9.決戦の地へ
独行の技師により、抵抗軍の装備は大幅に増強された。
中でもオールドマンスーツを開発したことが大きかった。
倒した眷族のボディからオールドマンのパーツを鹵獲し、独行の技師で分析してスーツ化したものだ。
素材の問題で製造数は少ないが、このスーツのおかげで私意外でも眷属と戦えるようになった。
装備も充実した抵抗軍は、帝国支配下にあった星系を次々と開放し順調に戦力を拡大していった。
だが、終末は直ぐそこまで近づいていた。
「非常に深刻な事態となった。」
ローマルク大佐含め、現在の抵抗軍幹部が集結している。
一応私もヒロムおじちゃんの補佐で参加している。
「皆も既に聞いているだろうが、帝国の攻撃でアクトルガス星系が消滅した。」
参加者の中にざわめきが広がる。
「アクトルガス星系を消滅させたのは、セントラルから放たれた超巨大粒子砲だ。どうやらプロトはセントラルを改造し、惑星サイズの粒子加速器を作り出したようだ。」
会議室の円卓中央にセントラルの立体図が表示される。
「この兵器が単なる示威行為であるだけなら、それほど深刻でもなかったのだが・・・・・、」
セントラルの表面、惑星にリングを嵌めたかのように何本もの輪がセントラル地表に走る。
「プロトはセントラルに同規模の加速器を10本以上建造している。兵器利用するにしてもあまりに過剰だ。」
再び参加者に喧噪が広がる。
「プロトはこの過剰ともいえる加速器を用い、"粒子トンネル"を生み出そうとしている、という情報が入った。」
「ばかな!」
「まさか、宇宙を滅ぼすつもりか!?」
「ありえない!」
参加者の中に、これまでにないほどの喧噪が広がる。
良くわからないが、粒子トンネルができてしまったら宇宙が滅びるらしい。
「私も信じたくはない。だが、セントラルに建造されたこれらの粒子砲が裏付けとなっている。アクトルガスへの攻撃は"試し撃ち"だったのだろう・・・・。」
試し撃ちできたということは、設備は完成しているということになる。となると、あまり猶予は無い。
「我らの戦力は、まだ帝国軍の10分の1程度だ。しかし今戦わねば、我々は反撃すらできないまま滅ぼされることになる。」
全員が沈黙し、ローマルク大佐の続く言葉を待っている。
「全戦力を以て、セントラルを攻撃する。」
セントラルへ来たのは初めてだ。
昔は数十億の人が住み、惑星全体で1都市を形成している宇宙最大の都市だったと聞いている。
「そんなすごい都市、見てみたかったな。」
ソレイユのブリッジ、艦長席に座る私はつぶやいた。
メインモニタに映るセントラルは、そんな面影は残っていない。
おそらくは独行の技師によるものだろう。地表は大きく削り取られ、むき出しになっている多数の粒子加速器リングは惑星の白骨のようにも見える。
全てはあのリング群を生み出すために使われてしまっただろう。
そんな白骨化したセントラルを覆い隠すように帝国軍の大艦隊が展開している。視界を埋め尽くすほどだ。
「こんな役目を負わせてしまって、すまない。」
モニタに映る風景を見ながら思惟に浸っていた私に、ヒロムおじちゃんが話しかけてきた。
いつもと違い、ソレイユのブリッジには私とヒロムおじちゃんが居る。
この戦いでは、私とヒロムおじちゃん、さらにおじちゃんが鍛えた部下3人がソレイユに搭乗している。
抵抗軍の"最大戦力"として・・・・・・。
「お前は無理せず、いつも通りやればいい。」
ヒロムおじちゃんは、私の頭に手を置き、少し乱暴に撫でてくる。
ヒロムおじちゃんは昔からよく、こんな風に頭を撫でてくれる。
髪の毛がくしゃくしゃになっちゃうので不満げな顔はしておくが、実はそんなに嫌いじゃない。
帝国軍とは埋められない戦力差が存在する。その上、セントラルからいつ粒子砲が撃たれるか分からない。
だから、抵抗軍の全艦隊は囮になる。本命はソレイユ1隻。
艦隊を突破し、ソレイユ1隻の戦力でプロトを倒す。
「これが最後の戦いだ! 全艦突撃せよ!!」
ローマルク大佐から抵抗軍全体に号令がかかる。
抵抗軍はかなり広く展開している。密集していてはセントラルからの砲撃で一網打尽にされかねないからだ。
それらすべての艦艇が、セントラルに向け一斉に進軍を開始した。
「さぁ、行こう。」
ヒロムおじちゃんの合図に、アイさんが答える。
『ステルスフィールド展開、ソレイユ前進!』
ソレイユが加速を開始した。
抵抗軍艦艇と帝国軍艦隊の戦闘が始まった。
戦力比はざっと見比べても5対1。抵抗軍は1隻で帝国軍5隻を相手にしている。
ソレイユも帝国軍艦隊の中へと突入する。幸い、ステルスフィールドのおかげで今のところ気づかれていない。
周囲では乱戦状態、双方エグゾスーツ部隊が出撃しての戦闘に発展していた。
何体かの眷属がすぐ近くを通り過ぎて行った。
眷属により抵抗軍艦艇が轟沈し、味方のエグゾスーツ部隊が蹂躙されている。
眷属の猛攻に対し、抵抗軍もオールドマンスーツ部隊が応戦する。
早くも戦場は泥沼化している。
肩に手が置かれる。ヒロムおじちゃん?
気が付くと私は座席の肘掛がへこむほどに握りしめていたらしい。
「今は耐えろ。」
私はおじちゃんの顔を見た。おじちゃんも苦虫をかみつぶしたような険しい顔をしていた。
その時、すぐ横を通過していた眷属の一人がこちらを見た。
見ながら通過して・・・・・・。
眷属は速度を緩め、こちらを凝視している。明らかに不審を感じている。
聞こえるわけはないが、私は息をひそめる・・・・・。
眷属が完全にこちらを向き直し、両手に光を集める。こちらに向け、エネルギー砲を・・・・。
「防壁!!」
眷属の放ったエネルギー砲はソレイユの防壁に当り、拡散した。
同時にステルスフィールドも解除されてしまった。
瞬間、ヒロムおじちゃんがブリッジ出口に向かう。
「奴とは俺がやる。ソレイユを止めるな!!」
言い終わるや否や、おじちゃんはブリッジから飛び出していった。
眷属が再び放ってくるエネルギー砲を防壁で防ぐ!
エネルギー砲が防がれると見るや両手にブレードを展開、プラズマの刃を発振させる。
眷属の姿がモニタから消える。
次の瞬間、メインモニタにはオールドマンスーツのヒロムおじちゃんが大写しになっていた。
「おじちゃん!!」
眷属はおじちゃんに蹴り飛ばされ、帝国軍艦艇に激突していた。
おじちゃんは眷属を追い、ソレイユから離れていった。
ソレイユが激しく振動する。
『敵艦からの攻撃です!』
そうだ、ステルスフィールドが解除されたんだった!
「防御機能は全展開! SDモードで一気に突破!!」
『防壁展開、フライングシールド展開、SDモード起動、突貫します!』
周囲の艦艇から雨のようなレーザーと砲撃が殺到する。
何度も船体が激しく振動する。
艦の状態表示はアラートだらけになっている。ジェネレータもドライブも融解寸前だ。
『SDモード終了まで残り20』
真正面に敵艦が見える。このままだとぶつかるが・・・・・・。
「前面に防壁全力展開! そのまま直進して!!」
こちらの突進に対し、敵艦は船体を傾けて回避を行った。しかし、こちらは止まらずに突っ込む!
船体が激しく揺さぶられる! 敵艦と側面を接触させガリガリと削りながらも直進を続ける。
あちこちからギシギシと軋む音が響いてくるが、ソレイユは進み続ける。
『SDモード終了まで残り10』
最後尾の敵艦をすり抜け、艦隊を突破した・・・・・・。
不思議と、それ以後帝国軍は砲撃をしてこなかった。
セントラルに近づく。
間近で見る粒子加速器リングは、尚更異様だった。
地表がほとんどなくなり、巨大なリングだけが組み合わされたような状態のセントラルは、近づいてしまうと惑星とは思えなかった。
セントラルに残された唯一とも言うべき建物。タワーへと近づく。
頂上部に黒い人影が立っているのが見えた。
「プロト・・・・・・。」
プロトの瞳がこちらを射抜く。モニタ越しで一瞬目があったかような錯覚。
「ついに来たか、新たな特異点。」
プロトの声が聞こえる。無線ではない、実際に声でもない。それでもなぜか聞こえてきた。
おじちゃんの部下3人と共に艦上へ出る。
「ふむ。余計なゴミが3つほど着いて来ているな。」
プロトが懐に手を入れ、中から人間サイズの物体を3つ取り出す。
眷属!? いや、あれはオールドマンの素体? 中に眷属は入っていないようだ。
というか、どう見ても懐に入る大きさじゃない。何かのマジックだろうか・・・・・。
オールドマン3体の姿が消え、それぞれおじちゃんの部下3人に襲い掛かる。
「なっ!」
オールドマンに引きずられ、3人はあっという間に離されていく。
「さて、特異点の力、見せてもらおうかのぅ。」
私は左目を起動した。