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3.管理者

「ここまでたどり着いてくれましたね。」


 そこには、プロトに補食される前の白銀色をした管理者が立っていた。



 僕はスーツのフルフェイスを展開し、改めて肉眼で周囲を見回した。


 室内にはラファとリックも居る。どうやらリックが箱の中に手を入れたタイミングで、僕らも一緒にここへ来てしまったようだ。


 ここは、ワンルームマンションの1室程度の広さがある真っ白な部屋だ。

 その中に、部屋の半分を占拠する巨大な銀色の筒が置かれている。

 あれは巨大な演算装置か?


 その筒の前には管理者が立っている。



「本当に管理者、ですか?」

 僕は管理者がプロトに変わっていくところを目撃していたこともあり、目の前の存在は偽物なのでは? と少々疑いつつ問いかけた。

 管理者は鷹揚に頷く。


「厳密には私は管理者のバックアップです。ここはレガシ"小食の箱庭"の中。先ほどあなた方が見つけた箱の中です。」

 リックが開けたあの箱か。


「私の背後にある装置が、管理者のバックアップシステム。つまり今の私の本体です。」

「管理者のバックアップにはレガシを利用していたんですか。」

 管理者は少し微笑みつつ、僕の言葉に答える。


「バックアップのみではなく、管理者のメインシステムにもレガシを利用していました。メインシステムを格納していたのは"大喰らいの箱庭"。"箱庭"は収納に特化したレガシです。見た目は小さな箱ですが、ご覧のように内部には広い空間が存在しています。」

 原理は不明だが、テレビアニメの猫型ロボットが持っているポケットみたいなものか。


「"小食の箱庭"は、ご覧のように小さな空間に限られますが、"大喰らいの箱庭"は、惑星1個分に匹敵するほどの内部空間を持っています。」

 そんなに広いと、しまった物を探すのも一苦労しそうだ・・・・。




「それにしても、管理者が無事でよかったです。これ一安心ですね。」

 僕の楽観的な言葉に、管理者の表情は曇る。

「いえ、状況はあまり楽観していられません。」

 僕の安堵を打ち消すように、管理者は神妙な雰囲気で言葉を続ける。


「プロトに侵食される直前、私はバックアップをネットワークから遮断し残すことしかできませんでした。依然として銀河連邦の行政司法システムはプロトに掌握されている状態です。」

「えーっと、そこは管理者が奪い返せば・・・・・・。」

 管理者はやや俯きつつ首を振る。


「ここのシステムはあくまでもバックアップだあり、メインシステムは演算能力も桁違いです。ネットワークを介して奪還を試みても、返り討ちにあってしまいます。」

「では、どうやって・・・・・。」



 管理者はしばし僕の目を見つめ、意を決したように口を開く。

「プロトを直に抑え、その上で物理的にメインシステムを奪還しなくてはいけません。」

 ええー、ものすごく力業な予感がしますが・・・・。


「勇介にお願いがあります。メインシステムを奪還するために力を貸してほしいのです。」

 管理者は頭を下げている。

「え・・・・・。」

 "指令"ではなく、"お願い"されてしまった。


「任務ではないのですか?」

「今の私は銀河連邦行政司法システムではなく、ただのAIに過ぎません。勇介に指示を出す権限も失っています。」

 管理者は自嘲するような表情を浮かべる。


「プロトが"管理者"となった宇宙。私のシミュレートは破滅的未来を予想しています。ですが、今の私にはそれを食い止める力が無い。だから今できることは勇介、あなたにお願いすることだけです。」



 任務だ! と言われれば、特に気にせず向かっただろうが、"お願い"と言われると妙に悩んでしまうな。


「無理に、とは言いません。危険な仕事です。ですが、食い止められる可能性があるのは勇介だけなのです・・・・・、どうか。」

 管理者は改めて頭を下げている。


 僕はラファを見た。「任務行かないの?」と言いたげな表情だ。

 何の疑問もなく"行く"と認識してるな・・・・・。


 リックを見る。

 その身振りからは、「俺はしらねぇよ?」というセリフが聞こえてきそうだ。



「わかりました。やってみます。」

 管理者は顔を上げ、わずかに笑みをうかべる。

「ありがとう。」

 僕は何だか照れくさくなって、顔をそむける。



「そ、それで何をしたらいいんですか?」


「私、つまり"小食の箱庭"を持ちセントラルへ赴き、メインシステムと物理的に接続してほしいのです。だだし、奪還のためにはプロトが邪魔できない状態にしておく必要があります。」


「つまり、プロトを倒し、メインシステムとバックアップシステムを直接接続する。ということですか。」


「はい。」

 あのプロトを倒すのか・・・・、話は単純だけどなかなか困難だな。


 少し考え込んでいたところ、急に手に何かが触れた。


 振り返るとラファが僕の手を握っていた。

 ラファは何も言わず、ただ頷いていた。


「うん、行こう。」




「その前に、」

 ラファと共に箱庭から出ようとしたところで、管理者に呼び止められた。

 管理者は僕に近づき、額に手を翳す。


 管理者の手から何かのプログラムコードのような物が僕の中に流れ込む。


「勇介、あなたのレガシハンター活動制限を解除しました。これで攻撃制限がかかることはありません。」

「え、それって。」

 管理者は既に銀河連邦行政司法システムの権限を失っていたはずでは・・・・・。


「ふふ、銀河連邦行政司法システム名義で設定されている制限機能へのハッキングです。秘密ですよ?」

 管理者は人差し指を口にあてつつ、茶目っ気のある笑顔でそう答える。こんな管理者初めて見た。

 いや、行政司法システムでなければ、管理者のAIは元々こういうタイプだったのかもしれない・・・・・。


「"大喰らいの箱庭"の中には、回収したレガシも格納していました。それらは現在プロトの手にあります。十分に注意してください。」

「わかりました。では、行きます!」

 僕もラファもスーツのフルフェイスを閉じる。リックもフードをかぶりフェイスガードを下している。


 天井に箱庭の出口が見えている。僕とラファは天井の出口へと飛び上がる。リックも渋々と言った雰囲気で付いてきた。






「キシャァァァァァァァァァッ!!!」

 箱庭の外には、銀色の怪物が待ち構えていた。


「出待ちとは、僕も人気者になったな!!」

 僕は即座にプラズマブレードを展開、ラファはブレイヴセイバーを構え、同時に2体の怪物を貫く。


「ヴァリアントってことは・・・・・。」

「おいおい、いきなりだな! 聞いてないぞ!」

 リックは抗議の声を上げている。


「さっき、管理者が言ってたよ、レガシが、敵に回るって。」

 顔は見えないが、リックは相当嫌そうな顔をしている気がする。


「リック、箱庭を頼む。ソレイユまで一気に戻るぞ!!」

 通路にはぎっちりとヴァリアントがひしめいていた。


「ソードサテライト!!」

 背部バックパックからソードサテライト4基を射出! 狭い通路内を飛び回りヴァリアントを切り刻んでいく。


「行くぞ!!」


 ソレイユにもヴァリアントが集っていた。

 ソードサテライトとフライングシールドでそれらを叩き落とす!


『箱庭内に居たため、ソレイユとの同期ができていませんでした。情報リンク。ソレイユの外装に目立った損傷はありません。』

「リック、早く!」

 僕とラファは一足飛びでソレイユの艦上へ飛び乗る。


「お前らみたいな人外と一緒にするな!」

 失礼な、ちょっとセルグリッドやエグゾスーツで強化しているだけだ。


 リックは転がり込むようにハッチからソレイユ内へ乗り込む。


「アイ! ソレイユ発進!」

『かしこまりました。』


 ソレイユは来た道をそのまま後退していく。


 僕はレーザー砲台を展開、レーザー照射とソードで通路内にうろつくヴァリアントを撃破していく。



 ソレイユはバック飛行のまま、インソシアの地表へと飛び出した。

 外は地上も空中もヴァリアントで埋め尽くされていた。


 まさに一面の銀世界。


 大群の隙間から、ヴァリアントコアの姿が見えた。



「ドレッドノート!!」

「ハーキュリーズ!!」


『射出します!!』


 ソレイユ格納庫が展開、内部から2基の大型エグゾスーツが射出される。


 僕らはそれぞれのドッキングブースに飛び込む。


「「SDモード!!」」


 2機の巨人は和音のように高周波音を響かせ、高速機動で大群の蹂躙を始めた。



 僕らは二人でダンスを舞うように、インソシアの空を舞った。 


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