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後輩ちゃんの恋愛講座

後輩ちゃんの恋愛講座 邂逅編

作者: 衣谷強

『後輩ちゃんの恋愛講座』続編です。


『煌めいたのは涙か雪か』

『後輩ちゃんの恋愛講座 見た目編』

『後輩ちゃんの恋愛講座 待ち合わせ編』

『後輩ちゃんの恋愛講座 カラオケ編』

からの続きになります。


連載にしとけば良かったですね。今更ですが。

後二、三話で一応決着を見るので、どうかお付き合いください。

 待ち合わせた文IIのカフェには、すでに後輩が座って待っていた。


「あ、先輩。映画のチケット、手に入りました?」

「あぁ。色々調べたらこれが一番人気らしい」


 俺が差し出したチケットを、後輩はじっと見つめる。


「『言えない恋の物語』、……これって確か官能小説原作の不倫ものですよね」

「え、嘘!」

「えっちな不倫ものを、女の子と観に行く映画にチョイスするとは、先輩の性癖ってそういう……」

「いや違うって! お、俺が調べたサイトには『もどかしくも切なく甘いピュアラブストーリー』って書いてあったから!」


 冷たい目に慌てて弁解すると、後輩は笑い出した。


「冗談ですよ。ライトノベル原作のスクールラブストーリーだそうですね」

「えっ!?」

「実は私も気になっててチェック入れてたんですよ。チョイスは及第点ですね」


 身体を強張らせていた力が、溜息になって出て行く。


「びびらすなよ……」

「今回はびびる程度で済みましたけど、本当にそういう内容だったら即死ですよ? 今回みたいに原作があるなら読んでおいたり、ネタバレサイトで確認したりしておかないと」

「でもそれじゃ一緒に楽しめないじゃないか」

「え」


 また固まる! こいつのこれ苦手なんだよ!


「一緒に楽しむ……。あのですね先輩、それは彼氏彼女になって、ハズレ映画でも笑って楽しめるようになってからですよ。恋人未満のデートでは、お店や映画のチョイスミスが、相手の印象に反映されるんですから、下準備を怠ってはいけません」

「わ、わかった。今から原作を確認して」

「今回はいいですけどね」


 どっちだ……。


「私との映画は練習ですから」

「あ、そうか」

「チョイスは合格ですから、純粋に映画を楽しみましょう」

「あぁ、よろしく頼む」

「映画の後の流れも考えておいてくださいね」

「う、また悩みの種が……」

「楽しそうねぇ」


 後ろから聞こえた声に、胸の中に苦い何かが広がる。


「……うらら、さん」

「久し振りねぇ、善哉よしや君」


 振り返ると、俺をクリスマスキープにした女・樋富ひとみ麗は、にっこりと微笑んでいた。


「連絡くれなくなったなぁって思ってたら、そう。そういうことだったのね」

「……」

「おしゃれになったわね。このコの趣味?」

「……」

「ねぇ、仮にも彼女にずっとだんまりはひどくないかしら?」

「……」


 言いたいことなら沢山ある。

 彼女って何だ。

 クリスマスのあの男は何だ。

 兄弟とかそういうことなのか。


 ………い。


 俺は本当にキープだったのか。

 二回のデートのあの笑顔は何だったのか。

 あの告白は嘘だったのか。


 ……ぱい。


 俺は何を浮かれていたんだ。

 女慣れしたからってどうなるっていうんだ。

 俺はこいつにいいように扱われる程度の男で、

 俺なんか女に好かれるはずなんかなくて、

 俺なんか、俺なんか、俺なんか……!


「先輩!」

「ってぇ!」


 背中に走った衝撃に、俺は思わず叫び声を上げた。


「なっにすんだてめぇ! 痛えだろうが!」

「……っ……っ……!」


 振り返ると後輩が、しゃがみ込んで右手を抱えて悶絶していた。

 お前、そんな勢いで叩かなくても……。

 背中の痛みに対する怒りより心配が先に立つ。


「おい大丈夫か? 今何か冷やすもの持ってくるから」

「待って先輩」


 しゃがむ俺に、後輩は小声でささやく。


「……先輩、自信、持ってください。今はチャンスです」

「はぁ? お前、何言って……」

「あの女、自分から声をかけてきました。私と話をしているところに、わざと割って入って来たんです。どういうことか、わかります?」

「え? ……いや全然」

「嫉妬してるんですよ。先輩が取られると思って焦ってるんですよ。それだけ先輩は、キープ君から彼氏扱いしたくなるくらいに成長したってことなんですよ」


 そう、なのか?


「ちょっと! 彼女の私よりそんなパッとしない女の方を優先するの!?」


 そうなのかもしれない。


「今なら下手に出ず、堂々とした態度で口説けば落とせます。このチケットも、そっちで有効に使ってください」

「えっおい」


 俺にチケットを押し付けると、後輩はぴょんと立ち上がった。


「初めまして! 私、洲縁すぶちさんのサークルの後輩で、赤須あかすあいと申します!」

「え、あ、こ、後輩?」

「はい! 先輩とはそういうの何にもないので、ご安心ください! では私はこれで!」

「おい、待」


 止める暇もない。後輩はさっと荷物を持つと、風のように去っていった。


「な、何なのあのコ……? 気をつかってくれたのかしら?」


 後輩がいなくなった場所に、麗が腰を下ろした。


「じゃあお言葉に甘えて、もう少しお話しましょう? 善哉……」




 これでいい。

 これでいいんだ。

 先輩の自己評価の低さは、これまでの経験のなさと、クリスマスのトラウマだ。

 経験は私が多少補った。

 ここであの女とちゃんと付き合えれば、先輩のトラウマは消える。

 そうすればあんな女、さっさと振って、本当にいい人を見つけるだろう。

 大丈夫。

 先輩なら大丈夫。

 これでいい。

 先輩のためにはこれが一番いい。

 満足だ。

 先輩が幸せになるなら、それだけで満足だ。


 ……先輩、先輩先輩先輩……!


 先輩の背中を叩いた手が、どくんどくんと痛みを増していた……。

読了ありがとうございます。


ようやく名前が決まりました。

先輩:洲縁すぶち善哉よしや=superior(先輩・優良)

後輩:赤須あかすあい=accustomed(慣れている)

キープ女:樋富ひとみうらら=toy,play(弄ぶ)


後輩の名前は、当初『たま』にしようと思ったのですが、『たま』の変換で璦の字が出てきたので、おぉ可愛いなとそっちにしました。

戸籍法的には使えない漢字だそうですが、フィクションですからお許しを。

檸檬や薔薇も現実には使えないそうです。擬宝珠家ェ……。


「名前なんて知るか! そんなことより後輩だ!」とお怒りの方、今週中には次を投稿しますので、どうか心穏やかにお待ちください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] FAのキープ女ってそういう意味だったんですか! 納得しました! ワクワクですね!
[良い点] 後輩ちゃんが健気。 でもその気遣いはたぶん明後日の方向を向いちゃっている気がします。 [気になる点] 後輩ちゃんが固まるとき、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているのか、猫がフレーメン反応を…
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