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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第1章 コモンステラ
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九話 ナンパ男登場

 休憩後もレベリングだ。新しい町である【テイヘーンの町Ⅱ】に行き、強めのモンスターと戦って、レベルはガンガン上がる。

 夜になれば、タゴサクはレベル23、ソーニャはレベル22になっていた。

 お金もそこそこ貯まり、十万スターある。


「次の星へ行くには、百万スターだったよな。残り九十万か」

「私、買い物したい。装備を更新していくのがRPGの楽しさでしょ。スキルや魔法も買いたいし」

「使えば使うほど、次の星に行くのが遅れるぞ」

「強くなって戦闘の効率を上げた方が、結果的に早くならない?」


 二人の意見が分かれ、先輩プレイヤーであるイアの判断を仰ぐ。


「ソーニャちゃんに一票かな。調査したわけじゃないから、感覚になるけど」

「さすがイア。そう言ってくれると思ってたわ。買い物行きましょう、買い物」


 イアの賛同を得られたソーニャは、嬉々として店を目指す。

 せっかく貯めたのにもったいない気はするが、タゴサクも買うことにした。

 三人でスキルや魔法を売っている店に入った時に、問題は起きる。


「おおーっ! 美少女発見発見!」


 店内には、チャラいナンパ男風の外見をしたプレイヤーがいた。ソーニャとイアを見て、スキップしながら近寄ってくる。


「ヤッホヤッホ、美少女ちゃんたち。俺、ナンパ」


 自らナンパを名乗るとはふてぶてしい。

 年齢は、タゴサクの少し上に見える。大学生くらいだろう。

 長い茶髪を後ろで束ねており、馬の尻尾のように揺れている。チャラいが、まずまずイケメンだ。


「ナンパはお断りです。私もこっちの子もね。他を当たって」

「俺、ナンパ」

「だから」

「ナンパって名前なの。俺の名前」


 凄い名前をつけたものだ。

 ナンパと名乗る彼も、タゴサクと名付けた人間に言われたくないだろうが。

 ソーニャの目が点になるが、ナンパは構わずにまくしたてる。


「このゲームで三人パーティーってのは珍しいね。どっちがあいつの彼女? 俺は女好きでスケベだけど、人の女を寝取る趣味はないから先に教えて。彼女じゃない方は、ぜひ俺とデートして欲しいな。女好きにしてナンパ好き。それこそが俺、ナンパ。だからナンパって名前ね。ってなんじゃそりゃ! なははは」

「お、お兄ちゃん……」


 ソーニャにしては珍しく、困り果てた顔でタゴサクに助けを求めた。


「お兄ちゃん? そういうプレイ?」

「なんでだよ。俺とこいつは、正真正銘兄妹だ。リアルでの兄妹」

「なーるなーる。てことは、彼女じゃないってわけね。妹さんをもらっていい?」

「本人がオッケーすれば」

「私を助けてくれないの!?」

「他人の恋路に口を挟むのもな。お前のタイプじゃないのか?」

「違うわよ! なんでそうなるの!」

「昨日、言ってただろ。『誠実』とか『優しい』とか言い出す男は信用しないって。この人は、『女好きでナンパ好きのスケベ』って自分に正直だ」

「い、言ったけど、ここまで明け透けなのも……」


 下心を隠し、親切を装って「俺は優しいから助けてあげるよ」とでも言っていれば、ソーニャの嫌う相手になっていた。

 親切を装うのも嫌いで、明け透けなのも嫌いとは、贅沢な妹だ。


「んー、さすがに困らせちゃったか。でも、これだけの美少女は滅多にいないし、逃すのは惜しい。せっかくコモンステラまで降りてきて巡り合えた相手だ」

「降りてきた? あなたは上の星に行っているんですか?」

「敬語はなしでいいよ、お兄さん。さっきみたいに『なんでだよ』って話し方でぜーんぜんオッケーオッケー」

「助かる。俺はタゴサクだ」

「ほっほー、タゴサク。センスあるね。皮肉じゃなくてマジでマジで」

「ナンパはいい奴だな!」

「違いの分かる男、ナンパっすよナンパ」


 どちらからともなく右手を出し、タゴサクとナンパは固い握手を交わした。

 奇妙な友情が芽生えた瞬間だった。


「タゴサクと友情を深めるのもいいけど、美少女ちゃんのお名前は?」

「私はソーニャです」

「イアです」

「ソーニャちゃんとイアちゃんね。完璧に覚えた覚えた。俺の脳みそは、勉強の知識を記憶するには不向きだけど、美少女の名前は絶対に忘れないようにできてる。えっと、君の名前はなんだっけ?」

「タゴサクだ!」

「なははは、冗談冗談」


 タゴサクとナンパはバカなやり取りをした。

 ソーニャとイアは、名乗るだけ名乗ってから、変態二人と距離を置いている。付き合っていられないとばかりに、こちらをガンスルーだ。

 スキルを買おうと店に入ったので、二人仲良く選んでいる。

 ナンパはそちらに行くかと思ったが、優しい目で見守るだけで何もしない。代わりにタゴサクと会話をしてくれる。


「俺さ俺さ、ナンパのためにSOSをやってんの。このゲーム、容姿を変更できないんじゃん。美少女かどうかが一目瞭然なんだよね。騙される心配がないから安心安全。好きなだけナンパし放題」

「美少女っていいよな。美少女が嫌いな男も滅多にいないと思うが」

「いいよいいよ。タゴサクは分かってるね。ちなみに、どんな子が好み?」

「可愛くて巨乳!」


 気持ち悪いと言われて反省した矢先だが、ソーニャとイアが離れているのをいいことに本音を暴露した。

 男同士のエロい会話はノーカンというのがタゴサクの考えである。


「気が合うね合うね。俺も巨乳っ子大好き。あとは、ちょいキツめの子が好き。つまりはソーニャちゃん!」

「ソーニャねえ。兄の俺が言うのもなんだが、顔はいいよな。胸もでかい。つっても妹だから、性的な目で見ることはないが」

「胸がでかいって言ってるのに?」

「巨乳は、性的を超越しているってのが俺の持論だ。あれはロマンだ」

「金言、いただきました! たださたださ、タゴサクの理屈だと、お母さんの胸もロマン?」

「……オエェエエ」


 想像すると、本気で吐き気がした。ゲームでは嘔吐できないはずが、システムの限界を超えて吐きそうだ。

 実母を性的な目で見るのは、妹以上にあり得ない。


「ごめんごめん。変なこと言ってごめん」

「勘弁してくれ。システムの限界を超えて吐きそうだった」

「システムの限界を超える! なんと男心をくすぐる厨二ワード!」


 確かに厨二病チックだ。イアが好きそうである。

 もっとも、このような超え方は絶対にごめんだが。


「お母さんは冗談としても、ソーニャちゃんのおっぱいはロマンだロマンだ。全力で賛同したいね」

「分かってくれるか! ロマンだよな!」

「分かるとも分かるとも。イアちゃんも可愛いけど、俺はソーニャちゃんの方が好み。もうねもうね、ストライクゾーンど真ん中! 『ナンパはお断りです』っていう毅然とした態度! チャラ男を軽蔑する目! ああいうキツイ子は大好き!」


 二人は、悪友同士のようにスケベな会話で盛り上がる。


「悪いが、キツイ方が好きって部分は賛同できない。俺は優しい子がいい」

「優しい子もいいけど、Sっ気のある美少女もいいよ。マジでお勧めお勧め」

「キツイ子が、自分の前ではデレデレしてくれる状況がいいってことか? ツンデレが好き?」

「ちっちっちっ、違う違う。デレてくれなくてもいいの。てか、デレてもらっちゃ困る。ツンのままで冷たく見下ろされたい! おみ足で踏み踏みしてください! そんな願望を持つ変態男、ナンパっす!」

「そういう趣味か。ナンパは上級者だな」

「タゴサクも素質あるよ。俺の話にちゃんとついてきてくれてるからね。美少女との出会いだけじゃなく、同性の友人との出会いまであるなんてラッキーラッキー」


 馴れ馴れしい態度でいきなり「友人」と呼ぶが、ナンパの明るい性格のおかげか嫌ではない。

 タゴサクも、友人ができるとは思わなかった。この出会いは大切にしたい。


「殺伐としたゲームでも、ナンパみたいな人はいるんだな」

「そそそ。上の星とか、マジで殺伐殺伐。ナンパどころじゃないよ。だから、こうしてコモンステラまで降りてきたってわけ。ゲームに染まる前の初々しい女の子を探し求めてね。言っとくけど、ソーニャちゃん目当てでタゴサクと友達になろうって意味じゃないから。まったくないわけでもないけどさ」

「将を射んとすればまず馬を?」

「ちょっとはあるよあるよ。お兄さんの心証をよくしておけば、ソーニャちゃんともうまくやっていけそうだし。ただまあ、普通に仲間や友人が欲しくもあってね。ソロだと人恋しくなっちゃって」

「パーティー組むか? ソーニャとイアがなんて言うかは知らないが、俺は問題ない。アドバイスをもらえれば助かるし」


 仮にナンパが女性であれば、もっと積極的に誘っていた。タゴサクのハーレムが拡張する。

 男性であっても心強い仲間になってくれそうだし、パーティーを組みたい。


「ありがたやありがたや。でも、パーティーは組めないかな」


 だが、ナンパの返答はノーだった。


「理由を聞いても?」

「俺って結構高レベルなんだよね。レベル402。強いの強いの。タゴサクたちとパーティーを組むにはレベル差があり過ぎる」

「400オーバー!? 凄いな!」

「それほどでもないけどないけど。上級者に片足を突っ込んだ程度だよ」


 現在のSOSにおける強さの定義を、ナンパが教えてくれる。

 イアも言っていたが、レベル50まではチュートリアルだ。タゴサクやソーニャはここに該当し、初心者となる。

 レベル50を超えれば初心者を脱したとみなされ、レベル200までが下級や低級と呼ばれる。

 レベル200から400が中級者で、ナンパのような400以上のプレイヤーは上級者だ。


「上級者が初心者と組むのは、さすがにさすがに。バカにしてるように聞こえたら申し訳ないけど、タゴサクたちにとってもよくない。俺としては、美少女との出会いがあってお近づきになれたらいいなって」

「パーティーまでは考えてないってことか」

「だねだね。憧れなくはないよ。なーんにも知らない無知な美少女に、俺があれこれ教えてあげるの。スキルはこれがよくて、魔法はこれ。俺が指示した通りに覚えてねって。美少女は、はいはい素直に言うことを聞いてくれて、俺を頼る」

「憧れるな。機会があるなら俺もやってみたい」

「自分好みに育てられれば、俺は楽しい楽しい。美少女のためを考えて、善行をしてあげている気分にもなれる。でもさ、美少女は楽しい? 俺だけ楽しくてもしょうがないっしょ」


 ナンパは意外にも紳士的な発言をした。

 なんでもかんでもアドバイスをもらえれば、楽ではある。失敗しないし効率もいい。簡単に強くなれる。

 タゴサクもイアからアドバイスをもらっているし、絶対悪とは言わない。

 しかし、相手の言いなりになるのは、自分でゲームをしている気がしない。初めてモンスターと戦った時に感じた作業感が、より強く出てしまう。


「人は、誰もがたった一つの星である。だったよな。試行錯誤を放棄して全部教えてもらっちゃ、たった一つの星にはなれないか」

「タゴサク、いいこと言った。それそれ。てなわけで、俺はこれでバイバイ。またいつか会いましょうって。さあさあ、次なる美少女ちゃんを求めて旅立ちましょうかね……の前に」


 立ち去りかけたナンパは、少しだけ真剣な表情になった。


「最後に一つ忠告。白には気を付けて」

「どういう意味だ?」

「そこは、タゴサクたちで考えてちょうだいちょうだい。ではでは」


 思わせぶりな言葉を残し、今度こそナンパは立ち去った。

 賑やかな人が去ったせいで、店の中が急に静かになる。


「お兄ちゃん、話は終わったの?」

「まあな。パーティーに誘ってみたが、レベル差があり過ぎるからって断られた。402だってさ」

「高っ。頼りにはなりそうだけど、私たちの出番がなくなるじゃない」

「俺たちがもっと強くなれば、再会することもあるかもな。ところで、ソーニャはスキルを買ったのか?」

「とっくに買ったわよ。どれにしようか悩んだけど、悩むのも楽しかったわ」

「俺も買うか。待たせてごめんな」


 遅ればせながらタゴサクも購入する。

 イアから軽いアドバイスはもらったものの、最終的に決めたのはタゴサクだ。ナンパに言われたからではないが、自分のやり方を見つけられればいいと思った。

 買い物が終われば、今日のゲームも終わりにする。

 休憩を挟んだとはいえ、ほとんど一日中ログインしっぱなしだったせいで疲れてしまった。

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