4.海賊
『外部ハッチが強制解放されました。侵入されます。』
船内各所に備え付けの非常用バックパックを手に、リビング・ダイニングルームから飛び出す、通路にすでに3人の侵入者がいた。僕を見ると手にした小銃を構えた。
物陰に隠れる。隠れた壁に小銃が乱射され、着弾する。
『対象からの攻撃行動を確認、対象を敵性勢力と断定、銀河連邦管理者へ攻撃許可要請・・・・・要請承認、制圧許可。』
バックパックを背中に取り付け、起動と念じる。バックパックが展開し、格納されていた護身用軽装甲エグゾスーツが装着される。フルフェイスが頭部を覆い、視界隅に全身の状態が表示される。
腰のスタングレネードを投げる。廊下の先で激しい閃光と音が発する。物陰から飛び出し、目や耳を押さえて呻いている3人にスタンナックルを当て、無力化する。
「アイ、船内の侵入者の位置をプロットしてくれ。」
視界隅に船内マップが表示される。マップに赤い点が動いている。残り7か。
廊下の先に3人まとまっている。
『対象を同様の敵性勢力と断定、銀河連邦管理者からの制圧許可適用。』
同勢力と判断できれば、以下同様的に、許可適用できるんだ・・・・。
まだこちらには気が付いていない。一気に間合いを詰め、気づかれる前に2人を無力化。残った1人が小銃を構えるが、銃口を上に逸らして、スタンナックルを当てる。
残りは4人、全員外部ハッチの場所にいるな。
外部ハッチ手前の曲がり角から様子を伺う。外部ハッチは開け放たれたままだ。ハッチの向こう側はこいつらの乗ってきた船か。3人はこちら側、1人は向こうの船にいる。
『対象を同様の敵性勢力と断定、銀河連邦管理者からの制圧許可適用。』
再び制圧許可が適用される。
しかし、4人同時は多いな、スタングレネード使うか・・・・。
「ぐえ、」
逆側の通路から箱のようなものが飛来し、1人が昏倒、その隙をに全身黒い男が飛びかかる。
「が、」「うが」
全身黒い男は棒状の武器で、さらに2人を昏倒させていた。だが、敵船側の1人に気付いてない。狙われている。僕は焦って飛び出し、残りの1人にスタンナックルの端子を飛ばし感電させた。
「予定通り、うまくいったな。」
黒い男の仮面がフードに格納され、男はフードを外した。中からリックが現れる。右手に持っていた特殊警棒のような武器はコートの中へ仕舞った。あのコートは一応武装だったのか。
「1人完全に見落としてなかったか?」
リックは驚いたような顔をした。
「お前が倒すって、はじめっから織り込み済みだ。」
呆れてツッコミを入れる気も失せた。バックパック格納と念じる。スーツは元通りにバックパックに格納される。
「船も立派だとは思ってたが、なかなかすごい装備だな。それ一個くんない?」
警備艇を呼び、10人の海賊と海賊船を引き渡した。
「そんじゃ、続きと行きますか。」
リックは再び水鏡に向かって手を翳す。
「これは・・・・・・・・。」
リックは再び沈黙した。
「羅針盤の場所、分かったのか?」
「ああ、まあ、一応、な。」
リックは言いづらそうに答えた。
『外部通信です。お繋しますか?』
アイが通信の受信を伝えてきた。毎回毎回、いいところで邪魔が入るな・・・・。
「・・・・? 誰だ? とりあえず繋いでくれ。」
画面には燃えるような赤い髪を湛え、ついでに結構な皮下脂肪も湛え、それでいて仕立ての良いスーツと貴金属に身を固めた中年が映し出された。
「こちらはコルンだ。サロマナで大手の商会である、サロマニック商会を経営しておる。」
「僕はユウだ。はじめましてコルン氏。僕はまだサロマナに到着したばかりで、着陸もしていないんだが、なんのご用ですか?」
何とも不遜なコルンの態度に、僕の少々ぶっきらぼうに返す。
「到着早々、海賊に襲われるとは災難ですなぁ。しかし、見事海賊を撃退されたとか。ずいぶんと腕の立つ。」
「・・・・・・それは、まあ、それなりに旅慣れておりますので。それよりも、こんなサロマナのまさにお膝元で海賊行為とは、こちらの海賊は豪快ですね。」
「うむ、商会を率いる身としても困っておりましてな。」
少々揺さぶってみたが、こんな程度では全く動じないか。タイミングといい、なんとも胡散臭さの目立つ男だ。
「・・・・おっと、ところでそっちにいるのはリックですかな?」
振り返るとリックは後ろを向いていたが、ギクッと音が聞こえそうなほど過剰に反応していた。
「いや、今はレイヴンだったかな。」
「リックだ。」
リックは暗い声でコルンに返す。
「久しぶりだのぅ。元気そうでなによりだ。せっかく帰ってきたんだったら、わしに連絡ぐらいくれてもよかろう?」
リックは先ほどの暗い声が無かったように、明るい雰囲気で答えた。
「まだ着いたばかりで、これから大気圏に入ろうってところだったんだよ。もちろんあとで連絡するつもりだったぜ?」
「なら、着陸して落ち着いたら、ぜひ連絡してくれ。久しぶりに食事でもしようじゃないか。」
「ああ。」
「それとユウ殿でしたかな、わしも商売柄、腕の立つ人間は常に不足しとりましてな。よろしければ、リックともども、食事でもどうですかな?」
「時間がとれましたら、また連絡させていただきます。」
「ぐっはっは、ぜひとも、お待ちしておりますぞ。」
画面からコルンが消えた。
リックを見る。無表情で考えていることは分からない。
「古い馴染みだよ、もともとサロマナに住んでたからな。」
「・・・・・そうか。」
あまり、話したいことでも無いようだし、追求するのはやめた。叩くまでも無く、埃まみれな男であることは共通見解だろう。
重要なことを思い出した。
「それで、羅針盤は?」
「ああ、羅針盤はな・・・・・、ゴミ捨て場だ。」




