赤の扉
「この赤の扉に入れば、【異世界QUEST】は開始されるんだな?」
「その通り、扉を開ければ始まる。楽しい楽しい異世界での戦いがな」
「ふーん…でもいいや、扉が見えたってだけで特別だし。何か危なそうだし」
俺は自ら危険な場所へと踏み込みたくはない。それは誰だってそうだろう。自ら戦争に行きたいと言う人は居ない。
今の時代、平和に過ごしたいと思う人たちが殆どだ。
すぐに死ぬかもしれない場所に踏み込む奴は狂っている。戦闘が好きな物好きな馬鹿だけだ。
だが俺は…その馬鹿の1人になるとも知らずに今はこんな事を思っている。
「じゃあな。あ、この扉は写真に残しておこう。スマホでカメラっと」
「それでいいのか?」
「よし!しっかり撮れて……あれ?映ってない!?赤い扉が写真の中では存在していない?」
「それでいいのかって言ってるんだ!」
急に黒装束の男は怒鳴り声でそう言った。どういう事だよ?それでいいって。別に俺は好きで扉が見えたわけではない。
日本中に扉が出現しているニュースは知っているが、見えたからって入れってなるのがおかしい。
しかも異世界の戦闘ってのもいまいちしっくり来ない。まず【異世界QUEST】って何だ?全然説明されてない。
…写真にも残せないぐらい機密事項なのか?この扉は。
「海埜 義宗。お前の事は調べているんだ。【異世界QUEST】の参加者はこちらで選んでいるからな。
あと【異世界QUEST】についてだが、扉に入ってから説明する。それが参加するルールになっているから」
「勝手に俺の名前を調べないでくれますか?しかも勝手に参加者に選んでくれてありがとうございます。
俺は辞退します。自ら危険な場所に飛び込むわけがないだろ。では」
「今の日常で満足か?」
「そうですね。満足です。じゃコンビニ行くんで」
「……後悔するぞ」
俺は黒装束の言葉を気にせずにコンビニまで向かった。何だったんだろうかアイツは。俺は別に【異世界QUEST】なんてどうでもいい。
そんなので日常を壊されたくはないからな。
コンビニでサンドイッチと適当に菓子パンを買って、コンビニを出る。
そして同じ道を通り、家へと戻ろうとした時、また赤の扉の前で黒装束の男と出会う。
「またあんたか。俺は【異世界QUEST】なんてやらな……」
グサッ!!
……え?黒装束の男は何故か俺の脇腹にナイフを突き刺してきた。う…嘘だろ?
俺は脇腹を押さえるが、血は全然止まらずに溢れ出てくる。赤黒い血が地面に滴り落ちる。
「【異世界QUEST】を断った者には死だ。クックックッ!残念だったな!」
さっきの奴とは声が違う。顔も見えないから誰かわからない。こんなの殺人だろうが。
この国での殺人は死刑確定でもあるぞ…。そんな事が許されるのか?
「お…い…お前は…誰だ……」
「言うかよ!断った者には死。そう決めてるんだよ!」
俺はその時、アイツの言葉を思い出した。
『……後悔するぞ』
そういう事だったのか。断れば死ぬ。俺に最初から拒否権はなかったんだ。
ここまでの人生かよ。
ガツッ!!
急に俺の腕を持つ者が現れた。俺はその者を見ると最初に出会った黒装束の男だ。
俺を…助けるのか?
「早いんだよ。だからお前らは」
「あれれ~!?どっか行ったんじゃなかったのか?」
「海埜!すまないが、お前を赤の扉の中に入れる。そこに入れば怪我は治る。…お前を死なせたくはないから」
どういう事だよ。意味が分からない。何で俺を助ける?【異世界QUEST】に参加しろと言ってきたお前が何故?
しかも断った俺をだ。こいつらは…仲間か?
「断った者には死だ!絶対に殺す!」
「お前達のやり方は間違っている!だから海埜は生かす!絶対に生かしてやる!」
最初に出会った黒装束の男は赤の扉を開けて、その中に俺と一緒に入る。
俺を刺した男は扉の中には入れなかった。…俺は赤の扉へと結局入ってしまった。




