第五話 怪しい影…ファンフツェン、元勇者を捕獲
今のところクレームは無いようなので、もう少し進めてみます。
その日夜7:00頃
頭まで覆う黒いローブに身を包みそれぞれ杖を携えた5人が、山の麓近くの小道に現れた。
そう、ファンフツェンである。
リ(止まれ!ここからは音を立てるな!)
(探知…何か引っかかったか?)
(何にも動いてない。)
(怪しい気配は全くしないな。)
(ん?これ草を踏んだ後じゃない?)
(ん。確かに…スンスン…何かを燃やした匂いがする。こっちだ。)
レンジャー風の1人が残る4人を先導していき、やがて…。
(! あそこだ。)
リ(暗くてよく見えん。何か白い布か?)
(じゃあ私が無詠唱で。…エストーチ!)
杖先から出た小さな明かりが、
焚き火跡の上に留まりその周りを照らす。
(あの白いのローブじゃない?)
リ(む。確かに。だがアレは何だ?)
(下がれ!ナイフを構えている!)
バババッと下がる5人。
それぞれ油断なく杖を構える。しかしナイフを構えているはずの人物は起き上がらない。
リ(ちょっとおかしいな。…死んでいるのか?)
(私ちょっとみてくるね。)
リ(ちょっ!うかつに…。)
「ヒィッ!? 」
リ(おい!止めろ!)
「あわわ、ナイフじゃない!」
(声!声大っきい!)
「あ?大丈夫。子供よ、美 少 年。」
年…でもう一人が凄い速度で近寄る。
ブッ!
「ゴッハァ!」
リ「どうした!やられたか!」
「違う、の~…ボタボタ…この子、スッゴいの~。」
当惑したリーダーと残り3人が近づいていき、フード跳ね除けその男の子とやらを見る。
アインナ(リーダー)「むぉ!? 」
ドライナ「ね!これ~30センチは有るよ~?…でこの美貌…あ、また鼻血が~?。」
フィアンナ「色白~い!最初はエルフかと思ったよ。髪まで白いしね。」
ツヴァイナ「確かに。色々と人間離れして…この歳で凄いエロさね。」
ファフナ「これをナイフと見間違えたか…いや別の意味で凶器だなこれは。」
これが悪意に満ちた者達だったなら、ブレイは瞬時に起きて臨戦態勢に入っただろう。だが不幸?にもファンフツェンは邪悪では無かった。
6日間の完徹。
しかもただの徹夜ではない。
最初の3日はネヴュラと全身全霊を尽くし、その後の3日間は全身全霊を削って闘ったのだ。
いかに強靭な元勇者とて起きる事は叶わなかった。
ある部分を除いて…。
アインナ「おい!少年!ペチン!……起きんな。」
ドライナ「じゃあ私が?。ねぇえ…ツン…僕…ツンツン。」
ブレイ「うぅ…ピクン!」
全員「「ゴクリ」」
ドライナ「ブーッ!…あ、また鼻血~。あふ…。」
ツヴァイナ「お前は…何をやってるんだ!? 」
フィアンナ「ねえ。起きないけど一晩待つの?それとも連れて行く?」
その後ファンフツェンは周辺一帯を精査する。
ドライナは少年の横で見守り?他の者は焚き火跡や周囲を探った。小一時間が過ぎるが少年は起きる気配が無かった。
アインナ「仕方ない。連れて帰るぞ!」
ドライナ「ハイ!私!私が抱っこしてく!」
ツヴァイナ「お前はこの子とほぼ身長変わらんだろうが!」
アインナ「ファフナすまん。背負ってやってくれ。…それっ…しょ。」
アインナが手伝ってファフナにブレイを背負わせる。
フィアンナ「ちょっと、この子の荷物も持って行きます。うわ!? 七の国の金貨3枚も!」
ツヴァイナ「一見地味だが、この杖もかなりの業物だな。」
ドライナ「どこかの貴族の~お坊ちゃん?とかかなぁ~。」
アインナ「さあな。ん…ファフナどうかした…そんなに重いか?」
ファフナ「その…腰から背中に「ナイフ」が当たってな。私も女だ。変な気分になってくる。」
アインナ「…すまんな。」
更に周辺を探索するが、他に怪しい痕跡も見らない。青と緑の双子月の下、ファンフツェンはブレイを連れて村に引き上げる事にした。
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『ブレイ…起きなさいブレイよ…。』
ブレイが目を開けるとそこは真っ白な空間、
微笑みを浮かべたアルス神が立っていた。
(ん…あ!アルス様!? )
『シーッ!』
アルス神は口に一本指を当て、
急におどおどと辺りを見回す。
(ど、どうされましたか?)
『私もお前も二度と以前の名前を口にしてはならん。普通無理だがあの女の事だ、全宇宙に名前x霊影でスキャンかけてる可能性がある。』
(わ、解りました!)
『ブレイ。真に良い名ではないか!私はジーヨンを名乗っている以後それでな。後、四天王も来てるからそっちも気をつけてくれ。』
(気を付けます!)
『よし。心友ブレイよ素晴らしい体験は出来たか?どうだった?』
「最っ高でした!もう、もう…ありがとうございます!ジーヨン様ぁあああ!」
『うん、うん!良かった、良かったなぁ。』
涙を流して喜び合う一人と一柱。
誰かがそれを見たら美しいと思うだろう…か?
『ところでブレイ。予定では、あの後お前は再び霊体となって私の元に来る筈だった。』
『次は種馬として毎日ヤリまくりを…など考えておったのだが。…いやお前が今を望むなら問題無い。』
(折角のお気遣いに、すみませんでした。)
『いや構わんが、私に呼びかけてくれれば何とかしたのに水臭いぞ心友。』
(え!? そうだったんですか…。)
『まぁ、私はお前の「素晴らしい体験」を覗き見する趣味は無いから気付かなかった。ただ事情は気になってな。何が有った?』
俺はジーヨン神にこれまでの経緯を話した。
聞き終えたジーヨン神は身体をプルプル震わせて苦悩の表情を浮かべている。
『ぬぅ…女性の身で私達と同じ苦しみ…を。それがお前と愛し合ってしまった…だと!? 』
『どれ、ジー・ヨン・アイズ!』
ペカーッ!とジーヨン神の目からビームが出でて何かを見ている。多分ネヴュラを見ているのだろう、表情が険しくなる。
『い、いかん!ブレイお前あの娘を絶対に幸せにせねばならんぞ? 慈愛、正義、高品、自己犠牲…ぐぅっ!なぜ…。』
(この命に代えてもやり遂げます!)
『そうとも心友よ!私の神聖術式を破れる者など他にこの世界にはおらん。お前程の男ならば…。』
(そう言えばあの術式は何なのですか?以前の世界では聞いた事も有りません。)
『あれは元々、人族の女性が魔神を呼び出しその身に魔法力を授かる儀式だ。魔神と交わり魔的遺伝子を注入するもので、本来は相手を選べない。』
『魔的遺伝子はその部分だけが三重螺旋構造になっている。普通は男性遺伝子と共に運ばれて子にその遺伝形質が伝わる。』
『だが、それだと女性本人に魔力を授けられない。あの術式では三重螺旋部分だけが女性の細胞の遺伝子書き換えを行う。適性にもよるがある程度は定着して女性は魔力を得る。』
(よく解りません。)
『解りやすく言えば、魔神の精を子宮に取り込めば女性が魔力を得られる儀式だよ。』
(なるほど!と言うかエロいですね。)
『そ、そうか?最初は私が魔神をやったんだ。そのお陰で、何ていうか素晴らしい経験をさせて貰ったんだよ。』
(良かった!ジーヨン様、良かったです!)
『ありがとう!お前にそう言って貰うと素直に喜べる。この術式を考えた時に「ジーヨン様が相手じゃないと嫌!」って。そうじゃなきゃ私はしなかったろうな。』
(解ります。でもお相手は何でジーヨン様を知っていたんですか?)
『最初の女性達は人化したサキュバスだったのだよ。元々魔力が低い上に人化でそれを殆ど失ってしまった。当時は私しか神族がいなかったから、必然的にな。』
『その後は神化した四天王…四神のウルマーに引き継いだ。そんな感じだ。』
(なるほど。肉体を持たない神霊が行う術式だったんですね!)
『そうだ。だからこそリミッター設定が有ったのだが…お前は流石だ。私はそろそろ行く。またその内な。心友ブレイよ。』
(いろいろありがとうございます!私こそ何かお役に立てる事が有れば使って下さい。)
『ははは、頼もしいぞ。だが今は、私達と同じ気持ちを抱いた不幸な女性を救うのだ!』