第四話 僕はブレイ!愛の力…君を探しに未知の世界へ
七の国祝福の神殿
あの後、
転移の魔方陣から出た私は始めて取り乱した。
人の良い近習を振り切り祈祷室に籠る。
あの召喚術は対象を現世に留め置く様な、そんな力は無い。そんな物が有るとすれば死霊術など…いやそれでは生命は得られない。
どれだけの秘儀や魔具があれを為したと思っているの?あの男は。…人の身、霊で留まるなど…出来っこない。笑い話にもならない。
「なのに…。」
あの男は抗って見せた。
想像を絶する苦痛があの男を苛んでいたはずだ。信じられない事に、震える身体で立ち上がり、私に笑いかけさえして見せた。
「私の為に…。」
私の男ブレイ。
私の男は決して負けない。
「いいえ、私が負けさせはしないわ!」
ネヴュラは渾身の祈祷を捧げ始める。目も眩むオーラが彼女から発した。彼女の祈りはきっとブレイに届くと信じて。
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3日後
「力の場」に干からびた死体のようなものが転がっている。よく見れば、握り締めた右拳が微かに光っているようだ。
「ゲホッ!ゲホッゲホッ!」
咳き込んだ衝撃で目覚めると、ブレイは弱々しい動きでは床に身を起こした。
「ブフゥ?イ…勝った、ぞ。ネヴュラ。」
硬く握り込んでバカになった右拳を左手で開け、大事な指輪を確認する。手のひらと指に、一生残りそうな跡が付いている。
「ネヴュラ。ありがとう。」
微かに光っていた指輪を額に当て感謝の言葉を捧げると、指輪の光が止まった。
伝わったようだな。
さてネヴュラの元に向かうぞ!
震える身体で立ち上がり指輪を嵌めようとして、俺は初めて異変に気付く。
「なんじゃこりゃあ!? 」
小指にでも、と考えていた指輪がスカスカなのだ。なんとか人差し指に嵌め込むが随分指が細い、というかあれ?小さいのだ。
ペタペタと身体中を触りまくると、なんて言うか12、3歳の身体になっていて、ただし股間の凶器はそのままだった。
「こりゃあれだわな。」
崩壊寸前と回復を繰り返したせいで、一部土に還ったと思われる。寝ていたところを見るとキラキラ光る泥が落ちていた。
ブレイは細かい事は気にしない。
かつて勇者だった時代から、状況が悪化しない限り何事も気にしない性格になっていた。
「歳の差5つ位か?若い身体、ネヴュラは返って喜ぶかも知れないな。」
魔力が枯渇して水が出せないため、隅に置いてあるカメから水を飲む。幾らでも飲めそうだが、経験から一杯にしておく。
ネヴュラが置いていった杖を手にし、彼女が脱ぎ捨てていった薄手のローブを羽織って出口を探し始める。
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七の国祝福の神殿
神殿最奥部にある祈祷室は大騒ぎだった。「付魔の儀」から帰還した途端、血相を変えて祈祷室に閉じ籠った聖女ネビュラがようやく出て来たのだ。
「ご心配をお掛け致しました。もう大丈夫です。」
?はこけ目は窪み明らかに憔悴している聖女は、しかし周囲の者が久し振りに見る晴れやかな笑顔を浮かべていた。
以前にいや増す慈愛のオーラを見た高位の聖職者達は聞かずにはいられなかった。
「おめでとうございます。時に、何にあれ程の祈りを捧げられたのでしょう。」
「私の…人類の希望が救われたのです。」
新たに加わった歓喜と勝利のオーラの眩しさに高位聖職者達は思わず膝ま付き祈りを捧げた。
「お待ち下さい!」
「お休みになって下さい。」
「3日も寝ておられないのですよ?」
常軌を逸して回復した魔力で自らを癒しつつ、今やしっかりとした足取りで彼女は外に向かって歩き始める。またスラムを回り力無き者を救うつもりだ。
足を止め天を見上げた彼女は微笑む。
「あの方は私の義務を果たせと仰いました。」
あの方とは?
それを聞く者は誰もいなかった。
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力の場
部屋の石扉を開けると、そこは灯りのない石造りの廊下の様だった。僅かに戻ってきた魔力を使って極小の明りを灯そう。
(イルミ!)
ポッ!
っと灯った明かりは見る見る内に大きく、やがて目も開けられない明るさになる。片腕で目を覆うが肌がチリチリし始めた。
(やばっ!ヴォイドイルミ!)
明かりは消えたが、目を閉じてもチラつきが残っている。
「やっべ!何この威力?これじゃ室内でライルミなんか使った日には…。」
瞬間的に失明、
いや光で焼け死ぬかも知れない。
まだその上にゴルイルミがあるのにだ。
「これは、外に出たら早めに攻撃魔法を確認しておいた方がいいな。」
仕方がないので元の部屋からランプを一つ、それと隅に置いてあった袋も持ち出した。袋にはタオル、香油とこの世界の物らしき金貨が何枚か入っていた。
「そうだ。念の為ネヴュラの痕跡を消しておかないと。あいつ聖女らしいからな。」
二人一緒に過ごしたラグを部屋の隅で燃やす。
床に落ちていたネヴュラの髪の毛も拾い集めてその火に焚べる。少し寂しい。
「よし。これで大丈夫。」
廊下は迷路になっている様だが罠などは無かった。生き物は羽虫が飛んでいるくらいで蛇すら見かけない。
まだ覚束無い足取りで、左壁の法則で体感3時間ほど歩くと出口が見えた。地下深くの迷宮でなくて良かった。
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「おー!平和な風景だ!」
辺りに危険な獣は見当たらない!
俺は荷物を投げ出し座り込んでノビをする。
大分身体が動くようになってきた。
そこはなだらかな山の中腹に当たる場所で、山は短い緑の草に覆われ、つづら折れに麓まで道が続いている。
晴天で暖かく、鳥は囀り小さな蝶がひらひら舞っている。眠くて仕方がないが、先ずは水と食料を摂らなければ。
「薬草に似ている。いけるかな。」
そこら辺の葉先の丸い草を少量注意深く噛みながら、立ち上がり周囲を改めて見渡す。
麓の少し下方にまばらに低木が並んでおり、その傍にキラッと小川が見えた。
そして地平線近くに村らしきものが見えている。山道の延長が原っぱ、そして疎らな林を抜けて村まで続いているのだろう。
「少し、さっきの草を袋に入れて…と。」
これでも標高200m程、平地では生えていないかも知れない。そして小川までなだらかな勾配をショートカット。早く水を飲みたい!
「ザブン!ぷっは?!冷たいぃい。」
小川は山の北面から滲み出てきているようだ。水をガブガブ飲み、袋の中身を開けて網がわりにしてメダカの様な小魚を掬う。
カサカサだった肌も水気を取り戻す。真っ白でひ弱な感じだが肌艶が良くなったんで良しとするか。
小道から少し離れた小川の横でキャンプすることにした。まだ人と接触したくないからだ。
「よし、腹が減ってきた!」
なにせ俺の身体は3日間保てば良いとネヴュラに土から起こされたのだ。内臓までしっかり作られている事を知って安心した。
ここで火が必要になる。小川の魚が寄生虫を持っている事を懸念してだ。ネヴュラの袋に火打ち石は入っていなかった。その辺は生木ばかりだし…。
俺はへし折った生木を片手に、もう片方の手を空に上げて火魔法を唱える。魔力は…足りるな。
(プロミ!)
ボッ!
轟々と渦を巻いて燃え盛る火球が出現し、俺は生木に火が移るまで我慢してから空に撃ち上げる。いやしかしだなぁ…。
「なんで最小の火魔法が10m超の球になるんだ!? 」
(消えろ!ヴォイドプロミ!)
100mほど上がった球は、それでもキャンセルが効いて消えてくれた。
パサパサになった魚を先程の草で巻いて食べる。殆ど味はしないのに旨い。凄い勢いで身体が消化を始めたのが解る。
あ!? 眠い。
よく考えれば6日間寝てないんだ俺。
ダメだ。こんな無防備な場所で。
ローブだけで裸だぞ…zZz
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その頃、とある村 <リはリーダーね。>
リ「なに!? お山に大火球が上がっただと?」
「複数の村人が目撃したそうだ。」
「『力の場』で魔法などと舐めた真似を…。」
「見間違いじゃないの??」
「どうする?もし大火球なんて使う奴が居るなら、普通の魔力じゃ負けるわよ?」
リ「我々5人『ファンフツェン』で行く!村の警備には探知魔法を展開させ、何かあれば集会所に篭って合図をさせる。」
「決まりね!ファンフツェン出撃!」
読んでくれた方、ありがとう!
取りあえずここまでです。
初投稿ですから、きっと色々問題あることでしょう。
少なくとも、なろうさんや他の執筆者の方々に迷惑かかっていないか?
確認してから次を投稿したいと思います。