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dragons  作者: きらら
1/1

夢で会えたら

プロローグ

「夢を見るんだ、君と過ごす夢、多分君も同じ夢を見ているんじゃないかな?違う?」

明け方の草原、大きな木の下で僕は、君に語りかけた。空は赤く夜と朝が混ざり合っている。

「うん、そうだよ。ぼくも君と同じ夢を見ている。信じてる?」

「そりゃあ、僕から言ったんだから、信じているに決まっているさ。答え合わせでもするかい?」

僕は少し口の端を上げて笑ってみせる。

「なぁ、リクナそんなもの必要ないのわかっているだろう?なんたって今、こうして言葉を交わしているのも夢の中なんだからさ」

風が吹いたように感じた。僕の視界が鮮明になっていく、木々が揺れ、ザラザラと草がぶつかり合う音が大きくなっていく。

夜が終わった。

辺りは真っ白く光り、さっきまでの赤い朝日も、紺色の夜空も消え、新しい今日が始まろうとしていた。

「もう、行かないと、リクナ、ぼくの名前を呼んでくれるかい?」

「ライラ」

「そう、ぼくは、ライラ、忘れないで、そしてぼくを探してくれ」

ライラは立ち上がり、光の方へ歩いて行く、ぼくも立ち上がりライラの方へと歩き出そうとした、けど、何故だか追いつけない。

「ライラ!待ってくれ!」

ライラは振り返って僕に笑いかけた、ライラの長い金髪が風に煽られ、青い瞳は僕をジッと見つめ人差し指を口の前に立て光の中へ消えていった。


第1章 竜の巣


1


彼女は目覚めた。暗い洞窟、辺りは静かで冷たかった、10センチ程の水溜りに横になっていた。久々の目覚めだから焦点が合わない、身体を起こし、目を細めながら、微かに捉えた光の方を見る、身体を起こす、手をグーとパーに交互に動かして身体の機能を確認、足にまとわりつく水も感じ取れる。だんだんと視界も開け感覚も研ぎ澄まされて行く、様々な音が聞こえる。木々の揺れる音、人々の喧騒、5キロ圏内に小規模な街があるだろう。洞窟の出口までは800メートル程だ、彼女は濡れた身体で立ち上がり、出口へと歩き出した。


2


穏やかな気候、空は澄み渡り雲一つない青空。ここは、7大国の東に位置する小さな町、ベルシア。人口は5000人に満たないくらい、名産物はは小麦にリンゴ、主な観光地は美しい自然、古い建築物、旧遺跡跡、もの好きの間ではかなり有名な建造物(おおよそ、何千年もの前の建造物が奇跡的に残っており、世界遺産として保護されている物が多い)コレを見るために西の大地から来る者もいると言う。

このベルシアという町は、一言で片付けて仕舞えば、田舎、と言う表現がピッタリであり、ここに住む者からしたらさほど、目新しい物はなく、農作物や天気、お隣さんの家庭事情の方が面白いらしい。

この町の中心街パラキラから南の方角の村から少し外れた小さな木造一軒家ここにリクナ・ウェイドと言う少年は暮らしていた。

家は大きくはないがリクナ1人で暮らすには十分な大きさではあった。元々は父親と、一緒に暮らしていたがとある事情により父親は7年前消えてしまった。

リクナ・ウェイドは歩いていた。隣にはエフィがいる。2人は幼馴染で、今日リクナはエフィの家の手伝いをする約束だった。

「今日はちゃんと早く起きれて偉いじゃん、どしたの?」

「いや、昨日はさ、何となく素直に眠れたんだよ」

「ふぅん、睡眠障害のリクナにしては珍しいじゃん」

「別に睡眠障害ってか、ここ最近、眠るのに努力がいるだけだよ」

エフィはジッとリクナを見つめる

「なに?」

「いや、わからない?」

「言わなきゃ、わからないよ」

「まぁ、心配してるだけ?別に無理しなくてもいいから」

「いや、エフィのとこの婆様にはいつも世話になってるし、手伝うよ」

リクナの父親は突然消えてしまった。考古学の研究者で元々、帰りが遅かったり何日も家を開けることはあった。でも、そういう時は必ずリクナに連絡をするし、エフィの祖母に一声かけてから行くのだ、何も連絡せず消え、もう、10年ほどになる。リクナが7歳の頃だ。消えた当時、リクナはすごく悲しんだ、その時幼馴染のエフィの家族がリクナの面倒を見てくれた。

今、父さんはどこにいるのだろう?

まだ、生きているのだろうか?

誰かは死んでしまったと言っていた、何となくそれは信じられない

また、2人であの家で会話出来るだろうか?リクナは父のことを忘れた事はなかった。


3


2人は、石垣で舗装された道を歩いた。目の前に広がる金色の小麦畑、その奥には昔、絵画で見たような田舎の木造建築が見える。

家の前に着くと玄関の先の階段にエリザベスが腰を下ろし、2人の到着を待っていた。

「おばあちゃん!」大きく手を振るエフィ、軽く片手を上げリクナは挨拶を済ませた。

「やぁ、すまんね。2人とも若い子らの時間を奪ってしまって」

「別にいいよ、おばあちゃん。私らだって手伝えない時は言うし。ね?リクナ?」

「うん。オレもエリ婆に感謝してるからさ、気にしないでいつでも言ってくれよ」

エリザベスは1人でこの家に住んでいた。元々は旦那のピーターと一緒に住んでいたが、5年前に他界。土地を売ることも考えたが、思い出の場所だからと、エリザベスがそのまま引き継ぐ事で落ち着いた。

「おばあちゃん、調子どう?腰を痛めたって聞いてるけど…」

「あぁ、なんて事ないよ。大袈裟なんだよ、ケリンはいつも」

「心配なんだろうさ、オレもエリ婆に何かあったら悲しいし」

「別にあたしゃ何ともないよ。ほら、喋ってたら日が暮れちまうよ。せっかく来て暮れたんだ、時間を無駄にしちゃあいかんよ」

「はーい」エフィはそう返事して、物置小屋に道具を取りに行った。その後をリクナも続いた。

その時、誰かに呼ばれたような気がした、声の方を見る、奥の深い森に女の子が1人立っていた。青い長い髪が風に微かに吹かれ、目の上に切りそろえられた前髪に少しかかっていたのか、女の子は少し目を細めてこちらを見ていた。薄紫のような色の瞳だった、と思う。距離はどれくらいだろうか、近くはないが遠くもない、リクナは両目とも視力は2.0ある、全体的な雰囲気は把握できた、彼女には何か惹きつけられるものを感じた。声をかけようか迷った。

「リクナ、何ぼけっとしてんの?」

前にいるエフィが道具を持って目の前に立っていた。

「ほら、時間ないっておばあちゃんも言ってたでしょ?早く終わらせてご飯頂こうよ」

「ああ、うん。いや、ほら、あそこにさ女の子、いてさ、見える?」

リクナは振り返り女の子のいる方向を指差した。

「誰もいないけど?」女の子は消えていた。おかしい、間違いなくそこに女の子はいたはずなのだが…

「リクナやっぱ調子悪いんじゃない?無理しないで今日は帰る?」

「いや、大丈夫だよ。多分、見間違いかも知れない。ごめん、道具持つよ。」

あれは、見間違いだったのだろうか?けどあの目に覚えがあった。そう、ここ最近良く夢で見る目だ。

4


夢の中でボクはドラゴンだった。竜、緑色の翼、緑色の鱗、光に照らされ様々な色に輝く竜、それが僕だ。大きな空が上には広がり緑豊かな木々が茂り、足元には草原が広がる。誰もいない。人間は。

ボクはいつも空を見上げていた、何かを待つように、誰かを待つように、その夢には決まってもう1匹の竜が現れる。

薄い水色の翼に鱗、赤紫色の瞳、鋭く鋭利な刃物のようにギラリと輝き、自分すらも傷つけるような危うさを持つ、そんな目を持つドラゴンは優しかった。

いつも、ボクの前に現れると泣いていた。ごめんなさい と、ボクは気にしなくても良いよ と、いつも心の中で思っていた。どうせ、夢だし、また、見ればいいよと伝えたかった。

何を見る?

君は、どうしてボクに謝るのだろう?

いつも不思議だ、夢はいつだって突拍子がなくて伏線や今までの生き方、人生なんて関係ない、新しい何かを見させてくれる。

一瞬の幻

いつも、泣いている君の腕の中でボクは眠る。

白い光が目の前に広がる、君の声も自分がドラゴンの姿だった謎も、眼が覚めると、忘れてしまう。時々、ふとした時に日常で思い出したりはする。

一瞬の夢


ボクは森の奥にいた。女の子を見て夢を見ていたことを思い出した。


5


農作業は夕方前には終わった。リクナとエフィは回収した、作物たちを手際よくコンテナに詰めていき、家の横にある、小屋に置いて出てきたところだった。

「ふぅ〜今回もかなりの重労働だったね」エフィは首元にかけてあるタオルで汗を拭きながら言った。

「お腹すいたな。そういえば昼も食べないまま、ずっと作業してたし、けど、今食べると夜に響くしなぁ」

「そう?私は食べれるけど」

「我慢しなよ、エリ婆のご飯たくさん食べたいって言ってたろエフィ?」

「リクナ、私を食いしん坊キャラみたいに扱わないでよね」 エフィはリクナを睨んだ。

いや、実際そうだしなぁ…

2人は近くの石垣に座った。他愛もない会話をした。最近読んだ本、エフィの家族のこと。

エフィの髪が伸びている事に気付いた。普段は下ろしているが、今日は後ろで結んでいる。出会った頃は、男の子のように髪短く、今以上に活発な印象だった。

リクナは、控えめで、いつも何かに怯えていた。一日中、部屋から出ずに本を読んだり、ベッドに横になって過ごすことも多かった。エフィが話しかけた時も、目を見て話が出来るような子ではなかった 。

エフィから見たリクナの第一印象は、弱々しい人だと、思った。最初に話しかけた時も目も合わせなければ、返事も遅く、言葉を交わす度にイライラしていた、なぜ、その一言が出てくるのがそんなにも遅いのか。エフィは不思議で仕方がなかった。

最初のうちは両親から、毎日話しかけて欲しいと頼まれて、仕方がなく話しかけていたが、次第に距離を置くようになった、たまにリクナの家の近くを通ると玄関の近くに座り込み木を静かに眺めていた。

「ねぇ、それ楽しい?」エフィはこの子は病気なのかも知れないと思い確認する事にした。

沈黙。

「ねぇ!」

大きな声を出してしまった エフィは自分の声に驚いた。

「えっと…どうかした?」ようやくリクナはエフィの方へ目を向けた。

「何してるの?」

「………」

また、だんまりだ。深いため息をついた。時間の無駄だ。もう、放っておこう、その場を立ち去ろうとした。

「声が、聴こえるんだよ」

足を止めてリクナを見つめた。

「声?」

リクナはまた、黙ってしまった。

「もしかして……おちょくってるの?」

「聴こえない?また、ボクを呼んでる…けど、ボクじゃない」

エフィはリクナの事が急に怖くなった。得体の知れない、ただ、広く暗い空間に似ていると思った。例えるなら深海のような、深さをその時のリクナから感じたのをエフィは今でもハッキリと記憶している。

「私の…声は聞こえないの?」

リクナはエフィの方を見る。

初めてリクナの顔をしっかりと見つめた。

伸ばしっぱなしの髪の毛、目にかかるくらい長い前髪からわずかに覗く、暗い青い瞳は深海を連想させる。その目には光が宿り、生きていると実感する。

時間にすれば20秒にも満たない、ただ、長く永く永遠にも感じた。

「そうだね。みんなの声を、聴かないとね」

リクナは立ち上がり、エフィの前に手を差し出す

「えっと…ボクはリクナ・ウェイド、ごめんよ、今まで、もし、許してくれるなら、友達にならないかな?」

照れくさそうな、人懐こい顔でリクナは口元を上げた。その表情からは、深海のような深さは微塵も感じなかった。

エフィはリクナの手を取り微笑んだ。


6


2人は晩御飯の前に、散歩することにした。

外は暗く夕日は、ほぼ西の方へ沈み夜の世界へと生まれ変わろうとしていた。昔はよく遊んだ道、裏山、大きな変化はない、変わったのは2人の体格、今は昔ほど遊んだりはしない。エフィは家の手伝い、リクナは父親の残した考古学の研究を調べている。

お互い一緒に過ごす時間は減った、と思う。

けど、昔よりはお互いが何を考えているのか、わかる気がする。

「リクナ、今私が何考えてるかわかる?」

「……お腹空いたとか?」

「さっきから、何を探してるの?」

「え?」

突拍子のない事を言われ、驚いたリクナ

「えっと……そう見えた?」

「当たり前でしょ、そんなにキョロキョロしてたら、多分誰にでもわかるよ」

こういう時嘘をついても、バレて色々嗅ぎ回られる事をリクナは過去の経験から知っているので、この時の正しい行動は

「さっき、森の奥に誰かを見たんだよ。なんだか昔、見たことある気がする人で、その事がずっと気になってた」

はっきりと正直に偽りなく答える。

「ふぅん。で、誰?」

「いや、わからないよ。どこで見たのかもわからない」

エフィは立ち止まり、森の方を一度だけ見て石垣にもたれかかる、もう、後ろで髪を結んではいなかった。

静かだった。

少し風に吹かれる、森の木々が風に吹かれ、カサカサと音を立てている。気を抜けば肌寒い。

エフィはまっすぐ先を見ている、町の方を見ながら何か考えているの。

ボクは、何を考えているだろう。2人で同じ方を黙って見ている。父さんがいなくなってから、ずっと何かをしなければならないと、思い、父さんの後を追うように、父さんの研究していた考古学の本を読み漁った。

それで何がわかったのだろうか?きっと、何もわかっていないだろう。ただ、怖いのだ。毎日が、時間が、勝手に流れていくのが。時間は何をしていても流れていく。寝ても、食事をしても、誰と過ごしても、誰にでも平等で、優しくて、冷酷。

もっと、沢山の事を調べないといけないだろう。

「リクナ、帰ろっか」

ボクは頷く、エフィは歩き出した。

もう一度、町の方を見る。

彼女がいた。森で見た、女の子。

目が合う、ボクは固まってしまった。

「こっちへ、来なさい」

距離は遠いはずなのに、彼女の声がはっきりと聞こえた。


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