恐怖の先
シュッ!シュン!!
「なにっ…!!」
蒲生氏郷は攻撃速度は目にも見えない速さだった。俺が先に攻撃を仕掛けようとしたが、
一歩が急に速くなった蒲生氏郷は俺の間合いにすぐさま入ってきた。
そして2回程一瞬で剣を振り、俺はもろに攻撃を喰らってしまう。このせいで俺の視界は既に限界を迎えていた。
たったの3回斬られただけで目の前は白黒に染まっている。
微かにも目の前がぼやけている。次の攻撃を喰らえば俺の負けは確定するかもしれない。
負ければ俺の人生は終わる。死が確定しているようなものだ。
人間は死ぬ気になれば勝てるのか?死という恐怖は負ける直前で襲ってくる。
俺の手は震え、足も震えだし、次第に全身が震え始める。
「嫌だ…死にたくない。死にたくない!シニタクナイ!!」
俺は声に出して言っていた。無意識の内に言ってしまっていた。
蒲生氏郷は静かに俺へと近付いてくる。
「嫌だ!嫌だああああ!!来るなああああ!!!」
俺の精神はおかしくなっていて、死ぬ恐怖からは逃れようと叫ぶ。
これは死の恐怖。無理だ…無理だやっぱり!逃げたい!逃げたい!!死にたくないから!!
俺は蒲生氏郷に背を向けて逃げてしまう。それを追いかけてくる蒲生氏郷の足音が聞こえる。
逃げても死からは逃れられない。
どうすればいい?このまま死を待てばいいのか?何をすれば生きられる!?
俺は思考を巡らせる。迷路のような思考回路を何とか辿り、出口を見つけようとすればいい。
ここから俺の人生は変化し始めた。これが【異世界QUEST】を本気で参加するきっかけになる戦いだった。
『悪いが、死んでくれ』
蒲生氏郷は俺の頭部へ目掛けて剣を振り下ろす。
キィーン!
「わかったぜ。生きる方法が」
俺は蒲生氏郷の攻撃を物干竿で受け止める。そして蒲生氏郷の腹部を右脚で蹴った。
後方へと吹っ飛ぶ蒲生氏郷に俺は追撃をする。
一歩思いっきり踏み込み、物干竿を心臓に目掛けて突き刺した。
「お前を殺せば…生きられる」
全身の震えは止まっていた。蒲生氏郷は膝から崩れ落ちる。
これで終わるはずはない。絶対にまた立ち上がって来るだろう。
それは予想通り、膝立ちへ踏みとどまって剣を杖のように使い、立ち上がった。
しかし立ち上がってからすぐに攻撃はできない。
ザンッ!!
『ぐおおああああ!!!』
物干竿を蒲生氏郷の右肩から左腰に目掛けて斜めに振り下ろした。
身体が大量の血が噴き出し、俺の顔面にも血はついた。
蒲生氏郷は顔面から地面に倒れ込む。立ち上がって来るか見ているが、
一向に立ち上がる気配がない。
「は…はっはっは…。勝っちまった…」
静かな異世界で俺の小さな笑い声が響く。
死の恐怖を乗り越えた俺は一瞬で蒲生氏郷を倒してしまった。




