地獄の幕開け
勝った。俺は【異世界QUEST】をCLEARして生き残ったんだ。
生き残る為には恐怖なんて捨てた。その先に見えたのはただ敵を倒す闘争心だけだった。
「やるなお前…。まさか勝つなんてな」
黒装束の男は俺の戦いを観戦していたのか、蒲生氏郷を倒してからこちらへと向かってきた。
少しは手伝ってくれてもいいと思ったが、それは言わないでおこう。後々面倒な事になるかもしれない。
「勝たなきゃ死ぬ、最初にそう言ったのはあんただ」
「そうだな。でも負けそうだった所からよく持ち返したな。急に殺人者の鬼みたいになった時は驚いたよ」
「鬼?俺が?」
「ああ。最後の攻撃は凄まじかった。お前は【異世界QUEST】で強くなれるかもな」
『海埜 義宗はLv2になりました。次のLvまであと1つの【異世界QUEST】のCLEARが必要です。
あと1分でこの場所は消滅します。扉から出なかった場合は強制的に退場となります』
またアナウンスの声が響き渡る。俺はLv2になったみたいだが、何も変化はない。
普通なら力や体力が上がり、新しい技的なものも覚える。
ゲームならそうだが、これは現実だ。ゲームではないから技なんて使えるはずがない。
なら武器が変わるのか?この物干竿の攻撃力が上がれば敵も倒しやすくなる…。
いや待て!俺はこれからも【異世界QUEST】を続けなきゃいけないのか?
「すぐに出るぞ」
「ちょっと待て」
「いや出てから話そうぜ?」
「出たらまたアイツが居るんだろ?俺を襲ってきた奴が」
今出たら俺はまた死ぬ。結局死ぬ事は変わらないんじゃないか?
怪我は治っても、俺がアイツに勝てる保証はない。
「大丈夫だ。【異世界QUEST】で勝ったものは世界が変わる。多分、アイツの攻撃も見切れる。だから出るぞ」
俺は黒装束の男の後に着いて行き、異世界を脱出する。辿り着く場所は入った時と同じ場所だ。
そこには待っていたかのようにもう1人の黒装束の者が居た。
「帰って来たな!入峰も一緒かよ!てめーが余計な事をするから!」
「お前が悪いだけだ。【異世界QUEST】にも行けない者が…同じ格好して、
ふざけるなよ」
「そんなのはどうでもいい!コイツを殺す!殺せば参加者の権限が与えられるかもしれねぇー!
もう逃げる事はでできねぇー!ようやく殺せるぜぇえええええ!!」
ここはそこまで広い道ではない。ナイフを右手に握りしめて向かって来る。
だが何故か動きがよく見える。もしかして【異世界QUEST】の経験がもう身体に反応しているのか?
俺は右手に持つナイフを蹴りで落下させる。動きが一瞬止まった黒装束の者の顔面を右手で掴み、
そのまま地面に殴りつけた。
「…あれ?俺、強くなってる?」
「上出来だ。コイツの顔も明らかになったしな」
黒装束の者が隠していた顔のフードが外れ、顔が明らかになる。
髪は金髪で、鼻にピアスをしている。まるで不良の高校生のような男だった。
「くっそ!くそが!何なんだお前は!?…あれ、顔がばれて…!
きょ、今日の所はこの変にしといてやる!いずれ殺すからな!!」
すぐに起き上がって金髪の男はそそくさに逃げて行った。俺は殺されずに済んだが、
自分自身の身体能力が上がっている事に驚いた。
「もうこんな格好はいいな。お前は【異世界QUEST】の参加者だ。俺と同じくな」
「何だと!?」
男は黒装束を外し、顔が明らかになった。髪は紫色で左目が前髪で隠れている。
恰好は黒の革ジャンを着ていて、何か怖そうな人だった。
「俺は入峰 是郁だ。【異世界QUEST】の攻略をしている1人だ」
俺の人生はこれから大きく変化する事になる。
【異世界QUEST】から逃れられない地獄の幕開けだった。




