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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第1章 コモンステラ
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二話 Solo Oro Stella

本日二話目です。明日は夜のみの投稿となります。

 人は、誰もがたった一つの星である。


 これは、Solo(ソロ) Oro(オーロ) Stella(ステラ)というVRMMORPGで使われているキャッチコピーだ。頭文字を取ってSOSとも呼ばれるゲームだが、救助を求める時に使うSOSとは無関係である。

 Solo Oro Stella。イタリア語の文章だ。


 ソロは英単語でもあるため、日本人にも馴染み深い。

 演奏や演技を一人で行うことを意味する言葉だ。ゲームでは、パーティーを組まずに一人で遊ぶ人をソロプレイヤーと呼び、野球のソロホームランなどあちこちで使われている。

 オーロは金色、ステラは星だ。


 御堂(みどう)(そら)は、妹の御堂双那(そうな)と共に、SOSで遊ぶことになった。

 ゴールデンウィーク初日、双那と一緒にVRゲームデバイスを買いに行く。

 発売当初は大人気であり、どの店も売り切れ続出だった。生産が追い付かず、予約すら受け付けてもらえない状況だ。

 現在では落ち着いており、普通に買える。値段も比較的安く、五万円程度だ。

 高校生が買う物としては高価だが、幸い御堂家は裕福であるため小遣いも多く与えられている。問題なく購入できた。


 帰宅し、VRゲームデバイスの設定を行い、ゲームもインストールした。

 準備完了だ。


「じゃあ、ゲームの中で。早くこいよ」

「お兄ちゃんこそ、キャラクターメイキングに時間かけ過ぎないでね。どうせイケメンにはできないんだし」

「大きなお世話だ」


 空の容姿は悪くないと自負している。背も高いし、太らないように注意しているのでスタイルも悪くない。

 しかし、妹が美少女であるせいか、二人で並ぶとやや見劣りしてしまう。

 ゲームでイケメンになれるならなりたいが、あいにくSOSでは細部しか変更できない仕様だ。大人しく諦めよう。


 VRゲームデバイスを装着し、ベッドに寝転んでログインする。

 まずはキャラクターの作成だ。

 髪は長髪の金色にしてみるが、まあ似合わないこと似合わないこと。外国人にコンプレックスを抱く勘違い日本人になってしまった。

 現実とそっくりそのままではつまらないので、色々試してみる。

 最終的に、髪も瞳も紺碧にした。名前も空だしちょうどいい。


 容姿が決まればキャラクター名だ。こちらは昨日のうちに考えてある。

 タゴサクだ。古めかしい名前だが、それがいい。本名の空は、男女どちらでも使える名前のため、男らしい名前に憧れているのだ。


 大満足で設定を終え、いざゲーム開始。

 空改めタゴサクが出現したのは、ゲーム中の初期の村だ。さびれた一軒家にポツンと立っている。

 SOSは初めてだが、VR自体は何度も体験しているおかげで戸惑いはない。現実で体を動かすようにすれば普通に歩ける。


 家を出れば、そこは自然に囲まれた農村だった。

 こう表現するとよく聞こえるが、実際は貧乏臭いし陰気臭い。民家はいずれもあばら家であり、NPCと思われる人が視界に入るがボロい服を着ている。

 空を見上げれば、毒々しい紫色の雲がかかっているせいで陰気臭さを助長する。青空も太陽も見えない。


 プレイヤーも少数だがいるようだ。ちょうどゴールデンウィークだし、タゴサクのようにゲームを始めた人たちかもしれない。革鎧を装備しているため、NPCとの差は一目瞭然である。

 もっとも、装備の差がなくとも区別はつく。明示的に区別できる印があるわけではないが、なんとなく分かってしまうのだ。


 グルグル見渡していれば、一人の少女が目にとまった。

 燃えるような真紅の髪に同色の瞳は、まるで戦乙女のようだ。凛々しい顔つきをしており、背筋を伸ばして立っている姿は絵になる。

 周囲のプレイヤーも気にしているようだが、声をかけるのはためらわれるのか遠巻きに眺めているだけだ。

 タゴサクにとっては見知った相手なので、堂々と近付く。


「お待たせ」

「あ、やっほー、お兄ちゃん」


 声をかければ、容姿にはあまりそぐわない軽い返事をした。「お兄ちゃん」と呼んでくれたので、妹の双那で間違いない。

 万が一、人違いだったら大変だった。


「早かったな。その髪とか、すぐに決めたのか?」

「あらかじめ考えてあったしね。どう? 似合う?」

「似合うぞ。いいとこのお嬢様から、凛々しい戦乙女になったって感じだな」


 現実の双那は黒目黒髪だ。艶のある黒髪を伸ばしているし、お嬢様然とした容姿である。

 今は、色もそうだが髪型も変わっていてショートヘアだ。顔の造形自体は変わらないはずなのに、別人に見える。


「私の名前はソーニャね。ここではそう呼んで」


 本名のもじりだ。双那なのでソーニャ。定番と言える名前だ。


「俺はタゴサク」

「……ごめん、もう一回お願い」

「タゴサク」


 自信満々に答えるタゴサクだったが、ソーニャは額に手を当てて空を仰いだ。


「キャラクター名でネタに走ってどうするのよ。お兄ちゃんってバカでしょ」

「ネタじゃない。真面目に考えたんだ。古めかしいが、格好よくないか?」

「お兄ちゃんのセンスが分からない。本気で格好いいと思ってるの?」

「思ってる」


 これまた自信満々に答えた。

 格好いいと思っている。少なくとも、タゴサクのセンスでは。

 同時に、一般受けしない名前だろうとも自覚している。タゴサクはネーミングセンスの欠片もない人間だ。

 当然のごとく、ソーニャには大変不評である。


「ダサい。今すぐキャラクターを作り直して、名前も変えて」

「別にいいだろ。俺の名前にまで口出しされたくない。仮にだが、『ソーニャって名前はダサいから変えろ』って言われたらどう感じる?」

「言いたいことは分かるけどさ」

「それに、どうせお前は『お兄ちゃん』としか呼ばないんだ。名前で呼ぶか?」

「お兄ちゃんはお兄ちゃんだし、ゲームだからって名前呼びは違和感あるかな」


 少々揉めたが、結局名前はタゴサクのままとなった。


「後悔しても遅いからね」


 ソーニャには不吉なことを言われてしまうが、タゴサクが望んでこの名前にしたのだから後悔はしない。笑いたい奴には笑わせておけばいいと思う。

 気を取り直してゲームだ。とはいえ、何をどうすればいいのか、タゴサクは理解していない。


「これからどうするんだ?」

「例の女に会いたいけど、初心者が簡単に会える相手じゃないのよ。女神様だし」

「つまり、レベリングでもして強くなる? 悠長なことしてたら、時間なんてあっという間に過ぎるぞ」


 タゴサクはあまりゲームをしないが、MMORPGはとかく時間のかかるゲームであることは知っている。時間泥棒の代名詞のようなジャンルだ。

 歯ごたえがあって、やり込み要素満載で、長時間かけてレベリングする。

 それこそがMMORPGだ。VRゲームになっても変わらない。

 ゲームを始めたばかりの初心者二人が多少頑張ったところで、先行プレイヤーに追いつけるとは思えない。すぐに時間切れとなり、ゲームをやめる時期になる。


「だって、他に方法ないし。一応、協力者はいるわよ。初心者二人じゃ厳しいとは私も思ったから、頼んでおいたの」

「協力者って?」

「学校の友達。例の女の存在を教えてくれた子でもあるわね」

「女子?」

「女子だけど、お兄ちゃんの変態」


 変態と言われてしまうが構わない。

 学校の友達ということは女子高生だ。ソーニャの同級生なら一年生になる。年下の女子と一緒にゲームで遊べるのは大歓迎だ。


「どんな子なのか、会うのが楽しみだ。ソーニャ、よくやった」

「変なことしたら怒るからね」

「俺は紳士だから大丈夫だ」

「どこが紳士よ。私、自分で『紳士』とか『優しい』とか『誠実』とか言う男は、絶対信用しないの。下心があるに決まってるもの。『スケベで変態で女の胸が大好き』って言われる方が、まだ信用できるわ」

「ひねくれてんなあ」

「私くらい可愛いと、鬱陶しい男も近寄ってくるからね。経験談に基づく感想よ」


 ソーニャの男性観は置いておくとして、しばらくここで待ち、友達の女子と合流することになった。

 どのような子がやってくるのか、本当に楽しみである。これだけでも、ソーニャに付き合ってゲームを始めてよかったと思った。

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