17.白銀の侵略者
「ミルーシャですか?」
僕は素っ頓狂な声を出してしまった。そのくらい意外な指示だった。
てっきりヴァリアントの駆除、もしくは探索の任務になるかと思ったのだが・・・・・。ミルーシャが何か関係してるのか?
管理者は一拍間を置き、雰囲気を改めるように口を開いた。
「ヒロム・アイダを覚えていますか?」
「はい、覚えていますが・・・・・・。」
忘れるわけもない。もう一人のブレイヴだった男だ。
「捕食者との戦い後、彼は母星である"惑星ジグランデ"に一旦帰りましたが、毎週のようにミルーシャを訪れていたそうです。それが、ここ2週間は来ていないそうです。」
ここで話題に出るということは、単純に忙しいとかではないのだろう。管理者の表情は硬い。
「念のため、ジグランデに飛ばしている監視衛星を確認しました。」
そうか、ジグランデも宇宙時代未満だから監視衛星があるのか。
『惑星ジグランデ。宇宙時代未満の知性体が生活しています。文明レベルとしては、勇介様の仮想世界に近い水準です。』
ほー、そうなんだ。
「監視衛星の映像でも何も問題はない。ように見えました・・・。」
「問題があったと?」
管理者は頷きながら続けた。
「はい、数日単位で確認したところ、繰り返すように同じ情景が記録されていました。」
あっ、それってスパイ映画とかで監視カメラを誤魔化すために、同じ映像をループさせてるみたいなアレか。
「ということは、監視衛星がハッキングされているってことですか!?」
管理者は頭を振る。
「いえ、どうやら惑星を何かで覆い隠し、情景を映し出しているようです。隠ぺい機能の一種でしょう。」
惑星全体を隠ぺいして中では何が行われているのやら・・・・・。悪い想像しか思いつかないな。
「あ、そうか、だから、」
「ええ、毎回行き先をロストするコアが在ったのは、それが原因だと考えられます。」
レガシ本体を含むであろうコアは隠ぺい機能でこっそりと移動。見つからないのをいいことに新しい侵略先でやりたい放題。
これを作った古代人は本当にいい性格している。
って、つまりそれって、
「ジグランデにヴァリアントが侵入してるってことですか?」
「その可能性が非常に高いでしょう。しかし確認しようにも監視衛星から観測することができません。さらに偵察用ドローンも出してみましたが大気層で弾かれました。機能としては、デウスマキナが持つ空間遮断機能の簡易機能ではないかと想定しています。」
惑星外から中の様子が見れない、惑星内に入ることもできない。となると・・・・・。
「調べることも、助けに行くこともできないじゃないですか!!」
焦る僕に、管理者はことさら冷静に話を続ける。
「だからこそのミルーシャなのです。デウスマキナが持つ空間操作機能の方が性能は上と予想しています。デウスマキナの転移ゲートならジグランデへの道を開けるはずです。」
管理者の読み通り、デウスマキナの転移ゲートでジグランデに侵入することができた。
転移して目に入った風景は、一面の廃墟だった。
「こ、これは。」
文明レベルは僕の仮想世界に近いと聞いていたが見る影もない。生き物の痕跡すら怪しい状況だ。
ヴァリアントによって全て食い尽くされてしまった後なのか・・・・・・?
「まだ、生き残ってるよ。」
ラファがつぶやく。
「全てが、死んでしまったなら、奴ら、ここを離れてる、はず。」
そう、だな。ここからヴァリアントが飛び去っていないということは、この星がまだ抵抗を続けてるってことだな。
「アイ、コアの位置は探査できる?」
『現在探査可能範囲は周囲2kmほどですが、その領域には生物の反応すらありません。』
「Gネットは?」
『接続できません。』
やはり隠ぺいにより通信も遮断されているようだ。第14戦隊にはジグランデ周回軌道まで来てもらっているが、突入もできないだろう。
「地道にコアを探して、隠ぺい機能をなんとかするしかないか。」
「うん。捜査は、足で稼ぐ。」
よし、惑星中しらみつぶしにしますか!
重火力型スーツの重力ドライブを稼働、よし、行くぞ・・・・・・
『通信回復。』
んな!?
『隠ぺい機能が停止したようです。ソレイユとの通信回復しました。監視衛星との情報リンク。惑星ジグランデ上で戦闘光確認。位置を表示します。』
視界にジグランデの惑星図が表示され、現在位置からのルートが示される。
直線距離で数千kmありますが・・・・。
『監視衛星からの映像表示します。最大望遠です。』
視界の隅に映像が表示される。あれは・・・・・、ヴァリアントのコア! それも複数!?
木に咲く花のように、銀色の木につぼみがいくつも付いている。
「行こう!!」
僕とラファの二人は、重力ドライブを最大稼働させて一気に上昇、弾道飛行でヴァリアントのコアを目指す。
「ジジルア中佐、降下してコア周辺に展開してください。」
コアの周辺には、多数のヴァリアントも確認できた。隠ぺいが解除されているなら、第14戦隊にも降下してもらおう。
「わかった。では4隻降下させ展開しよう。以前と同様、3隻は軌道上で予備兵力としておく。」
「よろしくお願いします。」
徐々に高度が落ち、着地に向け速度を落とし始める。
スーツのセンサでもヴァリアントコアを捉えられる距離まで近づいてきた。
改めて見たコアは、監視衛星で見たときとは状況がかなり変わっていた。
木の中心に在ったつぼみが無くなり、そこから無数の触手が伸びている。
ジグランデ人がコアと戦っている。
コアは触手の先端からレーザーを照射し、ジグランデ人を次々と撃ち抜かれている。
『対象群からの敵性行動を確認、攻撃対象は無差別と確認、対象群を危険度災害級の敵性勢力と断定、銀河連邦管理者へ攻撃許可要請・・・・・要請承認、破壊許可。』
「展開!」
僕はフライングシールドとソードサテライトを展開、ジグランデ人を撃ち抜くべく狙っている触手を切り刻む!
僕とラファは勢いもそのまま、墜落するように着地した。
着地の衝撃が全身を走る。地面には亀裂が走っていた。
助けたジグランデ人をちらりと確認する、重傷だが生きている・・・・、って、ヒロムか!?
コアは依然として飛び立つ状態でない。にも拘わらず隠ぺいが解除されたのは、ヒロム達ジグランデ人がコアを攻撃し一定のダメージを与えたからだろう。
ヒロムはボロボロだ、周囲にはジグランデ人の部隊だろう人達が多数。誰一人として無事な状態ではない。
彼らは、この傍若無人な侵略者相手に挑み、多大な犠牲を払いつつも追い詰めたのだ。
僕はこみ上げる思いが自然と言葉で出た。
「すごいな、ヒロム。」
「あとは、まかせて。」
ラファは僕の気持ちを代弁するように続く。
「え、アマクサにラファ?」
ヒロムはまだ事態が把握できていないようだ。まあ、とりあえず休んどいてくれ。
こいつらは僕らが始末する。
第14戦隊の4隻が周囲に近づいてくる。
「ジジルア中佐、周囲のヴァリアントをお願いします。」
「わかった。レガシの確保、頼むぞ。」
ジジルア中佐の言葉の直後、4隻の艦艇から一気にレーザーが照射される。
まるでレーザーが雨の様に地上に降り注ぎ、ヴァリアントを焼き尽くしていく。
僕はコアに向き直る。銀色の木は中心に手のひらサイズの銀の卵が据えられ、怪しげな光を放っている。
明らかにこれまでと異なる反応。異なる様相。
『物体からレガシの固有反応を確認。データベース照合、該当あり。名称、"白銀の侵略者"と推測。』
「ついに見つけたぞ。」