死咲 拓翔と海埜 義宗④
ある時、家に帰ると俺は衝撃の場面を目撃した。
「うるさいな!私のやり方に口を出さないでもらえないか?」
「でも・・・かわいそうだよ!勉強はしてるし、たまに遊びに行っても」
「それじゃあ立派な大人になれない!だから私の元妻もどうしようもない奴の所へと行ったんだ」
母と父が喧嘩をしている。それまでは良かったんだが、とうとう父は母に手を出したんだ。それが俺の怒りが頂点に足した瞬間だった。
この父が居る限り母は幸せになれない。
「いいか。口を出すな!」
「わかったわ。だからもう手を出さないで」
俺が母を助けないといけない。俺は父の目の前に立ち、睨みつける。父は俺の事なんてどうでも良いんだろう。所詮自分の子供ってわけでもないし。他人だと思ってるだろ!!
「君の母は悪い所が多いな。直してもらわないと。君は・・・もう手遅れだ。どっかで野たれ死んで終わりだ」
こんな奴が何故堂々と生きてる?母を好きになったんじゃないのか?だから再婚したんだろ?母もそう言ってただろ。
よくわからない事が多い。この男は何なんだ?
俺は何とか母を助ける為に計画を立てた。あの男を…殺す計画を。
学校にも行かず、常に計画を立てた。実行は父が寝ている時だ。ナイフで心臓を一突きすれば誰でも死ぬと考えていた。だから適当ホームセンターでナイフと軍手を買い、計画を実行しようと考えていた。
計画実行の夜、俺は家の近くの公園に居た。近くには誰もおらず、辺りは静寂が続いていた。だがそこに足音が鳴った。
誰かがこちらへと向かってくる。俺は顔を隠しており、まるで不審者のような姿だ。警察が来たらやばいな。
足音は消えた時、俺の目の前に誰かが立っていた。
「死咲・・・見つけた」
「・・・海埜!?」
海埜だった。何故お前が目の前に居る?どういう事なんだ?
もしかして・・・俺が今日父を殺そうとしている事がばれたのか?
「その恰好、やっぱ何かする気だな。・・・死咲、俺はお前の友達・・・いや親友ぐらいに思ってるよ。だから俺はお前を止める」
「は?何言ってんだよ。俺を何を知っている・・・お前は俺の事を何も知らないだろ!!!」
「知ってるよ。死咲の顔を見ればわかる。その泣き顔を見ればな」
「・・・え?」
「そしてそこにある袋にはナイフが入っている。格好も身バレをしないような服装。誰を殺そうとしている?」
「・・・何なんだよお前。ふざけんなよ!!」
「殺人は絶対ダメだ。そんな事をしたら後悔しか残らない」
「うるせぇ!!アイツは母を殴ったんだ!そんな奴許せるはずがない!!」
「それでも・・・殺人までする必要はないだろ。考え直せ」
「限界だ。もういい・・・。邪魔をするなら、殺すまでだ。1人も2人も変わんねえ」
俺はおかしくなっていた。狂っていたんだ。何故か海埜までを殺そうと考えてしまってた。
だが海埜は冷静だった。
ドカッ!!
俺が思いっきり海埜に殴られた。それで身体が宙を浮いて、背中から地面へと叩きつけられる。
何だこの重い一撃は。・・・これが海埜の実力!?
「目を覚ませ死咲。お前と俺はよく似ている。俺の父も母を殴る蹴るのDV男だった。だから・・・父よりも強くなって母親を守ったんだ。父と母は離婚し、俺はこれ以上強くなる必要はないと思い、喧嘩をやめたんだ」
「・・・だからそんなに強いのか」
「友達にボクシングをやってる人が居たから。それだけだよ。・・・少しは落ち着いたみたいだな」
俺はいつの間にか海埜への殺意が無くなっていた。海埜には勝てないというより、さっきのパンチで目が覚めたのかもしれない。
「海埜・・・ありがとな。俺はもう少しで犯罪者になる所だった。お前が止めてくれなかったら・・・俺は」
「まだ終わってないでしょ。これからどうするの?」
「父を説得して、母と離婚してもらう。母がそれを許すかはわからないけど・・・母が幸せになるならあの父と一緒に居るべきではない」
「ここからは死咲の家族の問題だ。俺が口出す事はできない。ただ1つだけ約束してほしい事がある。
また殺人なんて馬鹿げたことをやろうとした時は俺に連絡してくれ。・・・お前を止めてやるから」
海埜はそう言って、公園から去っていった。・・・これが海埜が俺を救ってくれた話。この後俺は家に帰って、父と対峙する。
また母に手を出そうとする父を止めた。この時何を言ったのか覚えていないけど、色々不満を言ったと思う。それを聞いた父が俺に手を出そうとしたが、俺は避けて逆に父を殴ろうとするが当てはしなかった。
母と妹は泣き出し、父は俺をずっと睨みつけていた。この後言った事は覚えてる
「俺が母さんを守る。あんたの好きにはさせない!!」
それから家族は崩壊・・・とまではいかなかった。父と母は離婚し、父の連れ子であった妹はこちらで引き取った。母は何故この男と再婚したのか。それはあの男からの脅しがあったようだ。脅しの内容は言ってくれないけど、これで母も幸せになれるはずだろう。
この後俺は普通に学校へと行き、特にやり方もなく、今は何でも屋兼探偵業のブラッドで飯を食っている。あ、異世界QUESTも職業に入るのかな?長い回想になってしまったが、これが海埜と俺の出会い、海埜が俺を救ってくれた話だ。
時は今に戻り、今度は俺が海埜を助けないといけない。あの時の恩はまだ返せていないから。
「俺がやらなきゃいけないのは、海埜を異世界QUESTに誘った人物、宇敷紗耶香に話を聞く事だ」




