ける便利さがあるが、当然のように小回りは利かない。オリジナルは即座に両手の得物を放棄し、一般的なサイズの剣に切り替えて、応戦する。

 応戦しながら、やはり下がっていく。

 まるで、どこかに誘うように。或いは、この場所から離れようとするように。

「……あぁ、そういう事か」

 理由を探るため周囲に意識を広げたところで気付いた。

 俺が意識を休めていた間に、どうやらレニは流れ落ちる自身の血を使って、魔法陣を描いていたらしい。

 それを俺が下手に利用しようとした結果、オリジナルに看破されたようだ。

 情報共有が不十分だった所為で、彼女の秘策を無駄に…………いや、まだこの魔法陣が使えなくなったわけじゃない。

 もはやオリジナルを相手にまともに戦えるのは俺とミーアの二人しかないようなものだけど、協力者はまだ残っているのだ。

 ……ナナントナさん、聞こえていますか?

 頭の中で、その名前を呼んでみる。

 レニ・ソルクラウの耳はとびきりに優れているので、声は発する事は出来ない。だから、二人を追いかけて駆けながら、思念による応答を待って――


次回は四日後に投稿予定です。よろしければ、また読んでやってください。

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